夢枕獏の小説「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」を、中国映画界の巨匠チェン・カイコーが映画化した絢爛豪華な歴史ミステリー『空海-KU-KAIー美しき王妃の謎』(公開中)。一度観ただけでは読み解ききれないほど多くの謎が隠された本作を、より深く味わうために押さえておきたいキーワードを紹介したい。

寂しげな雰囲気の楊貴妃の墓所。墓道から続く壁画には従者を描いた壁画が並ぶ

【ストーリーの核心に触れる内容が含まれているため、まだ作品を鑑賞していない方はご注意ください】

■ ■死生観と埋葬

兵馬俑で有名な秦始皇帝陵のように、死後が生の延長線上にあると考えられている中国では、死者が生前と同じ生活を感じることができる副葬品を墓所に置く習わしがある。磚室墓と呼ばれる唐代の墳墓からは、当時の生活を示す出土品が数多く発掘されている。

劇中に登場する楊貴妃の墓所には、墓道から墓室にかけて従者を描いた壁画が並びながらも、それ以外の副葬品は置かれておらず、寂しげな空間になっている。これは悲哀に満ちた死を遂げた彼女を象徴させているものと考えられるだろう。ちなみに、その壁画の中には本作の製作総指揮を務めた角川歴彦の肖像が隠れている。実際の楊貴妃の墓所は彼女が亡くなった馬嵬に現存しているが、亡骸がなかったなどの様々な伝説が語り継がれている。

■ ■空海が伝えたもの

映画の終盤で青龍寺に入山する空海。そこで彼を待ち構えていた恵果和尚こそ、空海を導き続けていた幻術使いの丹龍だったのである。スイカ売りとして空海に近づいた恵果は、楊貴妃の死の真相を追う彼に助言を与えていく。いわば劇中で起こる様々なできごとは恵果が空海に課した試練だったといえよう。

一説によれば、自身の授かった密教を伝える弟子を求めていた恵果は、持ち前の神通力の鋭さから、空海が入唐することを察していたともいわれている。その恵果が亡くなったのは806年。空海は本来20年あった留学期間を切り上げて、わずか2年で帰国。恵果から伝えられた密教をすぐさま日本に広めるためだったといわれている。そして空海は、帰国後すぐに真言密教を開くのだ。

■ ■巨匠チェン・カイコー

“中国第五世代”と呼ばれる映画監督の一人であるチェン・カイコーは、デビュー作『黄色い大地』(84)をはじめ、激動の中国史を生きる京劇役者を描いた『さらば、わが愛/覇王別姫』(93)、日中仏合作の歴史ロマン『始皇帝暗殺』(98)などに代表される叙情的なストーリーテリングと色彩美豊かな映像センスで世界的な注目を集め、文化革命後の中国映画の発展に大きく貢献。

本作では唐代の空気感を再現するため2年間にわたる徹底的なリサーチを行い、また長期の撮影を共にする俳優・スタッフとヴィジョンを共有するためにディスカッションを重ねた。もちろん主題歌を担当するRADWIMPSとも同様で、監督自らが東京に出向くなど、やり取りを重ねる中で誕生したのが、本作のエンディングを美しく彩る楽曲「Mountain Top」なのである。(Movie Walker・文/久保田和馬)

『空海-KU-KAI-』の重要なキーワードを読み解く!