藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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東京都が制作し、22日に発表したPR動画「東京2020 オリンピック・パラリンピック、あなたは誰と観ますか?」がマイナスの意味で話題だ。「結婚に向けた気運醸成のための動画」と位置づけられているそうなのだが、これが未婚者だけでなく、幅広い層からの不愉快感、押し付けがましい結婚誘導であると批判されているのだ。

「結婚に向けた気運醸成のための動画」というコンセプトの是非や、それとオリンピック・パラリンピックと連動させる安直さについての議論はこの際おいておくとして、改めて注目すべきは、このPR動画に3000万円の税金が投入されている、という現実だ。

この動画を見れば誰でも感じるであろうことだが、最大60秒の動画に一般公開される日本の低予算映画なみの3000万円という予算が投入されていることに驚かされる。もちろん、予算と映像の尺(長さ)ことを言っているのではない。映像やデザインコンテンツとは大きさやサイズと予算が必ずしもイコールではないからだ。わずかな時間や小さいものに高度で最先端の技術、多くの人のエネルギーを込めて作られる「名作」「秀作」は多い。

しかし、今回の東京都のPR動画を見ても、そんな「名作感」「秀作感」は感じない。もちろん、発表記者会見で述べられたような「結婚に向けた気運醸造」といったメッセージも伝わってこない。むしろ、チープで時代遅れなファミリードラマのようなセンスのなさばかりが印象付けられる。

もちろん、大手の広告代理店や映像制作会社が入り、それなりのマーケティングや印象調査などをして、企画を組み、制作しているのであろう。だからこそ、3000万円という大きな予算がかかっているのだろうが、一方でそれでなぜ、このように絶望的にセンスの悪い映像になっているのかが理解に苦しむ。

【参考】<コレジャナイ>東京五輪公式アニメグッズの絶望的なダサさ

コンセプトや発想の稚拙さだけならまだしも、人気俳優が出ているわけでも、すごい技術、美しい映像、日本らしい貴重なコンテンツが組み込まれているわけでもない。保険の勧誘ビデオのような作りにも関わらず、1964年の東京オリンピックの映像とともに流れる「2001年宇宙の旅」のテーマ曲(ツァラトゥストラはかく語りき)のようなBGMも違和感が満点だ。バラエティ番組の「再現映像」を彷彿とさせるこのPR動画の一体どこに3000万円の税金がかかっているのか、まったく理解ができない。

未婚者対して不愉快感を与えるような配慮のなさもさることながら、「この映像のどこにそんなお金がかかっている?」と疑問を感じる人は筆者だけではあるまい。低予算で頑張っている有能な映画監督たちや、プロ志向の大学の映像サークルや小劇場系の劇団などの方が、はるかに安い価格でこの映像より素晴らしい映像が制作できるだろう。

東京都も気鋭で若手の映像作家に限定して、人材育成の意味も含めたコンペなどで作品を募るなどする発想があれば、はるかに安価に良質なものを仕上げることができたのではないか。東京都の広報予算がからすれば「ただ同然」の金額でも、若手やフリーの映像作家やデザイナーなどからすれば高額に感じる金額になるはずだ。そういった作家たちに作ってもらった方がはるかに素晴らしいものができるだろうし、より日本らしい、日本ブランディングにも期するする映像ができるはずだ。

そして何より、「オリンピック・パラリンピックを誰と観ますか」というテーマ自体が、あまりに前時代的な発想だ。

筆者は既婚者であり、子供もいる。父母・兄弟もいる。しかし、仮にオリンピック・パラリンピックを観るとしても、多分、一人だ。理由などない。そういうライフスタイルであるからだ。家族といても楽しいが、一人でも十分楽しい。今日の日本において、ワイワイガヤガヤとオリンピックが放送されるテレビを囲むような「お茶の間」は空間的にも状況的にも少なくなっているのだろうから、当然だ。ネットで観るならなおさらである。

そうではなく、実際にチケットを購入して試合会場まで夫婦、恋人同士で足を運ぶことを想定しているのだろうか? だとすればさらにナンセンスだ。従来よりもチケット価格を安くする、という方策を打ち出している東京オリンピック2020のチケット平均価格は7700円の予定であるという。それでも、開会式は2500015万円と高額であり、陸上や水泳などの人気競技の決勝などは最高3万円と決して安いとは言えない金額になる。若いカップルが人気競技を観て盛り上がり、思い出を作り、結婚へと想いを馳せる・・・という90年代型トレンディドラマなことを実現させるためには、ペアで数万円のコストがかかるわけだ。

余裕のないであろう若いカップルが、普段は絶対に観ていない競技(マイナー競技はもとより、水泳や陸上でさえそうだろう)に対して、オリンピック・パラリンピックだからといって数万円を払わせることを想定しているのだろうか。一方で、「オリンピックならなんでもイイ」という発想で、安価なチケットの競技に行くというのも妙な話だ。

メディアが多様化している今日、「誰と観ますか?」という問い対する回答は、2020年であれば「一人でネットで観ます」という人が世代・性別・未婚既婚の区別なくダントツの一位であると思う。オリンピックと結婚や恋愛を結びつけるほど今日の日本人、特に若者たちは娯楽に飢えていないのだ。

今回のPR動画に限った話ではないが、東京都のオリンピック・パラリンピックの関連デザインに対する絶望的なセンスの悪さには本当に驚かされる。