2011年3月11日に発生した東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故。未曾有の災害から7年が経ったが、現地の被災者は現在も苦しんでいる。その大きな原因のひとつが、東京電力に対する賠償請問題だ。放射性物質による汚染や避難示、風評被害などによって、暮らしや仕事を奪われ、今もかつての日常生活を取り戻せていない。

賠償請といえば、裁判が手段として知られているが、原発事故の場合は、「原子力賠償紛争解決センター」による裁判外紛争解決手続き(ADR)が広く使われている。被災者から賠償請の申し立てを受け、仲介委員(弁護士が就任)が和解案をまとめて東電に提示するもので、裁判よりも期に解決できるなどのメリットがある。

しかし、東電センターの和解案を拒否したり、保留したりするケースが増えており、事態を重く見た日本弁護士連合会(中本和洋会長)は3月2日東電抗議する会長明を表した。賠償問題に何が起きているのだろうか。東京弁護士有志約420人でつくる原発被災者弁護団の事務局次長、秋山直人弁護士に聞いた。 (弁護士ドットコムニュース編集部・千香)

賠償請には「直接請」「原発ADR」「裁判」の3つの方法がある

——被災者が東電に賠償請するにはどのような手続きがありますか?

賠償請の手続きは、3つあります。1つ東電への「直接請」。これは東電の定める基準で妥協を余儀なくされるデメリットがあります。2つは「原子力賠償紛争解決センター」(原発ADR)に和解仲介を申し立てる方法が利用できます。私たち弁護団はこの「原発ADR」に、これまでに800件をえる申し立てを行いました。申し立てをした被災者も2万人をえています。裁判よりも速に解決するのが特徴です。そして、ADRによる和解がまとまらない場合は、3つの最後の手段として「裁判」を起こすことになります。

東電基準」で深まる賠償格差、10万円も今打ち切り

——文科省によると、ADRの実施状況(3月2日現在)は、これまでの申立件数が2万3450件、うち和解成立は1万7752件となっています。それだけ広く使われているということでしょうか。しかし、事故発生から7年が経ち、賠償請に問題はないのでしょうか。

今、それぞれの手続きに問題を抱えています。順を追って説明します。

まず、「直接請」ですが、避難示が出ている区域と出なかった区域とで、賠償額の格差問題が起きています。避難示が出ている区域の方には慰謝料10万円が2018年3月、つまり今まで出ていました。それに引き換え、避難示が出ていない区域の方の賠償額が非常に少ない。

例えば、福島市や二本など人口が多く、福島県内でも、避難示区域に次いで放射性物質による汚染が深刻な地域の方々です。原発事故が起きた後、向きが変わり、沿部から飯村を通って福島市にまで流れてきました。放射線量は多かったのですが、避難示が出ていなかったということで、大人については慰謝料は1人一8万円、それに実費4万円が支払われるだけです。何年も毎10万円が支払われてきた被災者にべ、その格差は大きいです。当初から摘されている問題ですが、いまだ解消されていません。

それから、次の問題として、慰謝料の打ち切りがあります。先ほど言った通り、避難示区域の慰謝料も今打ち切りです。被災者の方達は慰謝料を生活費にあてています。特に農業、畜産業を営んでいた方たちです。慰謝料が打ち切りになれば、生活は大変になります。避難示が解除されて1年になりますが、実際に住んでいた場所に戻って農業ができるか、畜産業ができるかというと、まだまだ難しい。田畑であった場所には除染廃棄物を入れたフレコンバッグが積んでありますし、避難示が出ていた区域で農作物や畜産物を作ったとしても風評被害で売れないことは明です。そうした現状への配慮がまったくありません。

賠償期間は東電の言うがまま、事業者への営業損打ち切り

事業者の方も、営業損打ち切り問題が大きいです。避難示が出ている区域の事業者については、2015年3月以降の損は、「減収率100%とした年間逸失利益の2倍の一括賠償で原則打ち切り」。わかりにくいのですが、2015年2月までは、原則3かに1回請して、逸失利益を計算して賠償していたのですが、3月以降は一括賠償して終わり。簡単にいうと、2年分を払って終わりになります。

それが、これから先の損を全てカバーするという言い方を東電はしています。また、避難示が出ていない区域の損は—たとえば、風評被害などの間接被害が多いのですが—、2015年8月以降、賠償は直近の減収に基づく年間逸失利益の2倍の一括賠償で実質打ち切りです。例外は認めると言っていますが、非常に厳しい状況です。

文科省の下に設置されている「原子力賠償紛争審会」という組織があります。ここで賠償の問題が議論され、2011年8月に中間針を出しました。しかし最近では、ほとんど開店休業状態になっていまして、新しい針が出されていません。いつまで賠償するかなどの針はなく、東電の言うがままになっています。

「和解案の尊重」を誓約した東電がADR和解案を次々と拒否

次に「原発ADR」ですが、これまで賠償請に重要な役割を果たしてきました。ところが、ここにきて非常に大きな問題が噴出しています。センターが出した和解案を東電拒否するケースが増えているのです。東電2011年11月から累次にわたる「特別事業計画」をに提出していますが、その中で「原発ADRの和解仲介案の尊重」を何度も誓約しています。しかし、それが全に二枚舌になっています。

