2018年1月27日、米ニューヨーク・タイムズ紙が興味深い長編記事を掲載した。

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 そのタイトルは、「フォロワー工場」で、サブタイトルは「みんなネット上で人気者になりたい。だからそのためにカネを払う。ソーシャルメディアのブラックマーケットの内側とは」となっている。

 この記事では、数多くの米国の著名人が、「Devumi(デヴミ)」というソーシャルメディアのマーケティング会社からTwitterのフォロワーなどを購入していることが内部資料から明らかにされた。

 近年、米国でこの手の記事が散見される。ソーシャルメディアなどインターネット上のサービスが多額を生み出すビジネスとなっている今、改めて、偽フォロワーなどソーシャルメディアの“不正行為”が注目されているのである。

 筆者も最近、中東に暮らす知人から、ちょうど「いいね」サービスの裏側について話を聞いたばかりだった。そんなことから、ソーシャルメディアのこうしたズルい行為がなぜ問題視されるべきなのか探ってみたい。実はこうした行為は決して看過できないものなのである。

●フォロワーを買っていたのは20万人以上

 今、ネット上では、Twitterなどの購入は日常的に行われている。例えば「twitter follower buy」と英語で検索をかけると、いくつものサービスが検索のトップに広告として現れる。

 ニューヨーク・タイムズの記事を見るまでもなく、以前より、そんなサービスに需要と供給があるのは知られている。だが今回の記事で特筆すべきは、Devumiという企業が、実在する人物の写真やプロフィールを“盗み”、名前を一文字違いにするなどして、あたかも実在する人物がフォローしているかのように見せていた、といった手口だった。他人のTwitterのプロフィールを盗むなどして作られたフェイクのアカウントが使われ、多くのアカウントはボット化(自動化)され、同社はフォロワーや「いいね」を売っていた。

 フォロワーを買っていたと暴露された人の数は20万人以上にも上る。その長いリストには、リアリティ番組の出演者やコメディアン、プロのアスリートや牧師もいた。さらに作家やジャーナリスト、そして驚くことに、Twitter社の女性取締役もフォロワーを購入していた。大手テック企業の創業者も購入者だった。

 中国の国営通信社である新華社通信も、Devumiから数十万のフォロワーとリツイートを購入していた。ちなみに中国ではTwitterは禁じられているため、国外で投稿を拡散させたり、国外での支持を多く見せるために、世界に向けたプロパガンダの一環としてフォロワーやリツイートを水増ししていていたことになる。

 もちろんこうした行為はTwitterだけで行われているのではない。FacebookやInstagramでも偽アカウントは問題視されている。またYouTubeの再生回数も買える。

 フェイクのアカウントはこんな使途もある。16年の米大統領選挙ではロシアの情報機関が大量にFacebookでフェイクのアカウントを作り、民主党のヒラリー・クリントン候補に不利になるようなフェイクニュースなどをばらまき、「いいね」を押したり、シェアしたりしていたのである。シェアが多い投稿はユーザーのページ上位に表示され、人の目に付きやすくなる。こうした行為が政府を巻き込んだ大騒動に発展し、当初はその指摘を否定していたFacebook側も調査を行うことになった。

 結果、17年11月、Facebook社は投資家らに対して、偽アカウントの数が、それまで同社が見積もっていた数の倍にも上ることを認めた。この数は、少なくとも6000万人分にもなったとされ、数多くの偽アカウント(多くがスパムらしい)が存在していたことになる。個人の投稿やFacebookページ(企業や個人などが立ち上げることのできるWebサイトのようなページ)への「いいね」を売る業者もこうした偽アカウントを使っていると指摘されている。

●Twitterの偽アカウントは4800万アカウント

 Instagramでも偽フォロワーは過去に問題になっている。14年にInstagramが大量の偽アカウントを削除した際には、例えば米歌手のジャスティン・ビーバーは350万人のフォロワーが消滅することになったと大きく報じられた。

 一方でTwitterを見ると、偽アカウントは4800万アカウントにもなると言われている。17年の米議会の公聴会でTwitter社は、16年の米大統領選で最低でも3万6000件の偽アカウントが大量の偽メッセージをツイートしていたことを認めている。ちなにみ、特定のTwitterアカウントのフォロワーにどれだけ偽アカウントが含まれているのかを瞬時に計算してくれるサイトも存在する。

 ただこうしたアカウントをフォロワー購入や「いいね」購入ビジネスに使っても法的な違法行為には今のところならない。ただTwitter社はニューヨーク・タイムズの記事が出ることを察した時点で、偽アカウントの大量削除を行なったとみられており、多くの有名人のフォロワー数が急に減るなんていう事態になったとの報道もある。

