芥川賞作家・吉田修一の代表作にして大ベストラー小説『悪人』が、ふたり芝居として新たに立ち上がる。殺人を犯してしまった祐一を演じるのは中村蒼。彼との逃避行を決行する光代に扮するのは美波。2016年に、『乳房』『檀』の2作のふたり芝居を手がけて高い評価を得た合津直枝が台本・演出を務める。ふたりだけで演じる舞台ならではの濃密さで見せる『悪人』は、何を伝えるだろうか。

舞台『悪人』チケット情報

あまり例のないことだが、中村と美波は今回、一度本読みをしてからチラシ撮影に臨んだのだという。芝居の世界観を感じてカメラの前に立ってほしいという合津の希望によるものであり、その成果はしっかりとビジュアルに刻み込まれた。

「祐一と光代はふたりとも孤独で、だからこそ惹かれ合ったんだと思います。でも、逃亡の果てに捕まっても、祐一は自分ひとりが悪いんだと、最後まで本当のことは明かさない。その祐一の気持ちを思うと、愛すべき人だと思わずにはいられなかったですね」と言うのは中村。美波も「本を読んでいちばんに思ったのは、祐一は悪くないということ」ときっぱり。「だから、祐一と光代を見ているととてもつらくなるんですけど。でも、見届けることが必要だと思うんです」。

『悪人』の舞台化は、光代をもう少しだけ救ってやりたいという合津の思いが発端だった。光代にとってあの逃亡の日々は決して不幸なものではなかったという気持ちで書いた台本に原作者の吉田も共感。実現にこぎつけた。ふたりだけで物語ることになる空間は、その合津の思いをより濃く深く届けることになるだろう。

「ふたりだけなので、その分、美波さんとその場の雰囲気とか距離感で演じられるのではないかなと思います。美波さんは自分にはまったくないような感覚を持っている方だなと思うので、それに自分がついていけるかっていうドキドキはありますけど(笑)、すごく楽しみです」という中村に対して、「中村さんは私が何をやっても受け止めてくださる包容力がありそう(笑)」と応える美波。さらには、「劇場が小さいので、その空間自体が物語になっていくと思うんです。だから、観てくださる方たちも証人になるというか。お客様にも責任があると思える空間になったらいいなと思っています。そして、一瞬でもきらめく希望を、みなさんと共有できれば」と力強く語る。最後に中村も「この孤独なふたりを観てくださる人が愛してくれればいいですね」。なぜ『悪人』が人の心を打つのか。劇場だから体感できることがあるはずだ。

公演は3月29日(木)からシアタートラムでの東京公演ののち、4月15日(日)に兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホールでも上演。チケットの一般発売は1月14日(日)午前10時より。

取材・文:大内弓子
中村蒼、美波