Image: Gettyimages

何の落ち度もなかったのにトイレに流され(おそらく)命を落としたペブルスさん、RIP。

大切にしていたパートナーの犬を「最後の訓練」として殺すか否か苦渋の選択を強いるのは、映画『キングスマン』の1コマ。スパイとして生きていくための覚悟過去への決別を意味する儀式であり、一般人にはそうそう降りかかってくる問題ではありません。

しかし、21歳の女子大生ベレン・アルデコシアさんは、航空会社からそんな映画宛らの選択を迫られてしまったのです。一体何故そんなことになってしまったのでしょうか。

ベレンさんは、それまで通っていたフロリダ州マイアミのバリー大学から、ペンシルバニア州チャンバーズハーブのウィルソン・カレッジに編入してきました。しかし編入後、首にゴルフボール大の腫瘍が見つかったのです。癌ではないかと不安な日々を過ごしていましたが、幸いにもその腫瘍は痛みがあったものの良性であることがわかりました。しかし、地元を離れての寮生活と、腫瘍による痛みから精神を病むようになったのです。

そこで彼女は癒し効果を求めてハムスターペブルズさん(後の被害者)をエモーショナル・サポート・アニマル(ESA)として迎えることに。手のひらサイズの愛らしいペブルズさんのお陰で、気持ちは明るくなりました。しかし動物を愛でるだけでは痛みは和らがないので、最終的にカレッジをやめて腫瘍の摘出手術をしにフロリダに戻ることにしたのです。

彼女が購入したチケットは、メリーランド州ボルチモア・ワシントン国際航空からフロリダ州フォート・ローダーデール国際空港へ向かうスピリット航空格安航空券事前にESAのペブルスさんを同乗させていいかどうか問い合わせの電話を入れ、「問題なし」との返答をもらいました。11月21日、ベレンさんは準備万端、小さいカゴにペブルスさんを入れて空港に向かったのでした。

空港に着くとチェックインカウンターでペブルスさんがESAであることを証明する書類を提出しました。その時スピリット航空の職員は何も言いませんでしたが、セキュリティー検査の前になって追いかけてきた同航空会社のスタッフから、ハムスターの搭乗は許可できず、また貨物室にも入れられないことを告げられたのです。

バレンさんは驚き、スタッフと話し合いを持ちましたがハムスターの搭乗は許可されず、そうこうしている内に予約の飛行機を逃してしまい、夜便に振り替えることに。

バレンさんは、ペブルズさんの身の安全を確保するためにレンタカー会社に問い合わせましたが、ホリデーシーズンのために車の空きはありませんでした。長距離バスのグレイハウンドという手がありましたが、それだとフロリダ到着までに時間がかかってしまい、病院の予約に間に合わなくなってしまいます。結局、預かってくれる友達も見つからず途方にくれた彼女に向かって、職員がこう言ったそうです。

「ハムスターを外に逃がすか、トイレに流してください」

この時点で、バレンさんに重度のストレスがかかっていたのは想像に難くありません。追い詰められたバレンさんは、ベブルスさんを、自分を支え常に癒してくれていたセラピーアニマルを、トイレに流すことにしたのです。

もちろん、言われたからといって「はいそうですか」と流したのではありません。寒空の下で凍死してしまうかもしれない、車に轢かれてしまうかもしれない。野生動物の餌になってしまう可能性だってあるでしょう。ベレンさんは、ペブルスさんに襲いかかるであろう数々の恐怖を想像し、「それならトイレに流した方がペブルスにとっても幸せ」という判断に至ったのです。

彼女(ペブルス)は怖がっていました。私も本当に怖かった。彼女をトイレに流そうとするなんて…。怖くて怖くて、私は泣いていました。トイレの中で10分は泣いていたと思います。

愛するペブルスさんを自らの手で殺すという恐ろしい体験をしたベレンさんは、後日、スピリット航空に抗議のメールを送りました。同社からは一部都市への無料航空券がオファーされたそうですが、彼女はこれを拒否しています。そして、事前に確認したにも関わらず直前になって翻されたこと、極限の状態で最悪の決断を強いられたことを理由に、現在スピリット航空を告訴する準備を始めているそうです。

なお、スピリット航空側は、ベレンさんに誤解を与えるような発言をしてしまったことを認めた上で「スタッフの誰一人としてハムスターをトイレに流すように指示していない」と主張しています。

近年、ESAの搭乗に関して様々なケースが報告されています。最近ではセラピーアニマルのクジャク搭乗拒否されてニュースになりましたし、2014年にはESAのブタ粗相をした上に騒いでしまって飼い主と一緒に降ろされ話題になりました。

去年9月には、犬アレルギーだという女性が近くに座っていたセラピー犬とペット犬の2匹を下ろしてくれるように頼んだものの、彼女本人が犬アレルギーを証明する書類を持っていなかったため、「機内の秩序を乱した」という理由で警官によって引き摺り下ろされる事案が発生しました。

また、動物のサポートを必要としているわけでもないのに、愛するペットと一緒に搭乗したいからというワガママでESAを悪用する人がいることも問題視されています。

ESAの飛行機問題は今後も出てくることでしょう。人間、動物関わらず安全な空の旅を楽しむためにも、航空会社にはESAに関する明確な規定を作って欲しいものです。



Image: Gettyimages

Alex Cranz - Gizmodo[原文
中川真知子