メガバンクが次々とリストラを発表し、若手行員には転職希望者が相次いでいる。かつて憧れのエリートコースだった「銀行員」は、受難の時代を迎えている。人事コンサルタントの新井健一氏は「今の銀行に『これからの時代に通用する人材』は育てられない。だが安定志向で銀行を選んだ人が、『次の安定』を求めて転職するのなら、それも厳しい」と語る。元銀行マンはどこへ向かうのか――。

■「海の王子」も銀行退職組

最近、メガバンクが次々とリストラ策を発表している。2017年11月、みずほフィナンシャルグループは26年度末までに1万9000人の従業員を削減すると発表した。また三菱UFJフィナンシャルグループは9500人分、三井住友フィナンシャルグループは4000人分の業務量を将来的に削減予定という。業務の削減量は3行合計で3万2500人分となる。

人材サービス大手のリクルートキャリアによれば、2017年上半期に転職希望者として転職サービスに新たに登録した銀行員の数は、前年から約3割も増えたという。銀行を退職する人間が続出しているのだ。

そう言えば、「海の王子」こと小室圭氏も、銀行を退職し、新たなキャリアを歩んだ若者の一人。今、銀行を辞めた人間は世間の注目を浴びている。転職を決めた若者たち、早期退職した人たちの人生は、はたして明るいのだろうか――。

銀行員といえば、元々はエリートコースだったはずだが、現状はかなり厳しいと言わざるをえない。

そもそも銀行が提供するサービスの多くは、水道やガス、電気の供給などと同じく、経済活動を支えるインフラの役目がある。だが、銀行が安全や安心を最優先する他のインフラビジネスと異なるのは、当然であるが常にカネが付いて回るという点であり、それゆえ不正や犯罪の温床になりやすい。そのために、監督官庁たる金融庁のガイドラインにのっとり構築された強固な内部統制システムのもとに、日々の業務が行われている。

■銀行の「減点主義」の弊害

では、このような内部統制システムのもとで行われる人事はどのようなものか? 実は、この人事制度が重要なポイントになる。

銀行の人事管理は、性善説に立たず、性悪説に基づいて行われる。内部統制システムとは、人的ミスや不正を予防するためのものであるから、強固な、そして万全なシステムを志向する発想の原点は、当然性悪説ということになるのだ。そして、勤務評定も加点主義ではなく減点主義を採用する。

加点主義とは、人材に求める最低限の姿勢や行動、成果のみを定め、そのうえで上振れする部分を積極的に評価していくものである。

一方の減点主義は、人材に求める「あるべき姿」をあらかじめ定義しておき、その上で下振れする(未達の)部分の評価を引いていくものである。

なお、人事評価において加点主義を採用するか、それとも減点主義を採用するか、そのいかんをマクロな視点で捉えるとこんなことが言える。

減点主義が、緻密に定義されたあるべき人材要件を基準として行われるということは、そもそもビジネスの基盤が安定(硬直化)し、仕事もおおよそ定型化してしまっているということなのである。

もちろんこれは、他業種や新興産業などとの比較においての話であるし、銀行内に存在するすべての業務がルーティーンだとは言わない。だが、不正や犯罪につながるような行為を防ぐためにあらゆる業務を「見える化」し、厳格な統制下に置いた上で行われる仕事とその成果に関する組織的理想は、誰が同じ仕事を手がけても同じ手順で、同じ判断で、同じ成果になることを目指すということなのだ。

そして当然であるが、このようなインフラビジネスの担い手である行員は、みな組織的理想の実現を絶対視するよう刷り込まれていく。

■「何もしないこと」に慣らされた行員たち

では、このような刷り込みを受けた行員のベストな立ち居振る舞いとはなにか?

そう、組織感覚力に優れた行員のベストな選択は、極端にいえば、日々大過なく勤務時間を終えること、すなわち定型業務をそつなくこなす以外は「何もしないこと」だ。

当然だが、そこには新しいことにチャレンジしようという発想はないし、そういうモチベーションも生まれにくい。むしろ、ミスをすれば評価が下がるような発想や行動などはもってのほかなのである。

だが、いまやAIの時代である。AIは安定したビジネス基盤や定型化された仕事が大好物だ。「仕様」の定まった仕事はなんでもAIに取り込まれ、AIのほうが優れた仕事をするようになる。

そうして銀行がたどり着いたのが、最近のリストラ策の公表と行員の転職希望者の急増である。

一部の銀行の内情は、あくまで筆者の知る限りではあるが、もっと以前から悲惨な状況だった。

これは実際に、地銀から民間の事業会社に転職した人物から聞いた話である。

銀行の支店において支店長の存在は今でも絶対であるが、某地銀の支店長が構える応接室には、いまだに竹刀が置かれているそうだ。そして夜の8時くらいになると支店長の腰巾着ともいえる課長が営業成績不良者に声をかけ、その応接室に連れていかれ、支店長が竹刀を片手に折檻をはじめるというのだ。

応接室からは竹刀を振るう音と、連れていかれた行員の悲鳴が聞こえてくる……。

筆者もはじめてこの話を聞いた時には、わが耳を疑った。コンプライアンスやハラスメントが叫ばれるこのご時世に、まだそんな職場があるのか……。

■ポストイットに「はやく、死んでくれ」

それだけではない。ある若い行員はこんなことも言っていた。同僚の行員からこんな電話がかかってきたのだと。同僚はこんな風に言って笑った。

「毎朝、自分の使っているデスクトップパソコンのモニターにポストイットが貼ってあるのだが、そのポストイットには毎日同じようにこんなことが書かれている。
それはこんな言葉だ。
『はやく、死んでくれ』
毎日、それをはがして机にしまっている。もうずいぶんたまったよ」
「誰がそんなことしているんだ?」
「支店長だ」

こんな異常事態に、本店はどうして対処しないのか?

