爪切男。38歳。派遣社員。肩書を問うと「ただの冴えない派遣社員です。何でもいい」と笑った。

 ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』が「面白い!」と話題を呼び、同人誌即売会・文学フリマには『夫のちんぽが入らない』著者こだまとともに参加して腕を鳴らした。稀有な実体験に悲哀とユーモアをまぶして綴るのが爪氏の特徴。このたび、その集大成とも呼ぶべき青春小説『死にたい夜にかぎって』を上梓したばかりの本人を直撃した。

――本書には、初体験相手だった車椅子の女性や、カルト宗教にハマる恋人などさまざまな女性が登場します。なぜ“恋愛”をテーマに選んだのでしょうか。

爪:幼少期に母に捨てられたことがトラウマで、女性に強い憧れと憎しみを抱いて生きてきました。それでも出会った女性たちは醜い私からすればみな天使みたいな存在で。そんな自分の話を聞いてほしかった。親父も言ってました。『女はいいぞ』って。母に逃げられた親父が言うのだから間違いない。

――物語は6年同棲した恋人アスカとの関係を軸に進んでいきます。

爪:新宿で自分の唾を売り歩いて生計を立てるすごい女でした。鬱病で、仕事も家事もろくにできない。とんでもない浮気性で、しかもすぐバレる。SEXはマグロだし、いいところが本当にない……。

――それでも「最愛の女」だったと。

爪:はい、本当に笑顔が可愛いんです。ろくでもない毎日でうまく笑えなくなっていた私に笑顔を取り戻してくれたのが彼女でした。アスカにも結局は捨てられてしまいましたが、感謝の気持ちでいっぱいです。他の誰のためでもない、自分のために、女性たちへの感謝を込めて書きました。みんな揃いも揃って最高で最悪な女でした。

――本書には恋愛以外にも、父との確執や自身の借金生活などつらい日々が描かれています。それらすら笑い飛ばす文体は爽快でした。

爪:世の中に悲しいだけの出来事なんてないはずです。一方向から見たら、それは当然悲しいけれど、別方向から見たらそうでもなかったりします。貧乏で内職していたときは『手先が器用になる』と思ったし、借金は『働く理由ができた』と思えばいい。不幸自慢なんてしたくない。全部楽しかった。

 生きていればしんどくて“死にたい夜”もあるけれど、爪氏の文章はそんな人々に優しく寄り添う。これからの作家として注目だ。

取材・文/高石智一、写真/藤井敦年