『ゆきゆきて、神軍』などで強烈なキャラクターを撮って来た原一男監督の新作ドキュメンタリー映画『ニッポン国VS泉南石綿村』が3月10日から東京・ユーロスペースなどで公開される。

最高裁で国の責任を認めさせた「泉南アスベスト訴訟」の原告団に8年以上密着し、複雑な感情の機微を記録した215分だ。

2月13日、都内の日本外国特派員協会で会見があり、原監督は「(これまでの被写体と違い)『ごく普通の人』と私たちが呼んでいる人にカメラを向けて、いかに面白いエンターテインメント・ドキュメンタリーが撮れるかに意識がかなり向いていました」と語った。

●制作中、21人が亡くなった

映画の主人公は、アスベスト(石綿)工場が多くあった大阪・泉南地域の元工場労働者や家族ら。石綿の健康被害を知りながら、経済成長を優先させたとして、国の責任を問う裁判を起こした。当時も工場労働者の地位は高くなく、原告団には地方出身や朝鮮半島にルーツを持つ人もいた。

裁判が始まった2006年から撮影を始め、国の責任を認めた2014年の最高裁判決や、2015年1月の塩崎恭久厚労相(当時)の泉南謝罪訪問などを収めている。制作中、肺がんなどで亡くなった原告は21人になるという。

●大臣の謝罪パフォーマンスに「感動した」の声、原監督「怒りが込み上げて来た」

映画では、国が原告団と正面から向き合うことを避ける姿が描かれている。たとえば、田村憲久厚労相(当時)との直接面会を求め、原告団が21日間にわたって、厚労省で官僚と対峙する2014年5〜6月のシーン。厚労省からは若手官僚が1〜2人出席するだけで、大臣どころか担当部局の役人すら出て来ない。

原監督は「誰か一人ぐらい『じゃあ、俺が説明してくるよ』という上司がいるかと期待していたが、最後まで出て来なかった。『これは見事だ』と思ってカメラを回していました」とチクリ。

一方、こんなあしらわれ方をしたのに、同年10月に最高裁判決が出て、塩崎厚労相(当時)が謝罪すると原告団からは「大臣を信頼している」「感動した」といった声が上がる。

「晴天の霹靂で、『うそーっ』という気持ちで、怒りが込み上げて来た。大好きな人たちだけど、『言っちゃいけないでしょ、その一言は』と思って、カメラを回していました」

国を相手に立ち上がった原告たちの怒りは、裁判制度の中に押し込められ、長い闘争の中で抑えられていく。映像からは、そんな原告たちへの敬意やもどかしさ、怒り、愛おしさが感じられる。

「日本の民衆と言われる人たちの『功罪』を描いてみようと無意識のうちに考えたんだろうなと、映画を作り終えた今思っています」

原監督は微笑みを浮かべつつ、「普通の人、生活者、庶民と言われる人たちの『人のよさ』を憎みます。それがメッセージです、この映画の」と話していた。

●次回作は水俣病「2018年中に仕上げる」

原監督は今作と並行して、10年以上、熊本県で水俣病の取材をしているという。「2018年中に仕上げてみせると、固く自分に言い聞かせています」とも語った。

(弁護士ドットコムニュース)

原一男監督の最新作「泉南アスベスト訴訟」 原告団に「怒りが込み上げて来た」瞬間