 ならば、こうした行為の一体何が問題なのか。すでに述べた米大統領選のような政治的な影響力は言うまでもないが、それに加えて、単純に「ズルい」という側面がある。真のフォロワー数で勝負しないのは正々堂々としていないという声もあるだろう。もちろんそれは正しい意見だが、一般社会でも例えばイベントなどに「サクラ」が紛れているケースは多い。それもズルい行為だが、あまり公然と語られないだけで、人々は見て見ぬ振りをしている。

 フォロワーや「いいね」の数が、人気や注目度のひとつの指標になっていることを考えれば、大量のフォロワーを購入する人がいることも理解できる。Devumiの例に漏れず、現実に世界的なシンガーや俳優などもフォロワーを購入している疑いが指摘されている。例えばドナルド・トランプ大統領のTwitterのフォロワー4780万人のうち4割以上が偽アカウントで、過去に購入した可能性が指摘されている。

●若者たちがクリックしている現実

 では、どういう人たちがどのようにフォローや「いいね」を行なっているのか。Devumiでは偽アカウントやボットなどを駆使しているようだが、実は先日、そうした手口の一端が垣間見られる話を聞いた。

 昨年、筆者は中東のエジプトを取材で訪れ、その時に通訳として数日行動を共にしたエジプト人の知人が、移動中の車内でこんなことを言った。「お前はTwitterのアカウントや、Facebookのページを持っているのか? フォロワーの数はいくつだ? Facebookの『いいね』の数は?」

 さらに知人はこう畳み掛けた。「オレの知り合いに、TwitterやFacebookで、フォロワーになったり『いいね』を押す手伝いをしている奴がいる。紹介しようか?」

 明らかに怪しい話である。だからこそ、興味深い。筆者は帰国後に手伝いをしているというその人物とやりとりをし、フォロワーや「いいね」のサービスがどう行われているのかを尋ねてみた。

 「私が協力しているこのビジネスの運営をしているのは、インド人だ。ある時知り合いから、フォロワーや『いいね』のクリックをしてくれる人を探しているとのことで、私もFacebookの友だちにお願いするようになった。インド人が大量のアカウントを管理していて、いつでも動員をかけられるようにしている」という。特に「報酬」は受け取っていないが、最初に話をもってきたインド人の直接の知り合いはカネをもらっている可能性はあるとも指摘した。

 見返りもなくそんな手伝いをするとは思えないが、この人物はあくまでカネはもらっていないと主張した。ただ代わりに、自分のビジネスや投稿にしょっちゅう大量の「いいね」をしてもらっているという。おそらく自動に「いいね」するようシステム化されているのであろう。

 筆者は、実際にフォローや「いいね」をしている人物にも接触することができた。この人物は10代後半で、Facebookでは、メキシコの政治家から米国の作家、イスラエルのミュージシャンから台湾の会社社長など普通なら知り得ないと思われる人たちを含む7000件近い「いいね」を押している。

 この若者は最初は何を聞いても「no thanks」と答えてきたが、しつこく質問すると「友人に頼まれて、指定されたページに『いいね』をクリックした。カネはもらっていないよ」とメッセージしてきた。

 もちろんさまざまな形態やサービスがちまたには存在しているので、これはあくまで一例であるとこを断っておく。だが実際にフォローや「いいね」をして金もうけをしている人たちの下では、こうした中東などの若者たちがクリックをしている実態もある。

●日本でも真剣に議論を

 こんな話もある。17年に行われた米アイオワ大学などによる研究によると、Facebookの自分のアカウントへのアクセス権を業者に渡す(共有する)代わりに、投稿ごとに多くの「いいね」を瞬時に押してもらうサービスがネット上に50以上も存在していた。これらサービスはスパムの拡散など犯罪の温床にもなっていたが、Facebook側は直ちにその問題に対処したという。

 エジプトでの話を後日、日本で出版社幹部に話をすると、「フォロワーなどをサクッと増やしたいその誘惑にはかられないこともない」と笑っていた。その数が重要な意味を持つならば、広告費として購入して……と思わなくもないという。

 もっとも、その数に、人がどれほど価値を見ているのかは分からない。ただ米国のセレブたちや、中国の新華社通信などには、重要な意味をもっているということは確かだ。

 ソーシャルメディアが社会インフラのひとつになった今、こうしたズルい行為も中東など世界規模で繰り広げられている。社会的・政治的な影響力にもつながるこうした問題は、日本でももっと真剣に議論されてもいいのかもしれない。

(山田敏弘)

「いいね」を売る業者の実態は?