評価する側も、評価される側も納得できる「人材評価」をするには、どうすればいいのでしょうか。日本IBMでエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャーを務めていた木部智之氏は、「2軸思考を使えば『プレイヤー』か『リーダー』か、ということも、必ずフェアに評価できる」といいます。 その具体的な方法とは――。

※本稿は、木部智之『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■「好き嫌い」を排除した人材評価をするには?

テストの点数で客観的に順位をつけることができた学校とは異なり、会社組織では、ある人のことを「あの人は優秀だ」と言う人もいれば、「いや、人を動かすのが苦手だからダメだよ」と言う人もいて、困難をきわめます。

組織で働いている以上、人を評価しなくてはいけない場面が必ずありますが、ついつい主観が混ざり、曖昧な部分を完全に払拭することは難しいです。

実は、このようなときに「2軸思考」を使うとフェアな評価をすることができます。

「2軸思考」とは、タテ軸とヨコ軸の2本の線を引いて枠をつくり、そこで複雑な問題を整理していく方法です。

例えば、あなたが、業績がかんばしくない組織の新任マネジャーにアサインされたとしましょう。

上司からは「早々に組織を立て直してくれ」と言われています。しかしあなたは、その組織にいる20人の部下がどのようなスキルを持っているのかわからない状況です。

この状況で、「2軸思考」を使って人材評価をすることを考えてみましょう。

■マトリクスタイプの2軸で、評価を「定量化」する

まず、ゴールが「組織(チーム)の立て直し」ということであれば、「(1)現在のメンバーの能力を把握」して、さらに中長期的には「(2)メンバー育成も考える」必要があります。

1つめの「(1)現在のメンバーの能力を把握」ですが、マトリクスタイプの2軸で整理して、メンバーのスキルを定量的に評価します。

タテ軸は20人の「メンバー」で、ヨコ軸に「評価すべきスキル」を書き出します。

例えば、私が携わっているシステム開発の場合は、「ITスキル」「管理スキル」「リーダーシップ」「コミュニケーション」「英語」などのスキルが考えられます。

それらについて、5段階評価で採点して記入していきます。

このケースでは、新任の自分は新しい部門メンバーのスキルがわからないので、他の誰かに採点を行ってもらいます。

自分で採点できる場合は自分で行いますが、より客観的にするには他の人にその点数を見直してもらうのがいいでしょう。複数の人が主観的にチェックをすることで、客観的な定量評価に近づけられるようになります。

■4象限タイプの2軸で、「プレイヤー」「リーダー」に仕分けする

マトリクスタイプに整理できたら、今度はそれをインプットにして、4象限タイプで人材評価をしていきます。

ここでは、マトリクスにある複数のスキルの中から「ITスキル」と「リーダーシップ」の2つを軸に選択し、4象限で評価することにします。

この2つを軸に選択した理由は、「技術的な専門スキルの有無」を重要視し、さらに「組織をまとめるリーダーとしてのスキルがあるか」を評価したいためです。

つまり、新しく担当する部門に、「プレイヤーとリーダーがどれくらいいるか?」を把握したいと思ったからです。

この結果、新しい組織の20人のスキル分布が図表2のようであることがわかりました。

右上のセグメント(1)はITスキルとリーダーシップのどちらもスキルが高く、総合力の高い人材のエリアです。逆に、左下のセグメント(4)はいずれのスキルも低いことを示しています。そして、セグメント(2)と(3)はそれぞれ、ITスキルかリーダーシップの一方のスキルが高いという評価になります。

■チーム力を最大化する作戦を立てる

組織の人材のポジショニングが把握できたので、これを元に、組織を立て直す作戦を考えます。

まず、リーダー候補となるのは「セグメント(1)」(右上)か「セグメント(2)」(左上)に位置するメンバーです。リーダーシップに加えてITスキルを備えていると万能ですが、ITスキルがなくてもリーダーシップがあれば組織をリードすることはできます。

一方、ITスキルが長けている人は、できるだけ技術的に難しい仕事を担当させることで本人の強みを生かすことができます。

「セグメント(4)」に位置する人材は、若手が多く育成対象となります。メンターをつけるなど、できるだけ早く成長できるような策を考えます。もし、このエリアにシニアなメンバーがいた場合、そのメンバーは育成対象ではありません。残念ですが、配置換えや、難易度・重要度の低いタスクをアサインするなど、別の策が必要になります。

このように、組織の人材のスキル分布が「見える化」されると、体制の組み方、依頼するタスクの種類の検討がよりクリアになり、適切な策を打つことができます。

また、セグメントごとの人数のバラツキも評価することができます。

一般的にバランスのいい組織は図表3のように、セグメント(1)から(4)に向けて要員数が増えていきます。しかし、現実の組織ではこのバランスが崩れている場合があります。

例えば、セグメント(1)の要員数が多い場合は上が詰まってしまい、組織が硬直している可能性があります。スキルと経験は上がっても、役職・ポジションが上がらないケースです。

本来であれば、スキルと経験の積み重ねとともに役職とポジションが上がるべきです。いくら仕事で成果を出してもポジションが上がらないなら、セグメント(1)のメンバーのモチベーション低下の可能性が懸念されます。

セグメント(4)が少ない場合は、中期的視野で組織力を見た場合、成長が鈍化する懸念があります。

このように、4象限とピラミッド組織構造とを見比べて組織の人材評価をすることもできます。

■2軸の評価は、「天才プログラマー」を埋没させない

人事評価(人材を点数で評価すること)は、どこの会社も実施していますが、どうしても「総合的に点数が高い順に並べる」など「1軸」で評価しがちです。

1軸の総合点だけで評価してしまうと、それぞれの人材の個々のスキルレベルが平均点としてならされて長所・短所が見えず、組織として「適材適所」の配置ができなくなることになります。

例えば、ITの世界では、「天才プログラマー」と言われるタイプの人材が存在します。彼らはプログラミングの技術は突出していますが、リーダーには向かないタイプの人が多かったりします。「だからダメ」ということではなく、それを正しく把握した上で、技術的エリアで活躍できる仕事を渡すのがリーダーの仕事です。

■2軸の評価は、個人のキャリア相談にも使える

2軸のスキル評価は組織のスキル評価だけでなく、個人のキャリアを考える上でも役立ちます。私は部下と定期的にキャリア面談を行っていますが、そのときに4象限の図を書いて話をしています。

ITスキルとリーダーシップの4象限を見ながら、「いまの自分のポジション」を共通認識し、中期的に「自分が狙っていきたいポジション」を確認します。そして、それを踏まえて「今年の重点スキルエリアを何にするか」を考えるのです。

ひとつの2軸フレームワークを前に話し合うので、誤解も生まれにくく、またメンバーもぼんやりした目標ではなく具体的に自分が中期的に進むべき道がわかり、そのためには今年をどのような位置づけにすべきなのかを把握できるようになります。

この評価法は、上司が部下を評価するだけでなく、自分で自分のキャリアを確認する上でも役立ちます。時には自分を客観的な目で見つめる機会を持つことをオススメします。

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木部 智之(きべ・ともゆき)
元日本IBMエグゼクティブ・プロジェクト・マネジャー。横浜国立大学大学院環境情報学府工学研究科修了。2002年に日本IBMにシステム・エンジニアとして入社。2017年より現職。著書に『複雑な問題が一瞬でシンプルになる2軸思考』『仕事が速い人は「見えないところ」で何をしているのか?』(以上、KADOKAWA)がある。

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