2017年4月1日に避難解除された福島県双葉郡富岡町の国道6号沿いY字路に、「CAFE y」というカフェがぽつんと立っている。福島第一原発からはスマホのGPSで約7.8kmの地点だ。カフェからすぐの場所には、避難区域入口の検問が見える。検問の向こうには、地震で倒壊した建物が放置されたままの「帰還困難区域」が広がっている。

 店に入ると、家庭的な雰囲気の中で店主の渡辺愛子さんが忙しそうにランチを作っていた。県外から復興関連の仕事で来た若い3人組の客が、楽しそうに談笑をしている。

◆家庭的な料理をお腹いっぱい食べてもらいたい

 県の発表によると(今年2月1日付)、震災前の富岡町の人口は1万5960人、現在の居住人口は429人だ。商売をするにはまだ厳しい状況だが、なぜこの富岡町でカフェを開いたのか。店長の渡辺愛子さんに話を聞いた。

「私はこれまで、いわき市で長年会員制のクラブを経営してきました。富岡町出身の知人女性に誘われたことがきっかけで、富岡で店を開くことを決めたんです。その人は『町に戻りたい。人が集える場所をつくってほしい』と強く願っていました」

 2017年7月に開業したものの、当初は客がなかなか集まらなかった。日々の支払いをするのがやっとの状況が続いていたが、徐々に常連客が増えてきたという。

「この辺はゆっくりお昼を食べる場所がないんです。コンビニでお弁当を買って車の中で食べている人をよく見かけます。遠くから復興作業にいらっしゃった方々も帰還した住民の方々も、ゆっくり食事をする場所がありません。

 普通の喫茶店ではレンジでチンしたものを出すことも多いですが、私は手づくりの家庭的な料理をお腹いっぱい食べてもらいたいと思っています。いわゆる『おうちごはん』ですね。日替わりの定食を2つ用意しています。

 私が忙しそうにしていると、常連さんの中には食器を下げてくれる人もいます。だんだん『家族』みたいになってきました。サービスでお菓子を出したり。『ただいま』と言ってお店に入ってくる人もいます。まだ恥ずかしくて、『おかえり』とは言えないんですが(笑)」

◆「ありがとう」と言ってくれるから続けられる

 富岡町ではまだ食品配達が再開しておらず、昨年は宅配便も届かない時期があったため、食材の仕入れも渡辺さんが自ら行う。クルマを運転しない渡辺さんにとっては仕入れもひと苦労だ。アルバイトのいない日は、店から富岡駅まで人通りのまったくない道路を30分歩いて帰宅している。常連客が増えてきているとはいえ、経営状態はまだまだ厳しい。そんな状況の中、渡辺さんは経営を続けていく意気込みをこう語った。

「お客さんたちが『ありがとう』って言ってくれるから続けられるんです。『ごちそうさま』だけじゃなくて、『お店を続けてくれてありがとう』と言ってくださる常連さんの声が支えになっています」

取材・文・撮影/白川徹

「CAFE y」の店長、渡辺愛子さん。オムライスとカレーが人気だ。昼間のランチタイムだけでなく、夜間はバーとしても営業、店内ではダーツやカラオケが楽しめる