株式会社IMAGICAの由良と申します。IMAGICAでVRをはじめとする先端映像技術のリサーチや技術評価を担当しています。

IMAGICAは、1935年にフィルムの現像を行う日本で最初の商業ラボとして創業し、日本最大級のポストプロダクションとして映像産業を下支えし続けてきました。2016年8月、映像を視聴体験する際の没入感を追求する先進映像技術をリサーチするイマーシブ・メディア・ラボ(以下IML)を発足させました。このIMLを中核とし360度立体映像および、立体音響コンテンツの制作に向けた技術サービスを行っています。本日は日本で初めてIMAGICAが導入したプロ仕様の360度カメラ、「Jaunt ONE」をご紹介します。

Jaunt ONEとは?

「Jaunt ONE」はアメリカのJaunt社が販売するプロ仕様の360度カメラです。24個のカメラユニットによる8K・360度の立体撮影に加え、18ストップという広大なダイナミックレンジを有し、シネマグレードの画質を実現しています。また1秒120コマによる撮影やタイムラプス機能など、多彩な撮影効果も持っています。
スティッチングのために「Jaunt Cloud Services」というクラウドベースのサービスが用意されているのも特徴のひとつです。Jaunt Cloud Servicesでは、撮影済みのデータをアップロードするとオフライン用の簡易スティッチングされたデータが自動的に生成されます。そのデータを使用して各カットの使う場所を決定し、その部分を指定して高品質のスティッチングを行います。簡易スティッチングは無料で行うことができ、高品質のスティッチングを行うには課金がされます。スティッチングのほかにデータのマネージメントや、各プラットフォーム用のレンダリングも可能です。もちろん各種のスティッチングツールでスティッチングすることもできます。

また、Jaunt社から提供されているその他のツールとして、

・Jaunt ONE Controller
・Jaunt Slate
・Jaunt Media Manager
・Jaunt Player

があります。これらについてそれぞれ紹介していきましょう。

Jaunt ONE Controller

撮影時に行うJaunt ONEの設定調整、映像のプレビュー、SDカードのフォーマットやカメラのファームウェアをアップデートするためのツールです。Jaunt ONEに取り付けられている24個のうち8個のカメラのみリアルタイムでチェックすることができます。

Jaunt Slate

Jaunt ONEで撮影する際に使用するデジタル方式のカチンコ(映画の撮影に使う、黒板やホワイトボードと音の鳴る拍子木からできた道具)です。撮影時に名前やシーン番号、テイク番号などのメタデータを入力します。データはJaunt Cloud Servicesにアップロードされ共有されます。

カット毎に固有の音が発生し、それをもとに撮影素材が特定され、後述するJaunt Media Managerにてデータを取り込む時に、Jaunt Cloud Servicesと連携して自動的に撮影素材とメタデータが紐付けられます。また、別のマイクとレコーダーで収録したアンビソニック音響データも自動的に同期させることが可能です。

Jaunt Media Manager

撮影素材の取り込みとデータのマネージメントを行うツールです。カメラで撮影された各カットのデータを、1つのカットで24個のカメラのデータとしてひとまとめにし、名前やシーンなどのメタデータを与えられます。Jaunt Slateを使用している場合は撮影素材とメタデータの紐付けは全て自動で行うことが可能です。カット毎にファイルをまとめたあと、Jaunt Cloud Servicesへのアップロードをこのツールで行います。簡易的なスティッチングもこのツールで可能です。

Jaunt Player

デスクトップで使用する360度動画プレーヤーです。

これらの各種ツールを使用してJaunt ONEで撮影し、コンテンツを仕上げていきます。

360度撮影の注意点

360度映像の面白さは、まるでそこにいるという感覚を得られることだと思います。ですので、普段そこにはないはずものは映らない方が効果的です。通常の撮影であれば、カメラが捉えている画郭の外や物陰などの映像からは認識できない場所にスタッフがいたり、照明機材や録音機材を配置し撮影をします。しかし、360度映像では全方位映像なのでどこかに映ってしまいます。撮影したいシーンによっては照明機材を置けないことがあったり、録音が難しくなることがあるので、シーンの設計に注意が必要です。

また、カメラマンをはじめ、スタッフが隠れる場所なども考慮にいれる必要があります。どうしても映ってしまう場合は「バレ消し」と呼ばれる映っていてほしくないものを消す作業を行います。立体映像でのバレ消しは、自然な立体感を残しつつ消さなければならず、非常に高い技術が求められる作業となります。

また、360度カメラではズームが出来ないので対象物を大きく写したい場合は近づかなければいけませんが、近すぎるとスティッチングの破綻が起きてしまいます。立体撮影の場合は更に距離を気にしなければなりません。

加えて、完成した映像をHMDで視聴するときの視聴者の姿勢に合せた、カメラの高さ設定や水平設定をしっかりとらないと気持ち悪くなることがあり、通常の撮影よりも気を配らなければなりません。

