ふつうに“歌うま”な俳優が山ほどいる韓国ミュージカル界。そのなかでも、歌を一聴しただけで誰もが認める“天性の声”をもつ俳優がチェ・ジェリムだ。パワフルで伸びのあるハイトーンが魅力の彼が、驚異のスーパーボイスをひっさげて6月、待望の再来日コンサートを果たす(4月9日よりチケット発売)。現在、韓国でも大ヒット中のミュージカル『キンキーブーツ』(4月1日まで)でドラァグクイーンのローラ役に挑みつつ、コンサートへの準備を進めているという彼に話を訊いた。

 [写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

[写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

――韓国では3度目の再演となる『キンキーブーツ』ですが、ジェリムさんがローラを演じると発表されたときは「おぉっ!」と驚きました。フェミニンな役柄がちょっと想像できなかったです。

実は昨年の再演の時にもオファーがあったんですけど、スケジュールが合わずに残念に思っていたんです。ありがたいことに今回また誘っていただいたのでオーディションを受けることになりました。だけど僕はちょっと欲張ってチャーリー役と両方準備して臨んだんです。自分がこれまでやってきた役柄はチャーリーのほうが近かったので。でもオーディションの映像をブロードウェイの制作チームに送ったら、ローラのほうが合うんじゃないかという返事が来て、韓国のスタッフもローラをやればもっといろんな面を見せられるのでは? と思っていたそうなんです。それで結局ローラを演ることになりました。

――舞台を拝見してローラにとてもハマっていたので感心しました。“俳優チェ・ジェリムは役者として新たな扉を開いたな!”と思ったほどです。

実は僕……元々はとても不愛想なほうなんですよ(苦笑)。家族や10年来の友達とか、本当に近しい人にじゃないと愛嬌を振りまいたり(日本語で)“ヤサシイ(優しい)”感じにできないので、その部分が一番心配だったんです。ローラは明るく前向きで愛らしいキャラクターじゃないですか。ファーストシーンからそういう姿を見せなくてはいけないので、それが悩みでもありました。僕は背が高くてひょろっとした体だから(笑)、全然女性っぽくないじゃないですか? しぐさや喋り方も含めて演出家さんに「まだまだ男くさい。もっとソフトにしないと」とダメ出しされて。指先のちょっとした動きなど、細かい部分まですべてが合わさって観客には初めて女性らしく見えるんですよね。なので稽古を始めて3週間くらいはかなり苦心しましたね。

長身で手足が長く、舞台映えするチェ・ジェリムのローラ  ©韓劇.com 取材協力:CJ E&M

長身で手足が長く、舞台映えするチェ・ジェリムのローラ ©韓劇.com 取材協力:CJ E&M

――ローラといえば、厚化粧とヒールの高いブーツが特徴ですが、体験してみていかがでしたか?

今回、生まれて初めてヒールを履きました。制作スタッフにも「ヒールは大変だよ」と聞いていたんですけど、最初は稽古用にヒールのあるダンスシューズを提供されて、僕専用のブーツが出来上がってからはそれを履いてずっと稽古しました。振付の稽古から始まったんですけど、ヒールを履くとつま先で歩かなくてはいけないでしょう? それで最初の数日は足の指が痛くて仕方がなかったです。稽古の時は8cmくらい、本番では15cmヒールのブーツを履くんですけど、本番用はつま先のほうにも厚みがあるので、実質高さは10cmくらいなんですね。おかげでそれほど大変ではなかったです。今ではもうラクラクですよ(笑)(余裕の表情)

――何が一番驚いたって、モデルのようにスラリとした脚線美でした。たぶん世界中のどのローラよりも美しい脚を持つローラではないかと(笑)

おぉ~ありがとうございます!(笑)(と嬉しそう)。ローラをやるために2kgくらい痩せたんですけど、幸い僕はあまり太らないほうなので、ダイエットにはそれほど苦労せずに済みました。逆にボクシングや、スーツを着て男性として登場するシーンのために、身体を引き締めるようなウエイトトレーニングを続けています。

