もう10年以上前、男性誌発のムーブメントとして<ちょい不良(ワル)オヤジ>という言葉が流行った。40歳代後半以上をターゲットに「ファッションやグルメを諦めず、若い女性とも付き合おう!」と煽る企画だったが、いろいろと無理があってすぐに廃れた(笑)。 だが2018年1月4日の東京ドームには、文字通りの凄い<ちょい不良(ワル)オヤジ>が居た。クリス・ジェリコ――ファッションやグルメの達人などではなく、47歳のプロレスラーだ。

 新日本プロレス恒例の1.4(イッテンヨン)、年間最大イベント「WRESTLE KINGDOM12 」ダブルメーンエベント第一試合に組まれた王者ケニー・オメガvsクリス・ジェリコのIWGP USヘビー級タイトルマッチは、発表された時点で世界的反響を呼んだ。 …ともにカナダのウィニペグという小さな町の出身、ともに日本と深い縁を持ち、世界最大の米団体WWEのスーパースターだった男と、WWEからの誘いを断っている男。幾重にも物語が詰まっている組み合わせだったからだ。そして、もう一つ。47歳の大ベテランが、全盛期の真っ只中にいる34歳の王者に挑んだ<世代闘争>でもあった。

 ノーDQ(反則)マッチで行われた試合は、壮絶を究めた。椅子でのぶっ叩きあいから、放送機材をぶつけたり、リング下のテーブルの上へ叩き落としたり。しかし、時間の経過とともに明らかにジェリコのスタミナが切れてきた。勢いにまかせて突っ込んでくるケニーの攻撃を受け、肩で大きく息をしてツラそうな表情を見せるように――が、ジェリコの真骨頂はここから。巧妙に間を取り、スタミナの快復を図りつつ、ケニーの矛先を逸らす。スカしたかと思うと、何十年も共に闘ってきた必殺技を繰り出す。ライオンサルト、コードブレイカー、そしてウォール・オブ・ジェリコ(逆エビ固め)…。どんなに疲労困憊してようと、得意技がブレたり、失敗しないのはさすが。

 …ちょうど、この試合の二つ前に行われたIWGP Jrヘビー級選手権。そこではスピーディで瞬きする間も無い攻防が行われていた。ひとつのムーブが、その次の次のムーブに必ず繋がるような~~口の悪い人は「組体操のようだ」という~~動きが連続して行われる試合だ。多かれ少なかれ、現代の最先端として多くの試合で見られる傾向には違いない。だが、この夜のジェリコは自分のペースに相手のケニーと、3万5000人の観衆を引き込んだ。間が、次への期待と何ともいえない色気を醸しだしていく。さらにジェリコは、故・冬木弘道さん、故・エディ・ゲレロさんら時代を共にした往年の名レスラーのムーブも披露。天国と会場の同世代の胸を熱くした。「いい若手が出てきて、追っかけ回される立場になったが…オレは頑張ってるぜ」と言わんばかりに。

 大急ぎで駆け抜ける青春ではなく、一歩一歩味わうように歩む。経験と記憶が武器になる「大人のプロレス」がそこにあった。 そして最後は今を生きるケニーの必殺技・片翼の天使にジェリコは沈んだ。椅子や凶器が飛び交い、二人の男が殴り合い、叩きつけあったのに、観ている者に感傷と感動を深く刻む。極上の試合を見せてくれたのだ。

 試合後のジェリコは「もう日本には二度と来ない」と断言して各方面を残念がらせた…が、翌日の後楽園ホール大会に現れて内藤哲也を襲って見せた(笑)。この食えない<ちょい不良(ワル)オヤジ>っぷりが、もうしばらく日本で見られるのは、プロレスファンとして最高に幸せだ。

文・田中 寧

ちょい不良プロレスラー「クリス・ジェリコ」が見せた”キャリア”とは何か?(写真はイメージです)