今回のテーマは「バレンタイン」だ。しかし、私のバレンタインはソシャゲのバレンタインイベントで、推しキャラにチョコレートをあげた時点で完全に完結してしまった。「今年のバレンタイン」ではない。「バレンタイン」という概念自体が終わったのだ。

この話をしだすと本当に長いのでやめておくが、そもそもバレンタインに浮かれている人間などごく一部であり、女にしたら面倒な代物だ。男にしても、もらえなかったらもらえなかったで無意味にプライドを傷つけられるし、もらったらでどうでもいい義理チョコへお返しをしなくてはならず面倒という、何も得がない層がかなりいるのではないか。

それを考えると、「無関係層」はまだ恵まれている。会社なら、女子社員全員に「男性社員に義理チョコをあげる」という感覚がなく、男子社員も「もらう」という発想がない。恵方巻の話の方がまだ盛り上がっている職場だ。「関係がない」というのは「楽」なのである。

片や、「女子社員はお金を出し合って男子社員全員にチョコレートを配る(買出しは新人の役目)」というような、姥捨てや生贄に匹敵する、悪しき因習を残した会社も、いまだ存在するという。平成も終わろうかというのに驚きだ。これは、男尊女卑とかいう前に男も大して尊を感じていなさそう。つまり、誰も得していない気がしてならない。

私は幸い、バレンタインはもちろん、クリスマスまで無視している「イベント無視村」に住んでいるので、面倒ごとに巻き込まれることはないのだが、自分自身もリアルバレンタインを無視していいかというと否である。夫にはバレンタインに、忘れずにチョコレートをあげなければならない。今年は推しキャラにチョコレートをあげた時点で、バレンタインという言葉が世界から消失してしまったので、本当に危ないところだった。

私が夫にプレゼントをあげるなど、誕生日とバレンタインしかないのである。ただでさえ、あまり一緒にいることがない上、会話も少ない我々だ。よって、「要所」は外すわけにはいかない。言わば、「こう見えてお前のことを忘れているわけではないのだ」という「生存確認」的な意味で、誕生日・結婚記念日・バレンタインなどは重要なのだ。

逆に、そこを外すといよいよ感が出てくるし、相手もあまり気分がよろしくないだろう。自分だって、そうは言っても誕生日を忘れられたら嫌なはずだ。よって、これを書いているのが2月13日なので、明日忘れずに夫に何かあげなければならぬのだ。

バレンタインの概念以前に、「締め切り」という概念が消失している気がするが、これにはわけがある。「バレンタイン」というお題を無視して、全く違う話を書いてしまったからだ。なぜなら、私のバレンタインは推しにチョコレートをあげた時点で爆発終了を迎えたため、「コラムのテーマがバレンタイン」なんて、記憶から消滅していて当たり前である。

だから、「今回のテーマは『バレンタイン』です」という担当の言葉を、「初めて聞いたよ」という顔で、今、13日にバレンタインの原稿を書いているのだ。しかし、原稿は前日に書いているのに、夫へのバレンタインプレゼントはまだ買っていない。

これは例年通りであり、大体当日買っている。何を買うか、というと「何か」だ。バレンタインの贈り物だと分かる「何か」を渡す。こういうのは気持ち、形なのだ。「バレンタインに忘れず何かをあげた」という事実こそが必要なのだ。何をあげたかは大したことではない。

そもそも、夫はそんなに甘いものが好きというわけではない。スナック菓子ですら、買って数カ月寝かしていたりするのだ。チョコレートなんて年単位の熟成をしかねない。よって例年、コンビニで買った、量が少ないゴディバ的なものを渡していた。

しかし、去年ぐらいからこうも思い始めた。「形だけだからこそ、逆にコンビニで買ったと分かる方がまずくないか」と。調べて見たところ、我が県にはゴディバの店舗が車で2時間の距離に1店舗しかない。よって、「むしろゴディバを出したら百発百中、コンビニと分かる」という罠みたいな仕様なのだ。

よって、去年からコンビニはやめて、洋菓子店で「何か」を買っている。だが、値段自体はコンビニのゴディバと大差ない。甘いものが好きでもない配偶者に渡す、形だけのチョコレートでもここまで考えねばならぬ。やはり、バレンタインというのは悪しき風習だ。

○筆者プロフィール: カレー沢薫

漫画家・コラムニスト。1982年生まれ。会社員として働きながら二足のわらじで執筆活動を行う。デビュー作「クレムリン」(2009年)以降、「国家の猫ムラヤマ」、「バイトのコーメイくん」、「アンモラル・カスタマイズZ」(いずれも2012年)、「ニコニコはんしょくアクマ」(2013年)、「負ける技術」(2014年、文庫版2015年)、Web連載漫画「ヤリへん」(2015年)など切れ味鋭い作品を次々と生み出す。「やわらかい。課長起田総司」単行本は全3巻発売中。
(カレー沢薫)

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