ローラとドラァグクイーン仲間の6人のダンサー「エンジェル」たちの完璧なアンサンブルが観客に大人気!  ©韓劇.com 取材協力:CJ E&M

ローラとドラァグクイーン仲間の6人のダンサー「エンジェル」たちの完璧なアンサンブルが観客に大人気! ©韓劇.com 取材協力:CJ E&M

――ローラやエンジェルたちは女性より美しいですけど、美貌を保つためほかに努力していることは?(笑)

ムダ毛を処理するのに2回ぐらいワックス脱毛をやったんですよ……僕はもともと痛いのを我慢できるほうなんですよ。だけど最初に脱毛したときは衝撃でした。メチャクチャ痛くて!(一同笑)。あ~女性は日頃脱毛するために大きな対価を払っているんだなと分かりました(笑)。エンジェルたちは露出がもっと多いですけど、僕は脚を見せる程度なので、それに気づいてからは脚だけしっかりやっています(笑)。

――では歌のほうでは、どういう部分に重点を置いて稽古しましたか?

音楽監督と一番話し合ったのはやはり発声的な部分。僕が声楽専攻なので高音や力を込めて歌うシーンで声楽的な声になってしまう時があるんです。でもローラの曲はソウルフルでファンキーな曲が多いので、声楽的に歌うと全然合わないんですね。それで音楽監督には「もうちょっとハスキーな声で」とか「もう少し後ノリでファンキーに」と要求されて、歌の稽古を始めて2週目くらいにようやく「良くなったね」と言われました。

 [写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

[写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

――『キンキーブーツ』ではどのナンバーがお気に入りですか?

ローラ役としては、後半ソロで歌う『Hold Me In Your Heart』という曲が一番重要なんですけど、僕自身が一番好きなのは、チャーリーと父親への思いを歌う『Not My Father's Son』です。他の曲はパワフルに歌う曲がほとんどですが、この曲は抑え気味に詞の内容を想いながら歌うんです。この場面は演じるたびにいいな、と思うし、好きな曲ですね。コンサートでは『キンキーブーツ』の曲も歌うように準備する予定です。

――『キンキーブーツ』を通して、俳優として新たな経験や、何か得られたものはありましたか?

これまでとは180度違う作品に挑戦して、それを観客の方々も楽しんでくださっていること。今まで出演した作品も楽しかったのですが『キンキーブーツ』はまた違う意味で楽しいというか、演じながらワクワクするんです。本編も面白いし、フィナーレからカーテンコールで観客と一緒に盛り上がるのも楽しいし、公演が終わっても「あ~今日も面白かった!今日も楽しい1日だった!」(スッキリした表情)って感じなんです。そこが一番の違いですね。

――そのワクワクしている感じは客席から見ていても十分に伝わってきました。気分が上がってくるとノリやアクションがちょっとロックシンガーぽくなっていて「ジェリムさんめっちゃ楽しそうだな~」って思いました(笑)。

ハハハ。さすが、記者さんは細かいところまでよくご覧になってますね(笑)。

 [写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

[写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

――ではここからはコンサートのお話を伺いたいと思います。今回2年ぶりになりますが、前回はチケットが完売するほどの人気だったそうですね。韓流スターの気分(笑)を味わってみてどうでしたか?

人生初のコンサートをしかも日本で。ですからすごく心配しながら向かったんです。日本では観劇文化がしっかりとできていて、観客のレベルも高いでしょう? それに合うような内容をお見せしなくては、というプレッシャーが一番大きかったです。もし僕が歌ってもシーンとしていたらどうしよう? って(笑)。でも実際歌ってみたら、ものすごく皆さん熱く反応してくださって。「うわ~!やって良かったな~!」と。もう、日本でのコンサートはいい思い出しかないですね。

――今回のコンサートはどんな感じにしたいと思っていますか?

