焼肉業界最大手「牛角」チェーンが食べ放題を強化している。一般の牛角に食べ放題を導入するだけではなく、食べ放題専門店「牛角ビュッフェ」を開発。牛角ビュッフェはタッチパネルで注文するテーブルオーダー形式で、首都圏で7店を展開するまでに増えてきた。

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 経営するコロワイド傘下のレインズインターナショナルでは、「まだ実験段階にある」と慎重な姿勢を保ちながらも、「集客好調」(同社・広報)と自信を見せており、牛角の将来を担う業態と期待度が高い。

 牛角の顧客層はファミリーに移行しており、かつてのような若者が集まる店ではなくなってきている。アルコールを前提とした居酒屋的な店から、子供連れで行けるファミレス的な店への移行が課題となる中で、導き出された解が牛角ビュッフェなのである。

 つまり酒を飲まなくても満足できるのが、牛角ビュッフェのテーマだ。

●肉の鮮度が高い牛角ビュッフェ

 牛角ビュッフェのシステムはシンプルだ。食べ放題は100分。1人あたり75品で2680円(税抜き、以下同)、100品で2980円、プレミアムコースだと120品で3980円だ。ドリンクバーは別途390円で付けられる。アルコール飲み放題は1280円である。

 平日限定のランチメニューも実施しており、680円~1380円で、冷麺、ハンバーガー、焼肉、ステーキなどが味わえる。50品以上で1980円というお得な食べ放題もある。

 なお、一般の牛角は食べ放題90分で、80品以上2980円、100品以上3480円、120品以上4380円の3コースがある。牛角ビュッフェのほうが一般の牛角よりも1割ほど安く、時間も10分長い。

 店員によると、牛角ビュッフェの特徴は店内で切り立ての肉を提供する点にある。一般の牛角は肉をカットする際に一度解凍して、再冷凍した後に店舗に配送している。冷凍する回数が少ないため、一般の牛角よりも肉の鮮度が高いのだそうだ。

●主要顧客が若者からファミリーへ

 レインズの業績は順調だ。2018年3月期第2四半期は売上収益385億9200万円(前年同期比24.9%増)、営業利益27億7400万円(前年同期比53.7%増)と伸びている(ただし、この好業績にはレインズインターナショナルUSAとフレッシュネスの買収効果が大きく影響している)。

 コロワイドは約300億円で買収した「かっぱ寿司」の再建には苦慮しているが、約137億円で取得した牛角を中心とするレインズは貴重な収益源となっている。

 牛角は約20年前に、ジャズが流れるおしゃれな雰囲気でお酒を飲みながら楽しむ、新しいカジュアルなスタイルの焼肉店として登場。若者、女性でも手頃な値段で心地よく食事ができる店として、全国にフランチャイズ(FC)展開し、焼肉ブームを起こした。例えば「焼肉デート」という言葉は、牛角が登場して以来、定着したものである。

 しかし、都心部や駅前で会社帰りに牛角をよく使っていた顧客たちは年齢を重ね、今や子育て世代となっている。従って牛角ビュッフェは車で来店する郊外か、ショッピングセンター内に設けられており、従来店とは立地面で差別化されている。

 牛角ビュッフェ1号店は14年4月、千葉県富里市の東関東自動車道・富里I.C.近くにオープン。隣には同じレインズが経営する「しゃぶしゃぶ温野菜」があり、大きな家電量販店やホームセンターが付近にある。2号店は15年5月、東京都町田市の京王相模原線・多摩境駅の近くにオープン。多摩ニュータウンで最も新しく開かれた新興の住宅地であり、ゆったりとした一軒家が多い。

 どちらも30~40代の住民が多く、まさに00~10年頃に牛角に足を運んでいた世代の街という感じだ。その後、千葉県市川市や東京都世田谷区などに次々とオープンしている。

●牛角の創業者とは?

 牛角のコンセプトと歴史については、創業者・西山知義氏(現・ダイニングイノベーション代表取締役会長)を抜きに語ることはできない。

 西山氏は1966年、東京都世田谷区に生まれた。日本大学法学部に在学中からイベント企画などの事業を始めた。学生起業家として頭角を現したが、経営を学びたくて大学を中退し、不動産業を営んでいた父の紹介で不動産会社に就職。賃貸営業を1年続けてたちまちトップセールスマンとなり、21歳で早くも独立。渋谷に賃貸管理会社の国土信販を設立した。

 バブル崩壊後、不動産事業に限界を感じた西山氏は、世界的に大成功を収めていたマクドナルドに関する経営書を読みふけった。本を読むだけでは飽き足らず、実際にマクドナルドの店で週3回のアルバイトを始めて、外食ビジネスの手ほどきを受けていった。

 ある時、揚げたポテトを7分で捨てるルールに疑問を感じ、「もったいないじゃないか」と店長に質問した。すると店長からは「これから何度も来てくれるかもしれないお客さまに冷めたポテトを提供すると、がっかりするだろう。君は食べたいか」と諭された。その時に西山氏はマクドナルドの根幹にある顧客本位の考え方を理解したという。それまでの西山氏の発想は、冷めたポテトをいかに売るかばかりを考えていたからだ。

