ロッシーニの『チェネレントラ』がフェスティバルホールで上演される。「チェネレントラ」とはイタリア語で「シンデレラ」のこと。今オペラ界でもっとも注目されているメッゾソプラノ、脇園彩がシンデレラの物語を歌い演じる。しかもそれが大阪だけの出演とあって、東京や海外からも聴きに来るオペラ・ファンがいるという話題の公演である。

大阪芸術大学デザイン学科在学生の金珉志(キム・ミンジ)さんが制作した、「チェネレントラ」フェスティバルホール公演のチラシデザイン

大阪芸術大学デザイン学科在学生の金珉志(キム・ミンジ)さんが制作した、「チェネレントラ」フェスティバルホール公演のチラシデザイン

『セビリャの理髪師』や『ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)』序曲で広く知られるロッシーニ。今年は没後150年にあたり、記念の演奏会が数多く開かれている。ロッシーニは近年ブームとなっている作曲家で、『セビリャの理髪師』のようなオペラ・ブッファ(コミカルなオペラ)だけでなく、オペラ・セリアという悲劇的なジャンルの作品も世界的に上演が進んでいる。『チェネレントラ』は『セビリャの理髪師』が発表された翌年、1817年にローマで初演された。コミカルなだけのオペラ・ブッファではなく、主人公のシンデレラ(このオペラの中ではアンジェリーナという名前)とラミーロ王子の間の真摯な愛が描かれた名作となっている。

ジョアキーノ・ロッシーニ

ジョアキーノ・ロッシーニ

ドニゼッティ歌劇場『ラ・ピッコラ・チェネレントラ』より舞台写真 ラミーロ

ドニゼッティ歌劇場『ラ・ピッコラ・チェネレントラ』より舞台写真 ラミーロ

シンデレラといえば魔法使いの助けをかりて舞踏会に行き王子様と恋に落ち、宮殿を立ち去る時に落としたガラスの靴が足にぴったりはまって幸せになる、というストーリーで有名だ。ところがロッシーニはヒロイン役を、もっと強い女性として描いている。義理の父親と姉たちにいじわるされながらもけなげに生きるアンジェリーナは、王子の家庭教師に見出され、従僕に変装した王子と彼の身分を知らないで恋に落ちる。単なるラッキー・ガールではなく、自分自身の心根の優しさとしっかりした性格で、本当に愛する人との人生を勝ち取る娘の話なのだ。

ロッシーニはこの物語に最高の音楽を書いた。胸の高鳴りを示す活き活きとしたリズム。アンジェリーナの歌う旋律の美しさはイタリア・オペラの真髄を示している。そして〈アジリタ〉というロッシーニの音楽を彩る早いパッセージの装飾歌唱。それは恋の輝きを表現する花火が次々に打ちあげられていくようなめくるめく瞬間なのである。

『チェネレントラ』の上演には超絶技巧を持ったロッシーニ歌手が必要だ。そこで登場するのがオペラ界の若きスター、脇園彩である。脇園は東京藝大大学院を卒業するとすぐにイタリアに留学。そこでロッシーニ演奏の最高峰と言われるロッシーニ・オペラ・フェスティバルとミラノ・スカラ座のアカデミーに学び、現在はイタリアを中心に活躍している。今年の夏にはロッシーニ・オペラ・フェスティバル『セビリャの理髪師』にロジーナ役で主演することが決まっている。

脇園 彩  (C)井村重人

脇園 彩 (C)井村重人

2017年のロッシーニ・オペラ・フェスティバル(イタリア、ペーザロ)にて。オペラ「試金石」の主役、クラリーチェを演じる脇園彩 (C)Studio Amati Bacciardi

2017年のロッシーニ・オペラ・フェスティバル(イタリア、ペーザロ)にて。オペラ「試金石」の主役、クラリーチェを演じる脇園彩 (C)Studio Amati Bacciardi