前回は、自分らしいコンサートにするにはどうしたらいいか、スタッフと相談しながら3、4回は構成を練り直しました。ちょうど『ジーザス・クライスト・スーパースター』に出演していた頃だったので、この作品の曲を中心に、僕の好きな曲や出演した作品のなかから好きな曲も入れて構成したんです。今回のコンサートでは、2008年12月に『RENT』で舞台に立ってから、今年でデビュー10周年になるので、『RENT』から連動する曲をやってもいいかな? と。それに前回は選曲の80%がロック的なナンバーだったので、もう少し多彩な曲を歌いたいと考えています。

 [写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

[写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

――今年でデビュー10周年とおっしゃいましたが、そもそも俳優を志したきっかけは何だったのでしょう?

小さいころから歌を歌うのは好きで、小6から聖歌隊で長い間活動していました。それで母に周りの方が声楽を習わせたら? と勧めるので高2の夏休みから声楽のレッスンを受け始めたんです。でも将来歌手になりたいとか、歌を仕事にしようとは全く思っていなくて、ただ歌を歌うことが楽しいから続けていた感じでした。

――それでもミュージカルの道に進んだんですね。

僕は21歳のときに兵役に就いて、配属された空軍の軍楽隊にミュージカルをやっていた後輩がいたんです。その子と一緒に軍生活をしつついろんな話をしたり、公演をやったりしているうちに、自分で楽しみつつもうまくやっていけそうなのはミュージカルじゃないか? と思い始めました。23歳で除隊してからミュージカルについていろいろと調べはじめて。でも舞台には立ちたかったけど何をどうしたいというのはまだなかったです。

――ミュージカル俳優を志してわずか1年でデビューとは、すごいですね。

ミュージカルを本格的に始めたのは遅かったけど、24歳から俳優デビューできたのは早いほうだと思います。それも『RENT』でデビューできたのは幸運ですよね。この時は、制作会社側にスター俳優を使わず、無名の新人を起用するというコンセプトがあったそうなんです。それでたまたま僕が入ることができたんじゃないかと。

 [写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

[写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

――これまで出演したなかで印象深い作品はどんなものがありますか?

『RENT』はやはりデビュー作ですから、これは外せないですね。それと『ネクスト・トゥ・ノーマル』(2011、12、15年出演)の場合は、僕が2009年に初めてブロードウェイに行ったときに見た作品でした。のちに僕が演じるゲイブという役にハマって、もしこの作品を韓国で上演するならば何が何でもゲイブを演る! と思っていたら、本当に1年後公演が決まったので、オーディションが始まってすぐに応募したんですよ。俳優として僕が名前を知られた作品にもなったし、脚本も曲も、構成するすべての要素が卓越している作品だと思います。

――コンサートでは出演されたブロードウェイミュージカルの名曲もたくさん聴けそうですね。では最後に、再来日を楽しみにしているファンの皆さんにメッセージをお願いします。

僕は一度も日本で舞台をやったこともないのに、また呼んでくださったこと自体がありがたいです。頑張って準備して、チェ・ジェリムという俳優が2年前よりもさらに成熟したな、と思っていただけるような内容にしたいと思っています。

 [写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]

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【プロフィール】
チェ・ジェリム(최재림 Choi JaeRim)
1985年4月29日生まれ。京畿道(キョンギド)水原(スウォン)出身。
学生時代から聖歌隊で歌の楽しさを知り、本格的に声楽を学ぶ。2008年にミュージカル『RENT(レント)』のコリン役で初舞台を踏む。10年『南漢山城』、11年『春のめざめ(スプリング・アウェイクニング)』『ネクスト・トゥ・ノーマル』など、デビュー直後から話題作に次々と出演。14、15年には『レ・ミゼラブル』日本公演にも主演したヤン・ジュンモが企画・演出を務めた小劇場オペラ『リタ』で演じたジゴロなガスパール役が評判に。15年の『ジーザス・クライスト・スーパースター』ではユダ役とジーザス役の両方を演じるという画期的な偉業をなしとげている。17年には『タージマハルの近衛兵』で演劇にも初挑戦した。現在、韓国芸術総合学校 演劇院演技科修士課程に在学中で、歌のみならず演技にもさらに磨きをかけている。今回は日本に行ったらまず美味しいラーメンを食べに行きたいそう。
 

取材・文:さいきいずみ(韓劇.com http://han-geki.com
写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)

チェ・ジェリム [写真:キム・ジヒョン(Studio LAON)]