「権限を乱用し、国政を混乱に陥れる不幸が繰り返されないよう厳重に責任を問われなければならない」。5日、サムスングループなどから巨額の賄賂を受け取ったとして18の罪に問われていた朴槿恵前大統領にソウル中央地裁が言い渡したのは、懲役24年、罰金180億ウォン(約18億円)という非常に厳しい判決だった。


 大統領府の報道官は判決を受け「すべての人の胸に干からびた寂しい風が吹いた。忘れられた歴史は繰り返されるという今日を忘れてはならない」とコメントした。


 悪者を晒して溜飲を下げるのが韓国独特の文化だとも言われるが、朴前大統領の判決公判の模様は韓国史上初めてテレビ中継され、視聴率は8局の合計で17%を記録した。朴前大統領は生中継に異議を申し立てていたが、裁判官は「裁判の重大性、歴史的意味、国民の関心と知る権利などを考慮し」、許可を与えた。光州事件で民衆を弾圧した全斗煥元大統領や、巨額の不正蓄財で起訴された盧泰愚元大統領のように、囚人服姿をカメラの前に晒すのを避けたのだろうか、朴前大統領は体調を理由に出廷を拒否した。


 ソウル地裁前に集まった人々は「大統領に罪はない。国民が命じる。即刻釈放!即刻釈放!」と大きな声をあげた。その多くは保守系の中高年だ。地面に横たわって抗議の“die-in”を行った他、文在寅大統領は金正恩委員長の操り人形だとのパフォーマンスも行われた。


■「歴代大統領で唯一クリーンだったのではないか」

 7日に出演したAbemaTV『みのもんたよるバズ!』に出演した元在韓国特命全権大使を務めた武藤正敏氏は「朴槿恵前大統領は歴代で唯一クリーンだったのではないか。親の財産もほとんどなかった。そして、自分がこの国を一番大事にしていると信じて疑わなかった大統領だとも思う。お父さんが暗殺された時にはまだ28歳だったが、第一声は"38度線は大丈夫ですか?"だったと言われている。両親が暗殺されて、将来がどうなるか分からない時に国のことを思う、そういう人だった。歴代大統領の中には、本人が捕まらなくても親族が捕まっている人もいる。だから朴前大統領は妹や弟を自分に近づけなかった。ただ、崔順実というちょっと怪しげな人が近くにいて、悪さをした。それと同一視されてしまったのは非常に不幸なことだと思う」と話す。

 4年前に『大統領を殺す国 韓国』を出版したコリア・レポート編集長の辺真一氏も「朴槿恵政権誕生の段階で、李明博元大統領はおそらく捕まるだろうと予想していた。ただ朴槿恵前大統領の逮捕までは予期できなかった。清廉で潔癖な、初の女性大統領が不幸な歴史にピリオドを打つのではないかという期待もしていたが、残念ながらまた歴史が繰り返した」と嘆息する。


 「韓国では政権交代が起きると政府機関・関連団体のトップなども総入れ替えされる。韓国は日本以上に学閥や親族・縁故関係を大事にするので、当然のようにおこぼれ、ポストをもらおうと、砂糖に群がるアリのように人が集まってくる。色々な財閥や企業が、税金を使った大きなプロジェクトにありつくために袖の下を渡す。大統領も大きな権力を持っているし、次の選挙でも勝たないといけないので、当選させてもらった恩返しのようなことをやっていく。そういうことが5年の任期中に広がり、全斗煥元大統領、盧泰愚元大統領はいずれも日本円で約200億円以上、朴前大統領も約56億円を受け取ったとされている。日本の政治家の贈収賄とは規模が違う。金泳三大統領は"賄賂はびた一文もわらない"と名台詞を吐き、大統領官邸の昼食も質素なものばかりだったが、結局は名代となっていた次男が金を集めるという結果になってしまった」。


■「政治絡みの話になると人治になってくる」

 保守と革新がほぼ2代・10年ごとに政権交代をしてきた韓国では、冷や飯を食わされた人々が前政権に"仕返し"をする歴史が繰り返されてきたという。先月には同じ保守系の李明博元大統領も収賄や背任などの容疑で逮捕されており、実に1年で2人の大統領経験者が収監されるという異常事態となっている。


 それだけではない。韓国では今まで12人が大統領に就任しているが、そのほとんどが悲惨な末路をたどっている。朴被告の父である朴正煕元大統領は側近に暗殺され、盧武鉉元大統領は李明博政権下、収賄容疑で調査を受けている時に自殺。この件が文在寅大統領にとって盟友を死に追いやった許せない存在だった李氏の逮捕につながったとも言われており、李元大統領は「これは左派の現政権による政治報復だ」と訴えている。

 辺氏は「自分のクリーンさをアピールするために、前任者のダーティーな部分をあぶり出していく。イメージ戦略のためにはこれが手っ取り早い。支持率が急落し、レームダックに陥った政権が起死回生のためにこの手を使ってきた。朴前大統領も、政権末に李明博元大統領を逮捕するんじゃないかと思っていた」と話す。


 「朴前大統領は"これは冤罪だ。政治報復だ。真実は必ず明らかになる"という確信に近いものを持っていた。だから判決の時にも出てこない。しかし、裁判所にはこれが非常に不誠実に映り、保釈もはねつけられた。今回の判決は度が過ぎていると個人的には思う。しかし、世論調査をするとおそらく圧倒的多数が極めて妥当だと回答するだろう」。


 武藤氏は「"韓国は法治国家なのか"とよく言われる。法治ではあるが、政治絡みの話になると人治になってくる。裁判所はもろに国民受けする判決を出す。朴前大統領は崔順実被告の幇助をしたということで、お金はほとんど入っていないし、悪気があってやっていたわけではない。それなのに崔被告よりも刑罰が重いというのはおかしい。やはり政治報復の側面がある。機密漏洩についても、でっち上げられた部分があると思う。韓国では政権交代の度に、前任者たちを全て排除してきた。金大中元大統領は排除しないようにした。李明博元大統領もそうだ。朴槿恵前大統領もまさにそうだった」と指摘した。


■文大統領の行き着く先も…?

 韓国政治は、こうした"不幸な連鎖"を断ち切ることはできるのだろうか。現職の文在寅大統領は、検察と国家情報院などの改革を進めようとしているという。


 辺氏は「チェック機能が必要だ。親族や側近、お友達が悪さをしないように司法が監視する。ただ日本における最高裁長官、検察庁長官、警察庁長官、さらには首相などの人事権を大統領が持っているので、在任中の5年間はチェックできないシステムになってしまっている。ありとあらゆる権力を持っているという意味では、韓国の大統領は独裁者だ。北朝鮮と形は違うが独裁者であることには変わりがない」と指摘。

 その上で、「朴前大統領の判決に対する、野党第一党・自由韓国党党首のコメントが意味深長だった。"必ず文大統領にブーメランで返ってくる"と。自由韓国党が政権の座に就けば、文大統領も同じ目に遭うということだ。もちろん文大統領は"自分は同じ過ちを繰り返さない"と思っているかもしれないが、周りで神輿を担いでいる面々を叩けば必ず埃が出てくる。そうなると、行き着くところは文大統領がお縄を頂戴するということ」と話した。


 武藤氏は「文大統領は検察や国家情報院の強い力を削ごうとしているが、改革委員会のトップには学生運動をやってきたような人を就けている。これは自分たちの都合のいいような組織に改革しようとしている。歴代大統領で最も人気があり、今の状況では何とも言えない」とした。(AbemaTV/『みのもんたのよるバズ!』より)


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