2年ほど前までは、東電が和解案を拒否するのはよほどの場合で、それ以外は基本的にセンターから和解案が出たら受諾していました。しかし、最近は和解案の拒否が拡大しています。東電が払いたくないと思った案件について和解案が拒否されると、原発ADRには強制がないので、どうしようもなくなってしまう。今、原発ADRの紛争解決機が低下しています。

に入って、福島県俣町小綱木地区の住民566人に1人あたり一括20万円支払う内容の和解案を東電が拒否したと報道されています。ここは、避難示が出ていた飯村や俣町の山木屋地区に隣接する地域で、放射線量も高かったのですが、避難示が出ていなかったという理由で、先ほどの「東電基準」で大人は1人一8万円しか賠償してもらえない。

これはあまりにひどいということで、1人20万円を追加で支払いなさいという和解案が出されたのですが、東電は拒否したわけです。私が担当している飯村蕨地区、曽地区の集団ADRでも、東電は、被ばく不安による慰謝料の増額の和解案をずっと拒否しています。さらに、飯村の長泥地区・蕨地区の田畑に対する財物損の集団申し立てでも、東電東電基準以上の支払を拒否し続けています。

センターの解決機が低下で長引く紛争、泣き寝入りも

拒否が拡大している状況の中、センター東電に和解案を拒否されるのではと及びになってしまう。和解案が出るまでに、審理が遅延している傾向が見られ、和解案の準も徐々に下がるなど、センターの紛争解決機が低下しています。

たとえば、私たちは福島市渡利地区の集団ADRをやっています。やはり1人8万円では少なすぎるということで、住民1000世帯、約3000人が申し立てています。原発ADRは、本来は半年程度をめどに解決をすべき仕組みなのですが、もう2年半以上やっていてもセンターが和解案をなかなか出さない。さらに、出しても東電拒否する性があり、さらに長引くことが懸念されます。

訴訟の原告となっている住民が、同時に原発ADRを申し立てているケースもありますが、東電は去年8月から、訴訟の判決が確定するまで、原発ADRの和解案については回答を留保する姿勢をとっています。以前は訴訟と並行していても、和解案を受諾して支払い、それ以上の支払の要否を訴訟で争っていました。

この背景には、去年、集団訴訟の判決が3つ、出たことがあります。これらの判決では、おしなべて、認容額があまり高くなかった。つまり、東電原発ADRよりも訴訟の方が安く済むということで、裁判が確定するまで、ADRは棚ざらしにしているわけです。速な救済を拒否する姿勢に対し、日弁連でも3月2日会長明を出しまして、東電の対応は問題であると表したところです。

訴訟でも被災者に「冷たい判決」

さらに、「訴訟」はどうなっているかというと、先ほど説明した通り、集団訴訟の判決が昨年から今年にかけて、4つ出ています。国家賠償責任を認めた判決も出ましたが、被災者にとってはおしなべて認容額は低い。裁判所も被害の実態をきちんと見ていないのではないかと思います。

たとえば、中古販売業者の方が、中古を港に入れようとする時、港によって放射線量の検が義務づけられています。東電にその賠償を請した裁判では、放射線自体がもう必要ないという東電を認めた判決が東京地裁、東京高裁で出されています。実際に港では義務付けられているにもかかわらず、です。これもかなり冷たい判決で、被害者の方達は追い詰められています。

紛争が長引けば長引くほど、生じる問題もあります。もともと過疎地が多く、高齢者の方たちは賠償の請を続けていく気がない。そういう人たちは裁判もできず、最も手軽に済む「直接請」で安い「東電基準」の賠償に甘んじています。あとは、泣き寝入りです。

風化する中で薄れる東電への批判と「被災者の方々へのお約束

——原発事故から7年が経ち、賠償問題で風化は感じますか。

そうですね。やはり報道も関心が徐々に薄れていると思います。だからこそ、東電の思うツボになっています。社会的な批判が以前よりも薄れてしまい、和解案を強気に拒否してくるわけです。

——徐々に、違う問題が起きているわけですね。賠償問題を解決するためには何がめられるのでしょうか。

まず、東電は累次の特別事業計画で、「被災者の方々への『5つのお約束』」とか「3つの誓い」として、 「原発ADRの和解仲介案の尊重」や「和解仲介手続の速化への協」を誓約しています。東電には、自ら誓約したことをきちんと履行することをめたいです。

次に、このような事態の原因に、センターの和解案の拘束が弱いことが摘されます。一定の場合、東電は和解案を受諾する義務があるという制度に変える必要があるのではないか。他の例でいえば、融ADRのように、正式な和解案が出たら、一定期間内に訴訟を提起するか、和解案を受諾するかという制度にしなければ、原発ADRの紛争解決機は下がる一方でしょう。

そして、の組織的な問題もあります。東電に対する導は経産省が行っていますが、原発ADR文科省の所管です。そこには役所間の関係がある。政府には、東電に対する強い導をめたいと思います。

裁判所には、未曾有の環境汚染事故である今回の原発事故による被害の実態をきちんと見て、適正な損認定をすることを期待したいと思います。

弁護士ドットコムニュース

原発事故7年「風化は東電の思うツボ」住民との和解案拒否の背景、賠償問題に取り組む弁護士に聞く