警察には頼れない、被害届も出せない――約1000万円近い仮想通貨を盗まれた出野達也(23歳)は入会したばかりのオンラインサロンに事の顛末を綴ったところ「今回の経緯を書籍化したら半分くらい取り戻せるんじゃない?」と謎の提案をしてくるA、Bが出現。オトナ二人のペースに巻き込まれつつも、出野の脳裏には「?」だけが積もっていくのであった。「お金0.0」、連載第8回。今回も希望と現実の狭間で、出野が揺れ動きます

第8回 じゃあの

——-先週からのつづき

出野達也
「国よ、税は血眼になって取るが、僕の失ったお金に興味はないのか。
 部屋の中で考えてます。
 どうしようか・・・どうしよう。
 ふわふわしてる。日本円が目の前にあるとわかりやすいけど
 仮想通貨だから仮想だし・・・
 本当に盗まれたのか・・・
 これからどうしよう。
 みんなになんて話そうかな・・・
 明日からどうしよう。明日は、アルバイトだ・・・
 アルバイト増やすしかないのかな。
 今月中に90万は無理だろ・・・
 ほんとどうしよう・・・
 まじで、悩んでます。
 Zaifから連絡こないですし、来たとしても被害届出したって仮想通貨の仕組み的に犯人
 突き止めるなんてほぼ不可能だろうし
 というか借りた300万すら返せない。銀行に入ってるお金は、数千円。どうしようもない。
 ないお金は稼ぐしかないと思うので、バイトしようと思いますが、ひと月で90万とか無理で
 すよね。何かご存知ですか」

A
「いい展開だなー。僕もBさんも、いままでにたくさん苦労をしてきて、いま生きている。いつかは笑える話になるから、なんでも経験するといい」

B
「背伸びしながら役者の卵をやってるよりずっと魅力的な人物になると保証するよ」


カチン


………全然わからないんですけど。


——–
—-


A
「だろうなぁ。例えば、僕は元役員にフニャ千万円横領されたけど追求しなかったことがある。」

フニャせんまん!?!?
この人は何を言っているんだ。そんな大金が消えたら、もう、どうしようもないじゃないか。なんで追求しないんだ。犯人がわかっているのに。

B
「文中の保留の♫がとてもいいですね!文章としてとてもいい。センスありますよ」

出野
「なぜですか。」

A
「ナイショ。送別会やって、お別れの手ぬぐい作って泣いてる社員もいた。」

……訳がわからない。ってそんなことを考えている場合じゃない。大金を動かせるということは、この人は何かしらの力を持っているのか。

出野
「Aさん。オンラインサロンのメンバーに、働きますからお金くださいってアリですか?」

A
「あのね」

出野
「はい」

A
「Bさんが文章を褒めてくれたのは見えてる?」

出野
「はい」

A
「ならばしっかりとお礼を言った方がいいんじゃないかな。」

出野
「……すみません。 Bさん。ありがとうございます。めっちゃ嬉しいです。」

B
スタンプ

A
「助け甲斐のない人間からは、僕らは音もなく立ち去るので、どんな状況でも優しくステキな人でいた方が良いとおもいます」

出野
「はい…」

A
「さっきオンラインサロンのほうでも書いたとおり、ピンチは当人の器を試しにきたチャンスさんです。ねぇ、Bさん」

B
「自分はここに至る経緯を詳しく知りませんが、盗まれた仮想通貨を取り戻す労力をかけるより、この過程を文章にして、リアルタイムでご自身がもがきまくって、泥だらけで奮闘する姿が、めちゃ面白い人生劇場となり、結果としてお金の回収にもつながる、ということなのでは」

A
「達也くんを主役とした映画が始まろうとしているとき、オープニングにハッピーエンドが来るわけがない。これからどうなるんだろうというのは理想的なツカミです。そうそう、まさにBさんと同じ考えです」

B
「もしそうであれば、リアルタイムで行動しまくって、その模様をどんどん原稿にしていく」

A
「そうそう」

B
「実話に勝るドラマはありません」

———
——

そうか、この二人はこんなことを考えてたのか。ピンチは当人の器を試しにきたチャンスさん。
確かに今、僕はどっから見てもピンチだ。正直どうしようもない。方法も浮かばない。でも、この人たちの言うとおり、もがいている様子が本になったり漫画になったり映画になったり…いやいや、ならないでしょ。

いや、でも、なんだろうこの自信満々の人たちは。僕に見えてない未来が見えてるんだろか。僕の不幸で一儲けしたいんだろうか。そうはいきませんよ。どっちかというと僕はもう真面目に堅実に生きたいんです。だから面白がってないで、なんかお仕事を紹介してくd…

【着信:母】

僕「…はい」

母「何してるん?」
僕「い、家にいる」
母「それで?」
僕「それで?」

母「親友さんに、お金なくなったこと、ちゃんと言えたん?」
僕「まだ、いえてない」

母「はあ?(゚Д゚)なんで言わへんの?」
僕「…機会を…逃した」
母「アホか。逃すな。はよ言わなあかんやろ」

僕「……」

母「伯母ちゃんと弟にも言うで」
僕「え…それは…僕から言うよ…」
母「いつ言うんよ?」
僕「どうするか考えてる。まだ取引所から返事もきてないし」

母「でも、オカネもう返って来ぉへんねやろ?」
僕「…まだ…わからんよ…」
母「私と伯母ちゃんと弟は、今返さんでいい。でも、親友さんには、言ってすぐ返さなあかん」
僕「うん…」
母「はよ言いなさい」
僕「ハイ…」

母「じゃあの」


ガチャリンコ


正論だ。こんなに正論を言う母だったのか。AさんBさんの話はいつ形になるかわからないけど、お金が入るとしてもずっと先のはずだし、それはそれとして乗っかりつつ、オカンの言うとおり今の状況は親友に伝えておくべきだろう。気が重いなぁ…。ほんとに気が重い。LINEで送って、返事がなかったら今日はもう寝てあした考えよう。サッと送ろう。うん。そうしよう。



「あの…、今晩のご予定はいかがでしょうか。お話したいことがあります」


ピコ-ン


食い気味に返事が来た…

親友
「わかりました。いつもの日本酒居酒屋にしましょう」



「…お願いします」



次号へつづく

【出野達也 (いでの・たつや) 】
1994年、兵庫県生まれ。かけだし俳優、日本酒マニア。高校卒業と同時に上京。文学座附属演劇研究所卒業後、エキストラやアルバイトをこなす。のちに、仮想通貨で大金を得るが、盗まれる。
Twitterアカウント(@tatsuya_ideno