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もう半年以上経ったからここで紹介してもいいだろう。昨年の夏、ある雑誌の取材でカーデザイナーの和田 智さんと対談をした。日産自動車を経てアウディに移籍し、先代A5をはじめとする数々の名車を世に送り出した。現在は独立しフリーのカーデザイナーとして活躍している。text:岡崎五朗 [aheadアーカイブス vol.173 2017年4月号]

VOL.93 キーワードは“余白”
アヘッド 岡崎五郎のクルマでいきたい

和田さんに会ったら、絶対に聞きたいと思っていたことがあった。それは「いまの日本車、とくにトヨタ車のデザイン、どう思いますか」ということだ。プリウスやシエンタなど、突飛とも言うべき攻撃的なデザイン構成を仕掛けてきているトヨタ。でも僕の目にはどうしても魅力的に見えない。ならばプロはどう見ているのか?

フリーのデザイナーという立場上、個別のモデルに対する感想を言うのは避けたいのですが…と前置きしつつ、いろいろなことを話してくれた。詳細は伏せるが、和田さんの言葉のなかでもっとも印象に残ったのは「余白」というキーワードだった。美しいデザインに必要なのは余白であると。

これを聞いて、僕のなかにあったモヤモヤがスッと晴れ、最近のトヨタデザインに対する違和感の原因がストンと腑に落ちた。雑誌に例えるとわかりやすいだろう。ゴシップ記事を売りにしている週刊誌の誌面はたくさんの小さな写真や文字やタイトルでびっしりと埋め尽くされている。

それに対し、高級ファッション誌は一枚の写真を大きく使い、余白も多い。写真集や画集に至っては、上質な紙に贅沢なまでに余白を使って写真や絵をより美しく見せようとしている。

クルマのデザインも同じことなのだ。線を引いたり曲げたり膨らませたり凹ませたり、デザイン要素が多くなればなるほど、派手にはなるが、本来の美しさはスポイルされる。逆説的に言えば、プロポーションが美しくないと、それをカバーするためにたくさんのデザイン要素を与えざるを得なくなるということだ。

美しいカーデザインのキモはプロポーションにあり、線や面の凹凸はそれを引き立たせる、あるいはカバーするものに過ぎない。そんな視点でクルマを眺めると、いままで気付かなかった新たな発見があるに違いない。

ポルシェ カレラ911GTS
アヘッド ポルシェ・カレラ911GTS

世界でもっとも成功したスポーツカーとして知られるポルシェ911。幅広いユーザーニーズを満たすべく、1309万円というプライスタグを下げた911カレラに始まり、2865万円のターボSカブリオレにいたるまでそのラインアップは豊富だ。

エンジン違いや駆動方式、ボディ形状(クーペ、タルガ、カブリオレ)、RやGT3といった特別な高性能モデルを合わせると、モデルバリエーション数はなんと25種類に達する。

そんななか、新たに加わったGTSの立ち位置は絶妙だ。3ℓ水平対向6気筒ターボの最高出力は450ps。カレラ(370ps)やカレラS(420ps)を上回る動力性能に加え、スポーツサスペンションやスポーツクロノパッケージ、空力パーツ、センターロック式ホイールなどを標準装着しつつ価格を1750万円に抑えた。

といってもまあ十分高価なのだが、カレラSが1584万円することを考えると、パフォーマンスや装備内容からしてお買い得なのは間違いない。それでいて、サーキット走行を重視したGT3とは違い乗り心地や静粛性に対する配慮もきちんとされているため日常的にも無理なく乗りこなせる。

そう、普通のグレードでは物足りないけれど、ターボやGT3までは要らないなと考える911好きのニーズにピタリと当てはまるのがGTSというわけだ。

南アフリカで開催された国際試乗会では、一般道に加えサーキット試乗もできた。ひと言でいうと、GTSの魅力は途方もなく高いバランス感にある。サーキットでの絶対的な速さだけでなく、路面の荒れたカントリーロードでの乗り心地、市街地での扱いやすさなど、どの部分を切り取っても死角がない。

