2017年10月に発覚した神戸製鋼所をきっかけに三菱マテリアル、東レなどと続いた日本企業の品質管理データ改ざん問題は、弁護士らによる社外調査委員会の調べで不正の核心と背景が解明されつつある。三菱マテリアルの子会社(三菱伸銅、三菱電線工業)に続き、神戸製鋼が18年3月6日、弁護士らによる最終報告書を発表した。日本を代表する名門企業で、社員たちはなぜ不正に手を染めたのか。そこには品質に関する現場の過信と、サラリーマンなら従わざるを得ない社内の生産至上主義や悪しき慣習があったようだ。

1970年代から続いていた「不正」

「役員を含む多くの者の認識や関与の下に長期間にわたって不正が継続してきた。当社は組織風土や役員・社員の意識面で根深い問題を抱えていると言わざるをえない」

 神戸製鋼の川崎博也会長兼社長は3月6日の記者会見で、不正が少なくとも1970年代から続き、現職の執行役員3人と元職の取締役ら2人が関与するなど、不正が長期間、組織的に行われていたことを認め、陳謝した。川崎氏は「多くの顧客に迷惑をかけた責任は大きい。再発防止策の実行は新しい経営体制でやるべきだ」と述べ、引責辞任する考えを表明した。経営トップがこう語るには事情がある。神戸製鋼が昨秋から弁護士に依頼して調査を進めた結果、新たな不正が次々と発覚したからだ。

 神戸製鋼はアルミ・銅製品などで、自動車・航空機メーカーなど取引先が求める強度や寸法等を満たしていない場合でも、社員が検査データを改ざんして出荷することが日常的にあった。最終報告書は長期間、組織的に不正が続いた要因として、「受注の獲得と納期の達成を至上命題とする風土」があり、「仕様を逸脱しても一定程度なら安全性の問題はないため出荷しても構わないという誤った考え方があった」と結論づけた。

「最終関門」となるべき幹部社員が自ら不正に手を染めた

 具体的にはこうだ。神戸製鋼の真岡製造所(栃木県真岡市)では1970年代から、アルミ・銅製品を出荷する際、取引先が求める仕様に達していない製品のデータ改ざんが横行していた。工場で製品をチェックする品質保証部の主任部員、室長を務めたある幹部は80年代に自らデータ改ざんを行ったほか、90年代には部下に改ざんをするよう指示していた。この幹部はその後、真岡製造所長を経て、本社の専務執行役員、代表取締役副社長に上り詰めた。しかし、彼は不正を取締役会に報告することもなく退職した。

 70年から旧長府工場(現長府製造所=山口県下関市)で働き、製造部の課長を務めた幹部は自らデータ改ざんを行ったほか、部下が不正を行うことを黙認していた。この幹部は08年6月まで専務執行役員を務めた。現職の執行役員3人も同様で、現場の不正を知りながら、改善策を取らなかっただけでなく、データ改ざん問題が発覚した後も会社に報告すらしなかった。

 極めて悪質だと思う。製造現場で品質をチェックする「最終関門」となるべき幹部社員が自ら不正に手を染め、その後、工場長や本社の役員になっても改善することなく、悪しき慣習は後輩に引き継がれていった。取引先が要求する強度や寸法に達していなくても、現場が「安全」と判断すれば、データを改ざんして出荷するのが当たり前になっていった。社員の法令順守の意識は鈍麻していった。

東芝の「チャレンジ」に通底する収益改善のプレッシャー

 では、なぜ神戸製鋼は、こんな不正が日常になってしまったのか。それは社内のプレッシャーだ。「機会があれば、とりあえず受注する」「できるだけたくさんの製品を生産して利益を上げる」。鉄鋼・アルミ業界で上位メーカーと戦う神戸製鋼には、そんな企業文化があったと最終報告書は指摘している。品質検査の結果、取引先の要求を満たさない製品は、本来なら破棄するか、事情を説明し、相手が納得した場合のみ「特別採用」(特採=トクサイ)として出荷すべきだった。

