最近、にわかに注目を集めているのが「パブリックセーフティ」という言葉だ。AI(人工知能)やロボットなど最新テクノロジーで街の安全を守ろうという試みで、すでに海外では導入が進む。

 日本の警察もAIを使った犯罪・事故予測に乗り出した。1月末に新聞各紙が報じたところによれば、全国初となる「AI取り締まりシステム」の導入を予定しているのは神奈川県警だ。現時点で詳細は明らかになっていないが、’20年の東京五輪での本格的な運用を目指し、開発を進めているという。

「報道から推測するに、警察や公共機関、自治体が保有している犯罪発生データ、交通データ、監視カメラデータなどを駆使した行動検知や予測、またソーシャルデータを使った容疑者個人の特定などの手法を組み合わせていくと考えられます」(日本の治安当局関係者)

 昨今、世界各国では神奈川県警のように、AIやビックデータなど最新テクノロジーを駆使して、犯罪・事故・テロを防止しつつ、街を災害や環境汚染などから守ろうという動きが広がっている。こうしたコンセプトは総称して「パブリックセーフティ」という言葉で定義され始めている。

 パブリックセーフティは、防犯カメラ、IoT機器、センサーなどのハードウェアから収集されたビックデータをAIが解析し、現場(人間)が対処するというものだ。データを集めるのに必要な回線やクラウドなど、高度な通信技術も欠かせない。

 数万人の観客で埋め尽くされたスタジアムで、テロリストが爆弾を持ち込もうとしたと仮定しよう。入場した瞬間、AIが防犯カメラの映像と警察のデータベースを照合し、通報する。こうして即座にテロリストは逮捕される。爆弾を場内に置いたとしても、センサーで不審物を検地するAIがそれを見つけ、場所をすぐに特定する――これが簡単なパブリックセーフティの仕組みだ。

 『ロボティア』編集長でAIに詳しい河鐘基(ハ・ジョンギ)氏は言う。

「例えば、1秒未満の短い時間でクラウド上にある100万枚以上の画像データをAIが照合し、人物を特定するというような技術はすでに実用化されています」

 防犯・治安維持分野では、検挙率や防犯率が格段に高まる。「米国ではメンフィス市の例は特筆すべき」と話すのは犯罪学者の小宮信夫氏だ。

「私も実際に見ましたが、メンフィスでは現場データ、地理・天候データ、犯罪者データなどさまざまなデータを使って、AIで犯罪を予測するシステムを運用しています。メンフィス市の人口は約60万人。検挙率も一挙に上昇してきました。日本の各都市への導入モデルになるでしょう」

 同市は過去にレイプ発生率が全米1位という“無法地帯”だったが、データ解析手法を徹底させることで、性犯罪を大きく減少させてきた歴史を持つ。その犯罪抑止プログラムは「ブルークラッシュ」と呼ばれており、運用から6年で犯罪全体の30%、暴力犯罪20%をそれぞれ減少させることに成功した。その統計解析の背後に、AIとデータを使った行動予測・解析技術があるのだ。

取材・文/池松信二 千吉良美樹 写真/河鐘基 写真提供/AFP=時事
※『週刊SPA!』3/13発売号「AIに[都市の安全]は守れるのか?」より

2月に中国で導入されたシステム。スマートグラスで通行人の顔認証を行っている/AFP=時事