もちろん、911でしか味わえない洗練度と刺激性のバランスも満喫できる。僕が911を買うならカレラを選ぶが、もし予算に余裕があるならカレラSはスキップしてGTSの購入をお勧めする。

車両本体価格:¥17,500,000(911カレラGTS、PDK、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,528×1,852×1,284
車両重量:1,470kg 
エンジン:水平対向ツインターボエンジン
総排気量:2,981cc
最高出力:331kW(450ps)/6,500rpm
最大トルク:550Nm(kgm)/2,150-5,000rpm
駆動方式:後輪駆動

ボルボ S/V90
アヘッド ボルボ S90 V90

セダンやステーションワゴンが伸び悩むなか、勢いづいているのがSUVだ。たしかにSUVはカッコいいしイマドキだ。気分を変えるために乗るにはおあつらえ向きのジャンルだと思う。けれど、ボルボS/V90に乗って、ああこういうクルマならセダンやワゴンもいいな、と心の底から思った。

まず、デザインが素晴らしい。面の折り返しやキャラクターラインを最小限に抑えたシンプルな仕上がりでありながら退屈さを微塵も感じさせない。なかでも、FR車のような伸びやかさをもつサイドプロポーションの美しさは抜群だ。見た瞬間のインパクトはあまりないけれど、見れば見るほどに味わいが増していく。

たった31文字で深く豊かな世界観を表現してみせる和歌のようなデザインだと思う。多くの登場人物が登場しどんでん返しが繰り返される長編小説とは対照的なテイストこそ、本当はレクサスに目指して欲しい方向性なのだが。

セダンのS90は500台限定で、主力となるのはステーションワゴンのV90だ。S90もなかなかハンサムだが、ボルボのブランドイメージから考えればセダンを限定としたのはまあ正解だろう。試乗したのは上級グレードのT6AWDインスクリプション。

320ps/400Nmというパワースペックを眺めるとスポーティーな走りを想像するjavascript:;かもしれないが、クルマからもっと速く走れと急かしてこないのがボルボらしい。有り余るパワーを余裕としてリザーブしつつ、流れに乗ってゆったり走れる特性は、ある意味ドイツ車より日本に合っている。

もちろん、その気になればワインディングロードでのスポーツ走行も難なくこなしてくれる。プラットフォームはSUVのXC90と共通だが、軽くて重心が低い分、身のこなしの軽快感と安心感は一枚上手だ。そうそう、シンプルなのに暖かみのあるインテリアも一見の価値あり。そして見ればきっと欲しくなるに違いない。

車両本体価格:¥6,640,000(V90)
(T5 Momentum、税込)
全長×全幅×全高(mm):4,935×1,880×1,475
車両重量:1,740kg 定員:5名
エンジン:水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量:1,968cc
最高出力:187kW(254ps)/5,500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1,500-4,800rpm
JC08モード燃費:14.5km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

スズキ ワゴンR
アヘッド スズキ・ワゴンR

93年に登場したワゴンRは、当時瀕死の状態だった軽自動車にトールワゴンというコンセプトを持ちみ大ヒットしたエポックメーカーだ。ワゴンRがなかったら、いまの軽自動車の隆盛はなかったかもしれない。

しかし、デビューから20年以上経ったいま、さすがに鮮度が落ちた感は否めない。王者だけに大胆なフルモデルチェンジができないのはわかるが、キープコンセプト型フルモデルチェンジには「飽き」「コモディティ化」といったリスクが潜んでいる。ましてや現在のマーケットはより背の高いモデルが人気を集めているのだ。


そんななか5回目のフルモデルチェンジをしてきたワゴンRは、やはりワゴンRだった。先進安全装備やマイルドハイブリッドの採用といった目新しさはあるものの、全体を俯瞰すると新鮮さに欠けるし、大きなサプライズもない。デザインも走りもパッケージングもよくできているから、そういう意味では3割バッターと言っていい。しかしホームラン王にはなれていないということだ。

定番モデルのフルモデルチェンジが難しいのはわかる。変えすぎると既存客が逃げるし、変えなければ飽きられる。サイズの拡大という伝家の宝刀を抜けない軽自動車であればなおさらだ。しかし、それにしても守りの姿勢がちょっと強すぎると思うのだ。

