日本の出場全17試合を分析 戦術的に劣勢だった2010年デンマーク戦と2014年コートジボワール戦

 日本代表が出場した過去5大会のワールドカップ(W杯)を見直してみた。初出場の1998年フランス大会から2014年ブラジル大会までの全17試合だ。

 戦術的な観点で見た時、完敗していたのは2010年大会のグループリーグ(GL)第3戦のデンマーク戦と、2014年大会のGL第1戦コートジボワール戦だ。デンマーク戦は3-1で日本が勝っている。FW本田圭佑、MF遠藤保仁の直接FKとFW岡崎慎司のゴール、3得点は17試合でこのデンマーク戦だけだ。印象としては日本の快勝だった。ところが見直してみると、戦術的には負けていた試合だった。コートジボワール戦は1-2と、試合にも負けている。

 デンマーク戦とコートジボワール戦の共通点は、どちらも相手チームのビルドアップを阻止できる守備になっていなかったということだ。その点でこの2試合は非常によく似ていて、デンマークに勝てたのは相手に戦術的な優位性を生かせるほどの技術がなかったからだ。

 日本の自陣側、ハーフウェーラインとペナルティーエリアの間の地域を縦に5つに区切ってみると分かりやすい(図1・2参照)。デンマークとコートジボワールは、いずれも5つのレーンに人を配置して攻撃している。対する日本は5つのレーンを埋められていない。

 そのためビルドアップの起点となるフリーな選手を、相手に作られていた。このフリーマンに対してプレッシャーをかけるため、日本の選手がレーンをまたいで動くと、その動きを利用して相手チームがボールを前進させていくという流れである。つまり、デンマークとコートジボワールは意図どおりのパスワークができていて、日本が後手に回っていた試合だった。

日本が劣勢を強いられた左サイドのレーン

 ちなみにフィールドを縦に5分割する見方は、「5レーン理論」として近年知られるようになったが、2010年の段階で当時のモアテン・オルセン監督率いるデンマークは、明確に「5レーン」を意識してプレーしている。こういう用語は現象の後追いなので、8年前のデンマークがそれを使っていても、なんの不思議もない。まだ、名前がついていなかっただけだ。

 先に記憶に新しい2014年大会のコートジボワール戦から見ていくと、コートジボワールのフォーメーションは4-2-3-1で、5レーンには1トップと2人のセンターバックを除く7人が入っていた。一番外のレーンは2人ずつ(サイドハーフとサイドバック)、あとは1人ずつの配置だ。

 対する日本のフォーメーションも4-2-3-1だが、守備時の形は4-4-2だった。2トップ(FW大迫勇也と本田)は相手のセンターバック2人をマークしているので、5レーンを埋めているのはMF4人とサイドバック2人の計6人である。つまり、コートジボワールに対して1人少ない。

 コートジボワールのフリーマンは右ボランチのMFシェイク・ティオテ。ティオテがコートジボワールから見て右から2つめのレーンで攻撃の起点になっている。日本は左サイドハーフのMF香川真司が一番外のレーンから内側へ移動してティオテにプレスするのだが、そうすると外側のレーンを上がってくる右サイドバック、DFセルジュ・オーリエがフリーになる。

 さらにコートジボワールの右サイドハーフ(FWジェルビーニョ)は、対峙するDF長友佑都を引き連れて内側のレーンに移動するので大外のレーンががら空きとなり、オーリエが高い位置へ進出。守備が得意でない香川が、相手の起点となるティオテと大外のオーリエの2人に対応しなければならない構図にした時点で、コートジボワールの戦術的な優位が決まっている。

3得点で快勝も後手を踏み続けたデンマーク戦

 一方、2010年大会で戦ったデンマークは、5レーンの中央でMFクリスチャン・ポウルセンが攻撃の起点になった。この時の日本のフォーメーションは4-5-1なので、5レーンにおける数的不利は発生していない。しかし、C・ポウルセンは中央でフリーになっている。MF中央の噛み合わせがずれていたからだ。

 日本がMF阿部勇樹を底に置き、その前にMF長谷部誠と遠藤を並べたトライアングルだったのに対し、デンマークの中盤はトップ下のFWヨン・ダール・トマソンに2ボランチなのでマッチアップは噛み合うはずだった。ところが、C・ポウルセンはビルドアップ時に中央のレーンへ移動するのでフリーになっていたのだ。

 当然、日本は自分のレーンに敵がいないMF(主に遠藤)がレーンを移動してC・ポウルセンの対応へ向かう。すると、デンマークは外のレーンにいたウイングハーフ(FWデニス・ロンメダール)が中へ移動して、日本のMFが空けたレーンへ侵入。同時に右サイドバックが空いた大外のレーンを縦に前進する。日本としては人数不足ではないので混乱なく守れそうなのだが、実際には大外を縦に前進するサイドバックに対して長友とFW大久保嘉人の間で受け渡しをするので、その時にどちらかのマークが遅れていた。

 デンマークはC・ポウルセンが1つレーンを移動することで日本のマークのずれを生み出し、そのずれを修正しようとする動きを利用して攻め込んでいた。この試合の日本の守備はずっと後手で、やられなかったのはデンマークがフリーになっている選手を上手く使えていなかったからだ。

 バヒド・ハリルホジッチ監督はアジア予選の途中で、5レーンを5人で埋める守備に変えているので、ロシアW杯で大きな混乱はないと思う。また、5レーンを支配できても得点に結びつきにくくなった傾向も、2016年の欧州選手権では表れていた。

 ただ、組み合った段階での有利不利は試合全体に影響を与える。相手の仕掛けに対処し、逆に日本が仕掛けていく――5レーンを巡る攻防は、ロシアW杯での見どころの一つになるはずだ。

【了】

西部謙司●文 text by Kenji Nishibe

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

 

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