英国ロイヤルオペラハウス2017/18シネマシーズン3月9日からの上映はヴェルディ傑作オペラ『リゴレットだ。演出は英国ロイヤルオペラハウス(ROH)のほか、メトロリタ歌劇場MET)の舞台演出で大人気のデイヴィッド・マクヴィカー。この『リゴレット』はROHの2001年の初演以来の人気作品で、今季が7度ラインナップとなる。

乱痴気騒ぎにふけるマントヴァ公爵マイケルファビアーノ)に仕える主人公道化リゴレットを演じるディミトリ・プラタニアスが重厚で圧巻の演技はみどころのひとつ。繊細な心理描写とともに、市民革命独立の狭間の時代の闇までも裸々に描き出す舞台セット物語世界を重厚に描き出す。

■独立気運の高まる当時のイタリアの「時代」を映す

ヴェルディの『リゴレット』の舞台はイタリアマントヴァ。好色な公爵は淫蕩三昧を尽くす日々を送り、リゴレット公爵道化師として仕え、乱痴気騒ぎの場を盛り上げる。その一方でリゴレットは亡き妻の形見であるジルダ(ルーシークロウ)を一の心の支えとし、ジルダの存在を公爵仲間に気付かれぬよう隠していた。しかしジルダは教会で出会った公爵を、そうとは知らずに思いを寄せ、公爵もまた彼女に身分を偽り近づき、ついには誘拐してしまう。リゴレットの復讐のため、公爵暗殺を決意し、それが悲劇へと向かっていく――。

この舞台の初演は1851年、ヴェネチアのフェニーチェ座だ。当時のイタリア1840年代の市民革命の失敗などで揺れ、オペラや出版物などの検閲が厳しい時代。のちの1861年のイタリア成立に向け、市民の不満や独立の機運などが埋火のようにイタリアに広がっている、不安定な時代だった。ヴィクトル・ユゴーの戯曲『王は愉しむ』を原作としたこの作品も、当時のフランスの王権を批判した内容を、時代を変え、王を貴族に変更するなど諸々の変更を経たうえで上演に至ったものだ。このオペラはヴェネチア市民には熱狂的に受け入れられ大成功となり、大作曲ヴェルディの名を不動のものとしたのである。

■繊細な心理描写を描く音楽と歌手の熱演

(C) PERSSON

(C) PERSSON

『リゴレット』の名作たる理由のひとつに挙げられるのが、アリアとともに歌われる登場人物の心理描写だ。リゴレットアリア悪魔め、め』や、ジルダのアリア『慕わしい人の名は』などが物語る。背中が曲がり2本のを突き、大きな巨体をゆすりながら歩くプラタニアス演じるリゴレットは、それだけで存在感抜群。公爵の一味であり、同時にする普通父親の苦悩を切々と歌い、そのできばえはプラタニアス自身が幕間のインタビューで「舞台演出共々すべてがこれまで演じた最高のリゴレット」と言い切るほどだ。

マントヴァ公爵役のマイケルファビアーノは今シーズンもROH『ラ・ボエーム』でロドルフォを演じたほか、METでも同役でソニア・ヨンチェヴァとともに出演した人気急上昇中の若手テノールだ。そのメロディを聞けば「ああ、これか」と思い出す人も多いであろう、マントヴァ公爵の歌う有名なアリア『女心の歌』は、その陽気なメロディ物語の闇を一層深くする。

オペラ史上最高の四重唱ともいわれる、第3幕『美しい乙女よ』も聞き応え満点。相変わらず放蕩にふける公爵とそのお相手マッダレーナ、それを外から見て悲しむジルダと復讐を誓うリゴレットの4人の思いが交差し、やるせなさがひしひしと胸に迫る。物語とともにイタリアの一つの時代を切り取ったような重厚な舞台。幕間の揮者や出演者インタビュー興味深く、観賞の参考となる。