サッカー解説者・宮澤ミシェル氏の連載コラム『フットボールグルマン』第41回。

現役時代、Jリーグ創設期にジェフ市原(現在のジェフ千葉)でプレー、日本代表に招集されるなど日本サッカーの発展をつぶさに見てきた生き証人がこれまで経験したこと、現地で取材してきたインパクト大のエピソードを踏まえ、独自視点でサッカーシーンを語る――。

今回のテーマは、堀監督を解任した浦和レッズとその戦術に関する考察について。4バックにした時の戦術が機能するためには何が必要か? そして、プロサッカーチームを指揮することの難しさについての考えも語った。

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日本代表の欧州遠征が終わって、Jリーグが再開されたけれど、その矢先に衝撃的なニュースが飛び込んできた。浦和レッズが堀孝史監督を解任。Jリーグ開幕から4戦未勝利で再開後、最初の試合となった4月1日の第5節でジュビロ磐田に1—2で敗戦。この結果を受けてクラブは苦渋の決断を下したのだろう。

堀前監督にとっては道半ばで退くことになって悔しいはずだ。昨シーズン途中からペトロビッチ元監督の後を受けて監督代行に就任、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)を制覇したとはいえ、5年間続いたペトロビッチ体制からの切り替え時期。だから、今シーズンは時間がかかるだろうと思っていたけれど、予想以上に苦しんだね。

ペトロビッチ体制時代に5年間かけて積み上げた3-4-2-1のシステムから、堀前監督は4-4-2に変更してACLを獲った。今シーズンは4-3-3や4-4-2の布陣を採用していたけれど、とくに4-4-2という形はサッカーの王道で、1980年代のジーコ時代のブラジル代表のようにそれがハマれば面白いサッカーができる。ただ、やっぱり王道というのはうまく機能させるのは簡単じゃない。

相手を圧倒する2トップがいて、中盤を菱形に配置してキープ力で絶対に負けない。ボールを奪われても相手からすぐにボールを奪い返せるセンターバックとセントラルMFがいる。それでワンツーパスでDFの裏を取ったり、ドリブルで相手DFをはがしていったりする。これが私の考える王道の4-4-2で、選手個々のレベルがずば抜けて高くないと相手とのミスマッチが作れない。

浦和の場合、去年までの3-4-2-1を実行するための選手は揃っていたけれど、4-3-3や4-4-2に特性のある戦力が十分ではなかった。ドリブルで相手を振り回せる選手も少ないし、DFを翻弄するパスワークも足りなかった。

去年までのペトロビッチ体制のサッカーは、前線に人数をかけてシンプルなパスをつなぐことでミスマッチを作っていた。だけど、今年は超大型の選手補強をしなかったことやラファエル・シルバの移籍もあって、相手チームとの差を生み出す術がなかった印象だ。

私自身は現役時代にフジタでニカノール監督の下、4-4-2を経験したけれど、ハマればプレーしていてこれほど楽しいサッカーはなかった。だけど、それを作り込むプロセスは本当に大変なんだ。

当時のフジタにはピッタというMFがいたんだけど、まずその相棒になれるFWがいなかった。いい日本人FWはいたけど、ピッタと組むとフィットしない。

中盤は帝京高出身で当時の日本代表だった谷中治、読売クラブから移籍してきたエジソン、潰し屋の松山博明といったメンツが揃っていて主導権を握れる。でも、どうしても2トップがハマらなかった。その時、野口幸司が中盤のレギュラーを獲れずに余っていたから、そこでニカノールは野口にFWのトレーニングをさせたんだ。

そうしたら、これが見事にハマった。野口は中盤の選手だったから周囲の味方の特徴をよくわかっていて、攻撃陣が顔を出してもらいたいタイミングで相手DFの間のスペースに動くことができた。試合でもうまく機能して相手守備陣形を崩せるようになると、DFの裏にうまく飛び出す野口が得点を決めていったんだ。その後、野口はあれよあれよという間に日本代表FWにまで登りつめたというわけだ。

その年、フジタはJSL2部(現在のJ2相当)で優勝したんだけれど、個々の能力はずば抜けていた。前線と中盤の他に、右SBには名良橋晃、左SBには岩本輝雄。槍の名良橋、技巧の岩本。岩本も元々は中盤の選手だったけれど、ニカノールがコンバートした選手だ。

あの頃、ヴェルディ川崎(現在の東京ヴェルディ)と試合した時にラモス(瑠偉)が岩本のプレーに驚いていたよ。「あの岩本ってのはなんだ? うまいじゃねーか」とね(笑)。ただ、岩本は守備がそれほど得意ではないし、攻め上がる時間が多かったから、センターバックだった私への負担は大きかったけどね(苦笑)。

それくらい選手個々の能力が相手チームよりも際立っていないと、4-4-2というフォーメーションで相手を上回ることは難しいということ。あるいは、堀前監督は4-3-3や4-4-2だけではなく、ペトロビッチ体制で築いた3-4-2-1をうまく併用できていればよかったのかもしれない。

確かに、前任者のやり方を引き継ぎながら足りない部分を補うタイプの監督もいるけれど、堀前監督が戦術をガラッと変えたのは、彼には彼のサッカー観があったからだろう。言うのは簡単だけれど、実践するのは相当な苦労が伴う。プロサッカーチームの監督がいかに難しい仕事かということだ。

大槻毅監督が暫定で指揮を執ることになった浦和は第6節の仙台戦で1-0と勝利。まだシーズンは始まったばかりだから、ここから巻き返しはいくらでも可能だ。Jリーグが盛り上がるためにもこの危機を乗り越えて、昨年のACL王者の意地を見せてくれることに期待したい。

(構成/津金壱郎 撮影/山本雷太)

■宮澤ミシェル










1963年 7月14日生まれ 千葉県出身 身長177cm フランス人の父を持つハーフ。86年にフジタ工業サッカー部に加入し、1992年に移籍したジェフ市原で4年間プレー。93年に日本国籍を取得し、翌年には日本代表に選出。現役引退後は、サッカー解説を始め、情報番組やラジオ番組などで幅広く活躍。出演番組はWOWOW『リーガ・エスパニョーラ』『リーガダイジェスト!』NHK『Jリーグ中継』『Jリーグタイム』など。

浦和の指揮官解任で監督という仕事の難しさを考察。王道の4-4-2はハマれば最高に魅力的だが…