脇園 彩 (メッゾ・ソプラノ)
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学院修士オペラ専攻修了。在学中に安宅賞、卒業時にアカンサス音楽賞・同声会賞受賞。国際コンクール新しい声 2013 セミファイナリスト。2013年10月より文化庁新進芸術家海外研修員として渡伊、パルマ国立音楽院を経て、ミラノ・スカラ座研修所修了。14年ペーザロにて『ランスへの旅』メリベーア侯爵夫人役でイタリアデビュー。スカラ座には同年11月に『ラ・チェネレントラ』(短縮版)のヒロインでデビューし、翌年『セビリアの理髪師』ロジーナ役でも成功を収めた。以降、ヴェローナやボローニャ他イタリア各地の重要な歌劇場や音楽祭に主要な役で出演。17年には『試金石』のヒロイン役でロッシーニ・オペラ・フェスティヴァルにデビューを果たした。イタリアを中心に活動しながら、M.デヴィーア、B.M.カゾーニの各氏に師事し研鑽を積む。世界的に重要な指揮者や演出家らからの信頼も厚く、現在最も注目される若手アーティストのひとりである。

 

深く暖かみのあるメッゾソプラノの声は、ロッシーニの超絶技巧を楽々こなす高い技術を持っている。それに加えて脇園の一番の魅力は、舞台の登場人物になり切る能力である。彼女は演劇の俳優を目指していた両親の影響で子どもの頃から舞台や映画に親しみ、ミュージカル女優になるために音大に入学したという。そして学生の時に観たメトロポリタン歌劇場来日公演『ラ・トラヴィアータ(椿姫)』に感銘を受け、オペラ歌手になることを決心した。

「歌が大好きでしたが、演じることも好きでした。オペラの舞台に立つ時には、その場所に、その役として存在していることが自分の理想なんです。」

脇園 彩 (撮影:狩野常雄)

脇園 彩 (撮影:狩野常雄)

イタリアで出会った恩師たちからは、ロッシーニ歌唱の意味を教わったという。指揮者、研究者、そして教育者として今日のロッシーニ・ブームを生み出したアルベルト・ゼッダはその一人で、昨年惜しくも世を去ったが、脇園の声を見出した重要人物であった。

「ゼッダ先生は〈アジリタ〉という装飾歌唱の技術について、テクニックのひけらかしになってはいけない、といつもおっしゃっていました。なぜその細かい音符、パッセージがあるのか。どんな感情やシチュエーションをロッシーニが描きたかったのかをまず考えなさいと。実はロッシーニが〈アジリタ〉を書いている部分は、悲しさや喜びなどの感情のボルテージがMAXになってしまった時に、それを越えた状態を表現するためにあるんです。ですから歌手はその意図を汲み、テクニックを感情の表出のために使わなくてはいけないんです。」

2017年のロッシーニ・オペラ・フェスティバル(イタリア、ペーザロ)にて。オペラ「試金石」の主役、クラリーチェを演じる脇園彩 (C)Studio Amati Bacciardi

2017年のロッシーニ・オペラ・フェスティバル(イタリア、ペーザロ)にて。オペラ「試金石」の主役、クラリーチェを演じる脇園彩 (C)Studio Amati Bacciardi

ロッシーニの音楽の中で超絶技巧は、テクニックのひけらかしのためではなく、人の心を表現する手段として使われる。今回の『チェネレントラ』では、オペラの最後に脇園が歌う有名なアリア「苦しみと涙のうちに生まれ」でその至芸を聴くことが出来る。

「楽譜に書かれた音楽が、いまそこで生まれているような歌を歌えたら最高だと思います。一流の芸術家たちは、彼ら自身ではなく、その役となって舞台に存在していると思うんです。自分を消すわけではないけれど、自分が前に出るのではなく、音楽や作品がこんなにも素晴らしい、ということを表現するために舞台に立ちたいです。」

脇園 彩 (撮影:狩野常雄)

脇園 彩 (撮影:狩野常雄)

今回の『チェネレントラ』上演は脇園の他にも、ラミーロ王子を歌う小堀勇介、家庭教師アリドーロを歌う伊藤貴之など、ロッシーニの歌唱で高い評価を受けている歌手が勢揃いしている。そしてイタリア・オペラ、特にロッシーニのエキスパートである園田隆一郎の指揮と、イタリアならではの美しい舞台作りに定評があるフランチェスコ・ベッロットの演出。最高の『チェネレントラ』になることは間違いないだろう。

園田隆一郎 (C)Fabio Parenzan

園田隆一郎 (C)Fabio Parenzan

フランチェスコ・ベッロット(演出家)

フランチェスコ・ベッロット(演出家)

取材・文=井内美香

公演情報
第56回大阪国際フェスティバル2018
大阪国際フェスティバル×藤原歌劇団×日本センチェリー交響楽団
ロッシーニ作曲 オペラ『チェネレントラ』

全2幕/原語(イタリア語)上演・日本語字幕付き
※2008年 伊ベルガモ・ドニゼッティ歌劇場"La Piccola Cenerentola"のプロダクション(フル・バージョン改訂)

