お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

 先日、日本酒イベントの主催スタッフにお会いする機会があった。ここ数年、イベントを開催するたびに外国人の参加者が軒並み増え、マニアックな「SAKE」愛好家も多いそうだ。そうはいっても接点のない筆者などは、彼らが日本酒をどのように味わい、楽しんでいるのか見当もつかないのだが。

『酒器も肴のうち』第39献は、持ち前の英語力を生かし、日本酒を通じてさまざまなインバウンドイベントや活動に積極的に参加している麿律子さんにご登場いただいた。

 宮城県在住の麿さん。日本酒好きが高じてこれまで受講したセミナーは数知れず。地元開催の日本酒関連の講座などで日本酒の基礎知識を学び、日本酒の魅力に触れてきた。生業は日本酒とは無縁。ゆえになんのしがらみもなく、純粋に日本酒が好きな人という印象である。例えるならアイドルのおっかけじゃなく、日本酒のおっかけといった熱量。お持ちの酒器もさぞかし…と期待してしまう。

「普段の晩酌には蛇の目の一合猪口か、ニコちゃんマークの猪口。ともに蔵見学や酒イベントに参加していただいたもの。実は酒器にはそれほどこだわりはなくて、偶然手に入ったもので、気に入ったものがあればそれを使うといった感じです。蛇の目の猪口で飲めば杜氏さん気分だし、ニコちゃんの猪口は飲むたびにふっと笑みがこぼれてきます」(麿さん・以下同)

 酒器にこだわりはないが、裏を返せばお酒そのものにはこだわるということなのだろうか。「もちろん、愛用しているものは他にもちゃんとありますよ」。そう言って見せてくれたのはチューリップ型で、見る人が見ればすぐにそれとわかるウイスキーのテイスティンググラスだった。

「昨春、アメリカに住む親戚を訪ねた際に連れて行ってもらったウイスキー蒸留所の試飲グラスです。夏はもっぱらこれで日本酒をロックで。氷をひとつ入れて涼やかな気分で楽しみます」

 ワイングラスをひとまわり小さくしたサイズでステム(脚)はなく、しっかり重みがあってその安定感が心地いい。コロンとしたルックスにも親しみを覚える。

「色がきれいなお酒を注いでも素敵ですよ」と、ご持参した「メーヴェ」というメロンリキュールを注いでみせてくれた。優しい薄グリーンがテイスティンググラスに映える。

 こちらのお酒、名取市特産メロン「クールボジヤ」の果汁を使い、同市・ 佐々木酒造店の純米酒で仕込んだもの。文字通り、テイスティンググラスで試飲させていただいた。クールボジヤを食べたことはないが、メロンのフレッシュな香りがたち、一口含めばメロンをそのまま食べたときの甘くて爽やかな果汁感がほとばしる。

 もともと栽培者が少ないため、幻のメロンとも言われているクールボジヤだが、震災の影響でさらに稀少なのだそう。また、佐々木酒造店も現在、仮設蔵での酒造りを余儀なくされている。東日本大震災から7年。タイミングを狙ったわけではないのに、酒器とお酒を前にして被災地へ思いを巡らせていた。つづく。

●撮影協力

地の酒しん

地の酒しん

東急池上線千鳥町駅近くにある日本酒と佳肴の店。日本酒は小さな造り手のものから、定番、季節のもの、変態系まで常時30種ほどをオンリスト。酒器も豊富で選ぶのが楽しい。その日の入荷やおすすめ情報はFacebook「地の酒しん」で公開中。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。

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