 5カ月間のアルバイトでマニュアル化された外食チェーンの強さを確信した西山氏は、当時ほとんどが零細の個人店だった焼肉ビジネスに注目。焼肉でマクドナルドのような顧客本位のマニュアル化された店をつくれば、世界的に成功できると考えて、世田谷区三軒茶屋の住宅街に1996年、牛角の前身「焼肉市場 七輪」を出店した。

 内外装をこげ茶色で統一、メニューを筆書きにするなど日本的な焼肉店のイメージを構築。BGMにジャズを採用し、デザートにイタリアンジェラートを出すなど、従来の焼肉店のイメージを一新した。

●出店当初は苦戦した

 しかし、開業した焼肉店はまるで流行らなかった。素人ばかりで運営していたので、味も接客も安定していなかったからだ。

 そこで一計を案じた西山氏は、店に対する不満点を聞かせてくれたら300円割引するサービスを始めた。顧客から本音を聞き出し、業務改善、商品改良に役立てたのだ。 瞬く間に店のレベルは向上し、半年後には行列ができる繁盛店に生まれ変わっていた。翌97年には、牛の角を顧客の意見を迅速に取り入れるアンテナに見立てて、「炭火焼肉酒家 牛角」に店名を変更。フランチャイズ(FC)1号店を渋谷にオープンしている。

 レインズは今も「感動創造~すべては、お客様の笑顔のために~」を社是としている。メニューも接客も、顧客の意見を迅速にチャッチして集約。最もウケる店をつくるという考え方が、牛角という屋号に込められていると言えよう。

 98年に社名をレインズインターナショナルに変更。FC展開支援で当時辣腕を振るっていたベンチャー・リンクと提携して、7年で1000店の出店を実現した。その間、「しゃぶしゃぶ 温野菜」、「居酒屋 土間土間」といった新たに開発した業態も軌道に乗り、外食の総合企業への地歩を固めていった。

 現在の店舗数をコロワイドは公表していないが、レインズ全体で約1300店あるうちの半数強が牛角と見られる。

●食の総合企業を目指す

 その後、西山氏は外食・中食・内食を網羅する食の総合企業を目指した。04年にスーパーの「成城石井」、コンビニの「am/pm」を相次いで買収したが、企業風土の不一致やBSE問題といった影響もあって、有利子負債が膨らみ、経営が悪化。07年に投資ファンドのアドバンテッジパートナーズ傘下に入って上場廃止となった。さらに、12年にはコロワイドの連結子会社となった。

 コロワイドの居酒屋事業は総合居酒屋業界全般の不振もあって鋭意再建中、「かっぱ寿司」はライバルに押されて苦戦中だ。それに対して、少なくとも業績の数値上、最も成果が出ているのがレインズのように見受けられる。

●新業態ではライバルが主導権を握る

 順調に見えるレインズの事業であるが、牛角に関しては懸念材料がある。

 それは、焼肉食べ放題の業態が台頭していることだ。日本フードサービス協会が発表する17年の統計でも、焼肉ファミレスの売上高は前年比7.8%増、店舗数2.6%増、客数7.4%増、単価0.3%増となっている。外食では最も伸びている分野だ。

 ライバルと目される物語コーポレーションの「焼肉きんぐ」は200店を突破。すかいらーくグループのトマトアンドアソシエイツが運営する「じゅうじゅうカルビ」は67店を出店している。

 焼肉きんぐは58品食べ放題2680円からあり、肉厚のロースステーキや「きんぐカルビ」を名物メニューとしている。つまり焼肉屋でありながらステーキも楽しめる店だ。

 じゅうじゅうカルビは60品以上食べ放題2480円からあり、花が咲いたような焼き上がりの「焼きしゃぶ華焼きカルビ」、ステーキタイプの「ダイナマイトカルビ」、黒いカレーなど、華のあるメニューが多い。

 焼肉きんぐ、じゅうじゅうカルビともに、店舗数で2桁に満たない牛角ビュッフェを大きくリードしており、主導権を握っていると言わざるを得ない。

 レインズでは一般の牛角でも食べ放題を導入して応戦している。今は「肉」がブームなので目立たないが、焼肉居酒屋の業態自体が次第に飽きられている感は拭えない。

●遅きに失したか?

 牛角ビュッフェでは、従来の牛角メニューに加えて、焼肉きんぐやじゅうじゅうカルビにあるような厚切りステーキタイプの商品も売りになっている。また、「トンテキ」、「壺漬けジンギスカン」、「チーズフォンデュdeキチンバジル」、瓶に具材が入ったおしゃれ感ある「ジャーサラダ」のように、牛肉以外のメニューにも売りをつくって特徴を出そうとしている。

 しかし、レインズは従来展開してきた牛角との兼ね合いもあり、ファミレスタイプの牛角ビュッフェの出店が加速しないのが悩みの種。牛角を従来の居酒屋タイプとして残す店と牛角ビュッフェに転換する店とを早急に切り分けないと、焼肉の新潮流から取り残される恐れがあるのではないだろうか。

(長浜淳之介)

「牛角ビュッフェ」北本ヘイワールド店(埼玉県北本市)(出所:牛角ビュッフェ公式Webサイト)