もし、新型ワゴンRが、ムーヴに匹敵する走りとインテリアの質感を備えていたら、かなり大きなインパクトをもたらしたはずだ。しかし、残念ながら新型ワゴンRの仕上がりは「正常進化」の域を出ていない。デザインもインテリアの質感も走りもパッケージングも装備内容も着実に進化したが、サプライズレベルには達していないのである。

ビッグネームだけにそれなりの数は売れるだろうが、ワゴンRのコモディティ化はさらに進んでいく。5年後に登場するであろう7代目が、ワゴンRの将来を決定しそうだ。

車両本体価格:¥1,177,200(HYBRID FX/2WD、税込)
全長×全幅×全高(mm):3,395×1,475×1,650
車両重量:770kg 定員:4名
エンジン:水冷4サイクル直列3気筒 DOHC12バルブ吸排気VVT
総排気量:658cc
最高出力:38kW(52ps)/6,500rpm
最大トルク:60Nm(6.1kgm)/4,000rpm
JC08モード燃費:33.4km/ℓ
駆動方式:前輪駆動

トヨタ プリウスPHV
アヘッド トヨタ・プリウスPHV

先代プリウスにもPHVはあったが、販売的には大失敗。では新型はどうなのか? 僕としてはかなりのヒット作になると予想しているし、多くの人に積極的にお勧めしたいと思った。まず注目したいのが大幅に伸びたEV航続距離だ。

外部充電によって得た大量の電力を使ってエンジンをかけずに走行できるのがプラグインハイブリッドの長所だが、先代プリウスPHVはバッテリー容量とモーター出力が不足していたため、EV走行距離が短く、なおかつアクセルを深めに踏み込むとすぐにエンジンがかかってしまった。

つまり、乗っていてハイブリッド版プリウスとの違いがわかりにくかったのだ。「充電の手間がかかる面倒で価格の高いプリウス」なんて欲しい人いますか? その点、新型はバッテリー容量とモーター出力を一気に拡大。EV走行距離はカタログ値で68.2㎞。EV走行時の最高速度は135㎞/hに達する。

実際に走らせてみたが、EVモードを選択しておけばバッテリーを使い切るまで基本的にエンジンはかからない。高速道路を含め、EVとして乗ることができるという点で先代とはまったく違うクルマになった。

バッテリーチャージモードを使えばエンジンの動力を使って充電することができる。たとえば高速走行時に電力を蓄え、市街地に入ったらEV走行なんて使い方も可能だ。最近は欧州勢もプラグインハイブリッドを続々投入しているが、最大の違いはモーターとエンジンを併用するハイブリッドモード時の燃費。

ライバルたちがエンジンがかかった途端がっくりと燃費を落とすのに対し、プリウスPHVはエンジンがかかっても素晴らしい燃費をキープする。このあたりはさすがプリウスだ。

また、将来的には大電流をとりだして、災害時にコンビニなどのライフラインを稼働させる計画もあるという。プリウスよりかなりマトモになったデザインを含め、PHVこそ新型プリウスの本命だと思う。

車両本体価格:¥4,222,800〜(Aプレミアム)
全長×全幅×全高(mm):4,645×1,760×1,470
車両総重量:1,750kg
定員:4名 
エンジン:水冷直列4気筒DOHC
総排気量:1,797cc
[エンジン]
最高出力:72kW(98ps)/5,200rpm
最大トルク:142Nm(14.5kgm)/3,600rpm
[モーター]
最高出力:53kW(72ps)/23kw(31ps)
最大トルク:163Nm(16.6kgm)/40Nm(4.1kgm)
ハイブリッド JC08モード燃費:37.2km/ℓ
EV走行距離:68.2km
駆動方式:前輪駆動

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text:岡崎五朗/Goro Okazaki
1966年生まれ。モータージャーナリスト。青山学院大学理工学部に在学中から執筆活動を開始し、数多くの雑誌やウェブサイトなどで活躍。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』に出演中。

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