他にも、レンズに水滴や虫などが付着してしまうとHMDで視聴するときには目の前にその水滴や虫が見えてしまうので注意が必要です。また、スタッフがカメラから離れることになる場合があるので、見ていないうちにカメラが倒れないように設置をしなければなりません。

このような注意点があるため、通常の撮影のときよりもカメラの周囲を近くから遠くまでよく確認して撮影に望みます。 

Jaunt ONEと他のカメラとの比較

Jaunt ONEはライブ配信機能を持っておらず、収録に特化したカメラになっています。その分、高品質な映像を作り出すことが可能となっています。Jaunt ONEと他のカメラで圧倒的に違うのは

・収録できる映像のダイナミックレンジ
・解像度感
・フレームレート

です。こちらもそれぞれ見ていきましょう。

ダイナミックレンジ

Jaunt ONEはカメラユニットが周囲に16個、上に4個、下に4個の計24個あります。その各ユニットに対してISO感度とシャッタースピードが個別に調節できます。

例えば一方に太陽がありもう一方に陰があるようなシーンを撮影したいと思った場合、他の360度カメラですと太陽のエリアは白く飛んでしまい、陰のエリアは黒く潰れてしまうということが起こりがちです。Jaunt ONEでは、太陽のエリアが白く飛ばないように感度を抑えて撮影、陰のエリアの感度を上げて暗部のディテールを生かすように撮影することが可能です。

撮影後、スティッチングのタイミングでこれらの素材の明るさを滑らかに整えます。それにより、スティッチング後の映像として18stopものダイナミックレンジを実現することができます。

このように明るい部分と暗い部分が同居しているようなシーンを撮影する際に、Jaunt ONEは力を発揮し、他の360度カメラとの大きな画質の差が出ます。


(Jaunt ONEで撮影した映像。明るいところと暗いところが同居できている)


(一般的な360度カメラで撮影した映像。太陽の光で白飛びしている箇所が大きく、また影がやや強く見える)

解像度感

カメラユニットが少ない360度カメラでは、魚眼レンズなどを使用して周囲をカバーすることになりますが、魚眼レンズではどうしても中心から離れるほど歪みが大きくなります。そのため、スティッチングをするときにつながりの精度が悪くなったり、解像度感が悪くなってしまいます。

Jaunt ONEには24個のカメラユニットが搭載されており、カメラユニットが多いことにより、歪みの少ないレンズを使用すると同時に、カメラ相互の撮影エリアを広く補完し合っています。8Kという解像度と合せて、とても解像度感の高い映像を作り出すことができます。

カメラが多いほどスティッチングの手間がかかってしまいますが、クラウドサービスがあるので手間なくスティッチングすることが可能です。また、より高い精度を求める場合、手動でスティッチングを行いますが、そこではポストプロダクションならではのノウハウが求められます。

フレームレート

多くの360度カメラで収録できるは1秒で最大30コマですが、Jaunt ONEでは1秒120コマでの撮影が可能です。そのまま再生できれば、より滑らかな映像となるので没入感がさらに高まります。1秒30コマや60コマで再生するコンテンツを作る場合はハイスピード撮影として使用することが可能です。

その他特徴

カメラの筐体の作りはプロ仕様としてしっかりとしています。冷却機構がファンレスのため、収録時にファンの音を気にする必要はありません。また、低価格なカメラにありがちな「本当に収録できているのか?」という不安を感じることはありません。ただし、カメラ自体が比較的大きいので、狭い場所の撮影では制約があるかもしれません。

収録にはSDカード24枚を使用します。データのバックアップや取り扱いは他のカメラに比べて大変ですが、データマネジメントはJaunt Media Managerにより非常にスムーズに行えます。また、レンズも24個あるので撮影前の確認(虫や水、ゴミが付着していないかどうかなど)は入念に行う必要があります。

撮影された映像は非常にナチュラルなトーンで収録されます。そのため、ポストプロダクションでの画作りの幅が広く持てます。この点もプロ仕様という特徴として欠かせません。

Jaunt ONEの実績映像紹介

IMAGICAでは、日本で初めてJaunt ONEを使用して「地球がむき出しの島 三宅島 リアル自然体験VRコンテンツ」を制作しました。このコンテンツは三宅島を模したリアルタイムCGのメニューと、三宅島の圧倒的な景観をJaunt ONEで撮影した360度立体映像およびそこにいるかのような没入感のある空間音響で仕上げたコンテンツです。今回はJaunt ONEで撮影した映像部分のダイジェスト版をご紹介します。

https://www.youtube.com/watch?v=JJVcfkHDa5E

最近ではプロ仕様の360度カメラや、高品質なヘッドマウントディスプレイが多数発表されてきています。それに伴い、360度映像は物珍しさや目新しい映像というレベルからクオリティを求める段階に入ってきていると感じています。その中でも今回ご紹介させていただいたJaunt ONEは非常に高いクオリティの映像を収録できるカメラです。今後もより品質の高い360度映像をより多くの人に届けられるよう取り組んでいきたいと思います。