寄生バエを自分の体内で飼育し続けた昆虫学者
新刊JPニュース

 世界には様々な昆虫が生息しており、「節足動物」としてまとめると、地球上の生き物の85%がそれに当てはまると言われています。そんな多様多種な昆虫たちの生態を探るべく、豊かな生態系が広がる中米のコスタリカ共和国で昆虫の研究を行っている日本人研究者がいます。西田賢司さんです。

 西田さんは国立コスタリカ大学で昆虫学を学んだ後、コスタリカに留まり、探検昆虫学者として多くの新種や新生態を発見しています。しかし、昆虫の中には人に危害を加えるものも少なくなく、時には西田さんが自分の体を張って飼育を行うこともあるようで、西田さんがコスタリカの珍虫をレポートした『わっ!ヘンな虫』(徳間書店/刊)の中では、主に中南米に生息し、ヒトの皮膚下に寄生する「ヒトヒフバエ」を飼育する様子が、写真とともに語られています。

 コスタリカの国立公園での調査を終えた後、二か所ほどどうしても痒みが治まらない虫に刺された跡がありました。一か所は左腕の手首で、もう一か所はおへその横あたりです。
 日が経つにつれ、治まるばかりが逆に大きくなっていく腫れ。そして、刺されてから2週間ほど過ぎたころ、患部の中央に小さな穴があいていることが分かりました。その穴からは液がにじみ出ており、何かが穴を出入りする様子も見えます。
 これは一体何事かと大学の先生に聞くと、人の皮膚に寄生する「ヒトヒフバエ」の幼虫であることが分かりました。ヒトヒフバエは体長1〜2センチのハエで、メスは飛んでいる蚊に卵を産みつけ、その蚊を通して幼虫はヒトの皮膚に潜り込み、皮膚の下でリンパ液を食べて成長します。
人や家畜がいる場所に直接卵を産みにこないので、成虫のヒトヒフバエに出会うことはほとんどなく、大学には標本もありませんでした。そのため、西田さんは寄生した2匹をそのままにして飼育することにしたのです。

 幼虫の体には、かぎ針のようなトゲトゲがたくさんついており、そう簡単に皮膚の外へ引っ張り出せないようになっています。
 飼育開始から一ヶ月後、手首にいた幼虫が亡くなっているのが分かりました。西田さんは「その場所が肉薄だったからでは」とその原因を推測しています。一方、お腹の方にいる幼虫はすくすく育ち、火山のように膨らんだ皮膚の中央にある穴から、呼吸をするためにお尻にある管を出したり引っ込めたりします。また、その穴からはときどき溶岩のような液も噴き出したり、幼虫が大きくなると、時折、「ウーッ」となるくらいの痛みが走ることもあったりしました。

 そして、飼育開始から二ヶ月過ぎたある日、ころんと太ったトゲトゲの幼虫がお腹から出てきました。本来であれば、そのまま土の中に潜ってさなぎになるのですが、落ちた場所が脱脂綿の中だったせいか、数日後、さなぎになる途中で亡くなります。西田さんはその様子を見て、悲しさを覚えたとつづっています。

 西田さんの職業である探検昆虫学者は、毎日が新しい発見である反面、常に危険にさらされており、昆虫に対する深い知識が必要とされます。ヒトヒフバエも寄生されたからといって無理に引っこ抜こうとすると、感染症を引き起こす恐れがあるので、発見したらすみやかに病院に行きましょう。

 夏は昆虫たちが活発になる時期。日本にも危険な虫から愉快な虫までたくさんの生き物がいます。本を読んで異国の虫について知りつつ、外に出て自分の身の回りにいる虫を観察してみるのもいいかも知れませんよ。
(新刊JP編集部)

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