●複数で行う家探し、だからこそ全員が体験できるVRを
最近、不動産テックという言葉を耳にするようになったが、不動産業界では、先進術の採用が急速に進んでいる。そこで、昨年にiOSアプリ「LIFULL HOME’S」にAR機能を追加したLIFULLに、VRおよびARの導入について話を聞いた。
○住まいを体験してもらうためにVRを活用

LIFULLは以前から、モデルルームを3Dで体験できる「VRゴーグル」、バーチャル内覧アプリケーション「Room VR」を提供してきた。昨年、実店舗である「LIFULL HOME'S住まいの窓口」でIoT/AR/VRを活用した顧客体験など、Web上での新しい顧客体験の創出を推進するため、「 IoT/VRグループ」という新たなグループを設けた。同グループに所属しているのが寒川明好氏だ。

寒川氏は、「一般的には、新築マンション、中古住宅、注文住宅など、種別によって相談する窓口は分かれているケースが多いです。しかし、当社は1つの窓口ですべてのマーケットに対応しています。例えば、マンションと戸建てのどちらを購入しようか、迷っているお客さまの相談に乗ります。だからこそ、"体験してもらう"ことが大切なのです」と話す。

実際、同社は不動産+技術の世界を体験してもらうため、昨年11月に「LIFULL HOME’S 住まいの窓口 柏マルイ店」で、「最新不動産Techの体験会」を開催した。

同体験会では、KDDIが開発した「バーチャルアテンダントが案内するVR不動産コンテンツ」、ブロックで作った部屋の中をVRで体感できる「GRID VRICK」が展示された。

前者は、VR内でバーチャルアテンダントが不動産物件を案内するコンテンツで、VR空間に作られたモデルルームの中をバーチャルアテンダントとの会話やインタラクションを楽しみながら見学できる。後者は家づくりの3Dシミュレーターで、ブロックで作った間取りがリアルタイムで3D空間に現れ、その室内をVRでリアルに体験できるもの。

○体験会でさまざまな課題が明らかに

寒川氏は体験会を実施したことによって、さまざまな課題がわかったと話す。その1つは「機材が大がかりであること」だ。体験会ではHTC Viveを利用したそうだが、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とコントローラを装着する必要があり、若干物々しい姿になる。加えて、公の場でこれらの機器を装着するのも、体験をためらわせる要因となったようだ。

さらに、「女性の場合、HMDを着けると"お化粧がとれる"といった悩みもあるようです」と寒川氏。不動産の場合、女性の意見が購入や賃貸の決定を左右することが多い。よって、女性が体験してくれるかどうかは重要な要素と言える。

こうした事情から、コンテンツを体験してもらった人にはその良さを理解してもらえたが、体験してもらうまでにちょっと苦労があったという。

また、写真を見てもらえばわかるが、体験会では、壁の画面を通して、機器を装着していない人もVRコンテンツを体験することができる。一般に、VRコンテンツは機器を装着している人だけが体験でき、その場合、そばにいる人はデバイスにどんなコンテンツが投影されているのかがまったくわからない。

寒川氏は、「家探しは複数の人によって行われます。だから、体験会では、体験している人と同じVRコンテンツを見ることができるようにしました。とはいっても、『見る』と『体験する』では違います。全員が体験できるようにすることが、今後の課題です」と話す。

そのほか、ご存じの方もいると思うが、斜視などのリスクから、2眼のHMDとゴーグルは13歳未満の利用が非推奨とされている点も、VRコンテンツを提供する側にとっては課題の1つだ。

ただ、昨年から子供向けに単眼のHMDの開発が進んでいるようで、寒川氏は「今後、知見をためていくことで、課題を解決していけると思います」と語る。

●自社キャラクターが動き回るARアプリは好評
○他社アプリに対する強みは「ホームズくんと計測」

ARに関する直近のニュースとしては、昨年9月にiPhoneアプリ「LIFULL HOME’S」に搭載した機能「ARお部屋計測」をリリースしたことがある。同機能は、iPhoneのカメラをかざすだけで、簡単にお部屋のサイズが計ることができるもの。

「LIFULL HOME’S」は、GPS機能を利用して物件見学中に撮影した写真を部屋ごとに自動で分類して保存する「見学メモ」という機能を提供しているが、「ARお部屋計測」は同機能の追加機能となる。

住まいを探す場合、家具などを配置するために、部屋のサイズを計測することは必須だが、慣れていない人は内覧にきた際にメジャーを忘れてしまうこともある。そんな時、同アプリをスマートフォンにインストールしておけば、計測が可能だ。

計測の際は、同社のキャラクターであるホームズくんが現れて画面上を走り、室内を1cm単位で採寸する。LIFULL HOME'S事業本部 新UX開発部 デバイスソリューションユニット ディレクション・デザイングループ 大嶋祐子氏は、「他社もアプリで距離を測ることができる機能を提供していますが、当社の場合、ホームズくんと一緒に距離を測ることで、住まい探しを楽しむことができます」と話す。

「動くホームズくんがかわいい」とユーザーにも好評とのことだが、3Dのホームズくんの開発には苦労したそうだ。しかし、「ユーザーの方の声を聞くことで、苦労も忘れます」と大嶋氏。他社も同様のアプリを出しており、長い目で見ると、「ホームズくんが動くアプリ」という特徴は同社のブランディングにも一役買うと言えるだろう。

昨年、ゲーム「ポケモンGO」によって、ARの認知度が一気に高まったが、ARという言葉を知らない人も「ポケモンGOに搭載されている機能」というと、すぐにわかってもらえるそうで、VRに比べてARはとっつきやすいようだ。

○チャレンジ精神がAR/VRの活用を促進

LIFULLは、こうしたARやVRの取り組みを自発的なプロジェクトで行っているという。これには、新しいことにチャレンジすることを推奨する社風も関係しているようだ。

「ARお部屋計測」は、AppleのARに対応したアプリを開発するためのフレームワーク「ARKit」を用いて開発されているが、その前は、GoogleのAR技術を用いて開発を行っていた。GoogleのAR技術だが、今ではサポートを終了している。

しかし、大嶋氏は「技術はなくなってしまっても、その技術を用いた開発で培った経験はムダにならない」と語る。同社では、新たなことに挑戦し失敗したとしても、そこから学んだことがあるのでかまわないとする文化があるそうだ。「失敗したらどうしよう」と迷うくらいなら、早期に着手してそのアドバンテージを得ようというわけだ。

加えて、大嶋氏の部署では、企画、デザイン、エンジニアが在籍しているため、アイデアの創出とアプリの開発を社内で回せることも強みとなっている。一部の業務を他社に回すとなると、どうしてもタイムラグが生じたり、意思の疎通を図ることが難しかったりする。

ちなみに、同社では、事前に申請することで、クリエイターが業務時間の10%を関心のある分野のサービス開発にあてることが可能な制度があり、こうした制度も新規事業の創出に役立っていると言えよう。

各社それぞれ社内の事情はあるだろうが、ARやVRを活用することによって、これまでとは違う顧客体験を作り出すことができるようだ。少しでも自社のビジネスにメリットがあると思われるなら、一考の余地はあるのではないだろうか。
(今林敏子)

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