「恋愛の神様」北川悦吏子が手がける朝ドラ『半分、青い。』が2日にスタートし、第1週を終えた。まるで映画のワンシーンのような美しい冒頭のシーン、そこから商店街を俯瞰でとらえ、ズームしていくようなカメラワーク、一転して家庭のシーンで流れる軽妙なピアノのBGMに、『カーネーション』を思い出し、胸が高鳴る。と思ったら、演出が『カーネーション』と同じ田中健二氏だった。

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 ところで、放送開始前から「朝ドラ初の胎児から始まるヒロイン」が話題となっていたが、1週間見て、その「仕掛け」が単なる話題作りではなかったことを確信した。
 
 冒頭では、学校から帰ろうとするヒロイン・鈴愛(永野芽郁)が雨に降られ、困った様子で佇んでいる。と、背後から駆け寄り、「ほい」とビニール傘を手渡して、頭の上に鞄をのせて走り去る律(佐藤健)の姿が映し出される。律が傘を差し出したのは、鈴愛の不自由な左耳ではなく、右側から。おそらくいつでも無意識にそうしてきただろうことが窺える。

 傘を開くと、骨が一本折れている。ヒロインのナレーションは言う。「この傘を不格好と思うか、ちょっと面白いと思うかは、その人次第で」。おたふく風邪で左耳の聴力を失ったヒロインは「左側に降る雨の音は聞こえなくて、右側だけ雨が降ってるみたい。でも、これを悲しい、と思うか、面白い、と思うかはその人次第。私なんかはちょっとこれ、面白いと思うんだ」。たった90秒程度の映像に、ヒロインのキャラクターが集約され、律との関係性も見える。ただし、この時点ではまだ律が、朝ドラによくある「ヒロインを生涯見守る幼馴染みで、良き理解者」に見える。

 そこから物語は、二人がまだ生まれる前、「胎児」の頃にさかのぼる。
 
 鈴愛の母・晴(松雪泰子)は腎臓を患っていることもあり、「子どもは作らないようにしていた」。そのため、妊娠が発覚したときも、喜びよりもまず「どうしよう…」が先にくる。一般的に朝ドラではびっくりするほどポンっと簡単に子どもが生まれてくる作品が多いが、今作では1、2話を費やし、珍しいほど丁寧に出産を描いた。クビにへその緒が巻きついている危機があったり、産む決意をした晴が、あまりの陣痛の長さ・辛さに「もう子どもなんかいらん!」と途中で叫んだりする場面もある。そうした妊娠・出産の過程で、胎児ナレーションはお調子者感を漂わせてツッコミを入れたり、慌てたり、おとぼけコメントをする。

 「胎児」の目線で描くことに、込められていたのは「生まれてくるのが当たり前じゃない」ことだったろう。そして、この出生によって、鈴愛と律、それぞれのキャラクターと関係性が色濃く浮き上がってくるのだ。

 出産のもう一つのリアルは、同じ病院で同じ日に生まれる律の誕生シーンで描かれる。鈴愛を産むために晴が15時間以上も陣痛と格闘し、地獄絵図の苦しみに耐えるのに対し、おっとりした律の母・和子(原田知世)は優雅に海外のミステリー小説など読みながら、陣痛を待つ。いざ陣痛が来ても、慌ただしそうな看護師さん達に声をかけられず、分娩台を晴に使われていたため、急遽待合室をパーテーションで囲んでするりと出産。こちらは対照的な超安産である。

 そして、第3話冒頭ではナレーションが、知的で冷静な律の胎児にチェンジする。生まれたてで母親に 「サルみたい」と言われたシワシワの鈴愛に対して、律は最初から可愛く、看護師さんには「おりこうさんだね~」と褒められている。対面した2人。新生児・鈴愛の心の声は、「なぜ? 私より一足先に生まれたそいつは、生まれたてなのに、サルではなかったのです。つるんとした可愛い顔で。こいつ誰?」。対する律のコメントは、「何、このサル?」と、実にクール。鈴愛の家は、食堂を営む庶民的な家庭。一方、律の家は、写真館を営む裕福でオシャレな家庭。生まれ方も対照的なら、家庭環境も、キャラクターも見事に正反対だ。

 この描き方を見て気づいたのだが、律は単に「ヒロインを見守り、支える幼馴染みで理解者、ヒロインの取り巻き」なんかじゃない。もちろん幼馴染みで理解者であるのは事実だし、後には微妙な恋心も絡む可能性はあるが、二人はあくまで対等。むしろライバルや親友になるキャラの描き方に近い気がする。

 律は鈴愛に分娩台を占領されていたために、待合室で生まれることになったり、「マグマ大使」のように鈴愛に笛で呼ばれてピアノを演奏してあげたり、鈴愛発案の「川をはさんだ糸電話」計画を遂行し、川に落ちたり、一見「好き放題」されている。それでいて、クールで物理好きで、喘息持ちで、友達の少ない律にとって、行動的で明るい鈴愛は、外の世界へ引っ張りだしてくれる存在だ。律をいちばん輝かせるのも、鈴愛なのだ。

 朝ドラではヒロインを中心として「ヒロインを見守り、支える幼馴染」「恋や結婚の相手」が配置されることが多い。幼馴染は、永遠に恋の土俵に上がらず、支え続ける「いちばん都合の良い相手」であるケースも多々ある。しかし、『半分、青い。』の場合は、2人の関係は幼馴染で理解者で、親友で、ときには刺激を与え合うライバルで、凸凹の良きバディでもある。そこにはヒロインの物語と同時に、対等な世界として律の物語が広がっている。

 信頼感やトキメキに加え、2人の真逆のキャラが紡ぐ物語は、『ふたりっ子』の麗子と杏子、『ちりとてちん』のA子とB子、『カーネーション』の糸子と奈津、『花子とアン』のはなと蓮子のような、太陽と月、光と陰のような味わいも楽しめそう。後にはここに、中村倫也なども絡んでくると想像すると、一粒で何度も楽しめそうな関係性なのだ。(文:田幸和歌子)
『半分、青い。』でヒロイン・楡野鈴愛役を演じる永野芽郁 クランクイン!