 
■日時:2018年5月12日(土) 14:00開演(13:00開場)※上演時間約3時間
■会場:フェスティバルホール(大阪府)

 
■台本:ヤーコポ・フェッレッティ
■音楽:ジョアキーノ・ロッシーニ
■指揮:園田隆一郎
■演出:フランチェスコ・ベッロット
■演出補:ピエーラ・ラヴァージオ
■舞台美術:アンジェロ・サーラ
■舞台美術補・衣裳:アルフレード・コルノ
■照明:クラウディオ・シュミット
■管弦楽:日本センチュリー交響楽団
■合唱:藤原歌劇団合唱部
■キャスト:
〈チェネレントラ・灰かぶり娘〉アンジェリーナ:脇園 彩
〈王子〉ラミーロ:小堀 勇介
〈従者〉ダンディーニ:押川 浩士
〈男爵〉ドン・マニフィコ:谷 友博
〈姉〉クロリンダ:光岡 暁恵
〈姉〉ティズベ:米谷 朋子
〈家庭教師〉アリドーロ:伊藤 貴之

 
■チケット料金:
S席12,000円、A席8,000円、B席6,000円、BOX席16,000円、
バルコニーBOX席(2席セット)24,000円 学生席1,000円
母の日チケット(S席ペア券)24,000円/ビュッフェ・コーナーで利用できるご飲食券1,000円×2枚付き(公演当日のみ有効)。
※未就学児童入場不可 
※全席指定・税込
※バルコニーBOX席はフェスティバルホール チケットセンター(電話予約)のみの販売
※母の日チケットはフェスティバルホール チケットセンターの電話予約&窓口販売のみ

※学生席はフェスティバルホール チケットセンターのみの販売(限定100席/25歳以下/学生本人の名前で予約のこと。当日座席指定券と引き換え/要学生証提示)
※やむを得ない事情により曲目、出演者等が一部変更になる場合がございます。
※公演中止の場合を除き、チケットの変更・払い戻しはできません。予めご了承ください。

 
■主催:朝日新聞文化財団、朝日新聞社、大阪国際フェスティバル協会、日本オペラ振興会、
■日本センチュリー交響楽団、フェスティバルホール
■後援:イタリア文化会館-大阪、日本ロッシーニ協会
■協力:大阪芸術大学
■問い合わせ先:フェスティバルホール  06-6231-2236
■公式サイト:http://www.festivalhall.jp

 
【あらすじ】
ドン・マニフィコ男爵の城。クロリンダとティズベの姉妹は、継子のチェネレントラ(灰かぶり娘)ことアンジェリーナをこき使う毎日。城に物乞いの老人(ラミーロ王子の家庭教師アリドーロ。王子の花嫁候補を探すために変装している)が現れると、チェネレントラは食べ物を差し出すが、姉妹は冷たい。ラミーロ王子が従者に変装して登場、チェネレントラと出会い、二人は恋に落ちる。王子に変装した従者ダンディーニが現れ、王子の花嫁選びのため宮殿の舞踏会へ男爵家を招待する。アリドーロは留守番のチェネレントラを宮殿へ送り出す。宮殿に突如現れた美女。だが皆はチェネレントラだと気づかない。チェネレントラは偽王子ダンディ―ニに「従者(実は王子)を愛しています」と告げ、片方の腕輪を渡して立ち去る。物陰でそれを聞いた王子は喜び、チェネレントラを探す。そしてついに二人は……

オペラ『チェネレントラ』満喫講座
■日時:2018年5月12日(土)11:00-12
:15 料金(S席チケット含む):14,000円(消費税込み)
■内容:11:00-11:45講座(見どころ、オペラ制作について)/11:45-12:15バックステージ見学
■会場:フェスティバルホール
■講師:仁科岡彦(公益財団法人日本オペラ振興会・事業部長)
■講座と公演チケット(S席)のセット券を販売します。※申込先着順。定員になり次第締め切り。
・ご予約: 朝日カルチャーセンター中之島(06-6222-5224)
■ホームページ: http://www.asahiculture.jp/
■主催:朝日新聞社、朝日新聞文化財団、朝日カルチャーセンター
ドニゼッティ歌劇場『ラ・ピッコラ・チェネレントラ』より舞台写真 ラミーロ&アンジェリーナ