 しかし、神戸製鋼の生産現場には「顧客と合意した納期を遵守できなければ、顧客から損害賠償請求を受けたり、競合他社への転注を招くのではないか」とする焦りがあった。特採にすると、取引先に製品を安く買い叩かれる可能性があり、「値下げ交渉に応じざるを得なくなり、利益目標を達成できなくなることを恐れた」という。ずいぶん身勝手な理由だが、上司の命令や先輩からの引き継ぎであれば、部下や新入社員らは従わざるを得なかったのだろう。東芝の歴代社長ら幹部が「チャレンジ」の名の下、過酷な収益改善のプレッシャーを現場にかけ続け、不正会計につながったのと通底するものがある。

不正品に対する「安全基準」があった

 私は昨年10月以降、神戸製鋼、三菱マテリアル、東レ、宇部興産などと続いた品質データ改ざん問題を取材し、すべての記者会見に出席してきた。疑問点がすべて氷解したわけではなく、不正を弁護する余地はないが、敢えて付言するなら、いずれの不正も神戸製鋼はじめ現場の社員が「安全」と判断したもののみ、データを書き換え出荷したということだ。神戸製鋼の最終報告書は「検査結果には一定のばらつきが生じるものであり、わずかに仕様を外れた場合は問題ない」との判断が現場にあったと記している。最終報告書に記載はないが、私が神戸製鋼の現役社員に聞いた話では、検査の結果、明らかに品質に問題があると判断した製品は、データを改ざんして出荷することなく、破棄していたという。

 私が取材した神戸製鋼の社員によると、過去に多くの製品を納入した経験や蓄積したデータから、「ここまでは安全、ここからは危険」といった判断が製造現場にはあったという。このため、データを改ざんした製品を納入しても、「製品の安全性に影響がなく、顧客からのクレームも受けていない」という驕り、もしくは過信が製造現場にはあった。マスコミが「品質データを改ざんした」と報道すると、神戸製鋼がまるで粗悪品を出荷していたかのような印象を受けるかもしれないが、現実はそこまで悪質ではなかったようだ。

 事実、神戸製鋼が昨年10月に不正を公表して以降、トヨタ自動車はじめボーイング、JR東海など、不正があった神鋼製品を購入したメーカー(当初525社、最終報告書で605社に拡大)が安全性の調査を行ったが、重大な問題は今のところ見つかっていない。従って、発覚当初は懸念された自動車などのリコールも起きていない。これは神戸製鋼に限らず、三菱マテリアル、東レなど不正が発覚した大手素材メーカーに共通している。

事実上の「改ざんマニュアル」

 変な言い方かもしれないが、各社とも品質データを改ざんするに当たっては、それなりの社内ルールがあり、超えてはいけない一線を守っていたようだ。三菱マテリアル子会社では、検査データが規格をはずれていても許容範囲とするための基準を示した「改ざんマニュアル(指南書)」が見つかった。神戸製鋼でも一部の工場で、納入先や実測データ等をエクセルファイルで管理する事実上のマニュアルが今回の調査で見つかった。

 私は神戸製鋼の社員から「もしも、いい加減な粗悪品を出荷し、重大な事故につながれば、もっと早くデータの改ざんがバレるはずだが、そうはなっていない」との本音も聞いた。確かに何十年も不正をしながら事故がなかったということは、データ改ざんをした製品であっても、結果的に安全性に問題がなかったことを証明している。不正を許すことはできないが、そこは日本の製造業にとって唯一の救いではないか。

 もちろん神戸製鋼は米司法省の捜査を受けているほか、米国とカナダの消費者から提訴されるなど、今後の行方は楽観できない。世界的に「KOBELCO(コベルコ)」の愛称で親しまれた神戸製鋼の信用力、ブランドの失墜は避けられないだろう。目先の収益を優先し、不正を隠し続けた代償は余りにも大きい。

(川口 雅浩)

最終報告書についての記者会見に臨む神戸製鋼の川崎博也社長 ©getty