お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

 前回に引き続き、新橋「酒と肴 ひらの」店主の瀬川大地さんにご登場いただいての『酒器も肴のうち』第35献。さっそく、香酒盃の話から。焼酎の香りを楽しむために開発された陶製グラスで日本酒を提供するというのだけれど…。

「器だけを温めて、それに常温の日本酒を入れてお出しするんです。ときどき熟成古酒をこのスタイルで提供すると、面白いねとおっしゃるお客さまも多い。熟成香が優しくふんわりと感じられるんですよね。近所のバーのマスターから教えてもらいました(笑)」(瀬川さん・以下同)

 器を握ると何の疑いもなく温かいお酒が入っているという錯覚に陥る。口元でふーふーと息を吹きこみ、いざ飲んでみると、えっ!? ぬるっっ。なんじゃこりゃ! というギャップが面白い。まんまとどっきりに引っかかってしまった気分だが、燗をつけていないのに、ふわりとよい香り。面白い感覚だ。この手法を伝授したバーのマスターにもぜひ当コラムにご登場していただきたい。

 さて、チロリに始まり、焼酎グラスの罠にまではまり、十分楽しませていただいたところで、最後は冷酒の酒器について。実は瀬川さん、半年前までは「酒と肴 ひらの」の常客だったという。引退を考えていた当時のご主人から店を継いでくれないかと相談を受けたのが昨夏のこと。勤めていた会社を辞めてなんの迷いもなく引き継いで今に至る。

「以前のご主人は受け皿に蛇の目の一合猪口を置いて盛りこぼしで提供していました。日本酒ならではの風情ある振る舞いですよね。

 今はいろんなお酒を味わってもらいたいという思いもあって基本的には半合でお出ししています。ご希望があればその半分での提供もします。飲み比べて好みのお酒を見つけていただければ」

 冷酒のグラスは日本酒用につくられたものだという。実際持ってみると、グリップ感がちょうどいい。ワイングラスほど気取った感じもなければ、コップ酒の大衆感や場末感とも違う。ちょうどその中間に存在するかのようなグラスだ。おすすめのお酒を並べてもらいながら、瀬川さんにお店で扱う日本酒を選ぶ基準を伺ってみた。

「なにかしらご縁がある蔵元さんのものを独断で選んでいることが多いですね。私は宮城、父は秋田、母は福島出身で三県ともいいお酒がたくさんありますよね(うんうん、深く頷く筆者)。あとは、個人的な好みで見学させてもらった蔵元さんのお酒や、共同経営スタッフの身内が富山で酒造りをしていて、そこのお酒とか」

 人と人との出会い、人とお酒の出会い。「これもなにかの縁」と言いたくなることが実際よくある(ないですか?)。この日は赤鬼のイラストが描かれたお酒が気になり、聞いてみると先ほど話していた富山・氷見の蔵元のものだという。もう何年も前に氷見線に揺られて氷見漁港を訪れたことを思い出した。酒蔵のある氷見へ思いを馳せて、一献。これもなにかの縁。

●DATA

「酒と肴 ひらの」

住:東京都港区新橋3-13-7
TEL:03-3435-8630
営:17:00~24:00(食事のみ23:00L.O.)
休:日・祝日
Facebook >> https://www.facebook.com/shimbashihirano/

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。

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