筆者は思わず聞いてしまった。その若者はこう答えた。

「私たちのような肩書もないただの行員にとって、今でも支店長は絶対的な存在です。その支店長が、仮にどんなえげつない人物であっても、高い業績を上げている限りは、本店もコンプライアンス問題に目をつぶるのです。

ただ、業績を上げられなくなるとすぐに出向させられてその人は終わりです。銀行の子会社は銀行頼みの仕事をしているので、かつての支店長から仕事を紹介してくれと電話がかかってくるんです。われわれのようなかつての部下は、お世話になったと思う支店長には全力で仕事を回しますが、部下を虐げたかつての支店長の電話には誰も出ません」

この話、一般の会社に勤める友人に話すとみな目を見開いて驚くのだが、金融機関に勤める幾人かの友人に話してもそれほど驚く様子もなかった。

少なくとも現在の日本における銀行と、そこに勤める行員を取り巻く環境というのは、それほどひどいようなのだ。

■銀行員は「ビジョン構築力」が弱い

では、先の見えない銀行を離れて、元銀行員は新たなキャリアを築けるのだろうか。

企業人材のアセスメントを手がける会社のマネジャーからこんな話を聞いた。銀行員に対して能力アセスメントを実施すると、おおむね「ビジョン構築力」は弱く、「実行管理力」は強い傾向にある。この傾向は勤続年数が長くなればなるほど顕著になると。

ちなみにこの傾向は、当然であるが、自分の生涯キャリアに対する考え方にも影響を与える。

ここで、これからのキャリア設計をアカデミックな見地からも補足したい。われわれは今後、どんな心構えでこれからのキャリアを捉える必要があるのだろうか。そして生涯キャリアの構築に巧拙というものはあるのだろうか?

1999年に発表されたJ・D・クランボルツによる「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」を紹介したい。この理論はキャリア論としては新しい部類に入るが、昨今の「変化」がますます加速するビジネス環境や人事コンサルタントとしてのさまざまな見聞も踏まえると納得性が高い。

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【計画された偶発性理論】
・キャリアの80%は予期せぬ偶然の出来事によって支配される。
・将来の目標を明確に決めて、そこから逆算して計画的にキャリアをつくりこんでいくような方法は、現実的ではない。
・むしろ優柔不断なくらいでよく、それはオープンマインドな状態であって、予期せぬ出来事を柔軟に受け止められる。

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そして、クランボルツ教授は「偶然を意図的・計画的にチャンスに変える」ために発揮すべき5つの行動指針を示している。

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好奇心……絶えず新しい学習の機会を模索し続けること
持続性……失敗に屈せず、学習し続けること
楽観性……新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
柔軟性……こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
冒険心……結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

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参考:J・D・クランボルツ、A・S・レヴィン(著)、花田光世ら(訳)『その幸運は偶然ではないんです!』(ダイヤモンド社)

■成功したければ「銀行体質」を捨てよ!

銀行員の転職に話を戻そう。前述した銀行のシステムの中では、これらの5つの行動指針にもとづいた行動は、むしろ抑え込まれてしまうだろう。しかし、銀行員はもちろん、これからの時代のあらゆるビジネスパーソンには、この指針こそが求められるのだ。

彼らの転職が成功するか否かは、そもそもなぜ彼ら、彼女らが銀行員という職業に何を求めたのかを問い直すことからはじまる。

銀行員という職業に絶対的な安定性や保守性、他律性を求めて就いた人はまだまだ多い。そんな人が、ただ業績が悪い、将来の見通しが立たない、という後ろ向きの理由だけで転職するのであれば要注意だ。転職先にも同じものを求めるのであれば、残念ながらその転職は失敗する。

その一方で、銀行に入ってはみたが、いまの日本の銀行員という職業がどうしても合わない、合わなかったと心の底から思い、副業を含めて外を積極的に見ようとする人材、行動に移せる好奇心と冒険心のある人材であれば、どこに転職してもチャンスをつかむことができるはずだ。彼ら、彼女らの転職の成功には、銀行と銀行員という体質を捨てることが必要不可欠なのである。

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新井健一(あらい・けんいち)
経営コンサルタント/アジア・ひと・しくみ研究所代表取締役。1972年生まれ。早稲田大学卒業後、大手重機械メーカー、アーサーアンダーセン/朝日監査法人(現KPMG/あずさ監査法人)、同ビジネススクール責任者、医療・IT系ベンチャー企業役員を経て独立。大企業向けの経営人事コンサルティングから起業支援までコンサルティング・セミナーを展開。著書に、『「もう、できちゃったの!?」と周囲も驚く!先まわり仕事術』『いらない課長、すごい課長』『いらない部下、かわいい部下』『すごい上司』など。

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左から、みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行(写真=iStock.com/winhorse)、三井住友銀行(撮影=宇佐見 利明)