UK出身ポストロックバンドフロントマン=ニック・ムーン。バンドヴォーカル/キーボードとしてのみならず、ソングライティングにおいても中心人物として、デビュー当初からその完成された世界観とメロディーセンスが高い評価を得てきたニックが、4月11日に初ソロアルバムCIRCUS LOVE』をリリース

 全曲の作詞作曲プロデュースすべてをニック本人が手掛けており、KYTEで表現されたポストロックサウンドとドリーミーな世界観はそのままに、ニック本人がここ数年間で大きく影を受けたという、エレクトロニック・ミュージックシンセポップの要素も多く取り入れた、ダンサブルかつ叙情的な作品に仕上がっている。

 今後は日本にしばらく滞在し、ライブ活動や曲作りを行っていくというニック・ムーン。2月の来日時に行われた彼のインタビュー開された。

ニック・ムーン、初ソロAL『CIRCUS LOVE』発売記念インタビュー(前編)
http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/62076


――日本についても少し伺います。いつ頃から東京に住もうと考えていたんですか?
正直なところ、初めて東京を訪れた時から、いつかゆっくり滞在してみたいなと思っていたんだ。カイト時代はそういうわけにはいかなくて、たいてい数日しかいられなかったけど、いつも面い体験をしたからね。で、ここ1~2年の間に、もっと深く日本のカルチャーを知って、どんななのか掘り下げるべく、真剣に長期滞在を計画し始めた。だって、どのもそうだろうけど、2日くらい滞在して楽しかったとしても、本当はどういう場所なのか知るのは理だよね。だからにとって、こうして実際に暮らして、特に日本語を勉強して可な限り彙を広げて、日本の様々な側面に触れるという体験は、非常に興味深い。自分の故郷とは全く異なる場所、多くの面で正反対とさえ言える場所だし、にとってひとつのチャレンジであるだけでなく、音楽作りのインスピレーションを得られると思った。慣れた環境から自分を切り離すわけだから、当然刺になるよね。

――住処を変えて、初のソロアルバムを発表するというわけですから、ここにきて新しい出発をめていたのかなと思わせるところもあります。
そうなのかもしれない。その点については、深く考えてはいないけどね。なによりもまず、自分を楽しませてくれることを探するという狙いが、の中にあった。だからこそソロ音楽を作り始めたわけだし、過去のことも将来のこともさほど考えていなかった。自宅にスタジオスペースを設けてからというもの、それがにとって要な的になったんだよ。それを実践し、結果的にアルバムという形に発展したんだけど、当初は先のことはあまり意識していなかったな。

――すでに日本でも曲作りはしたんですか?
幾つか断片的なものは作ったよ。キーボードを借りたから、たまに弾いているし。ラップトップコンピューターさえあれば、どこにいても音楽は作れる。飛行機の中だろうと、電さえあればなんとかなる。そんなわけで、日本に来てから、幾つか曲のスケッチみたいなものを作ったんだ。エレクトロニック音楽の利点はそこにもあるよね。どこにいようが、自分の身の回りからインスピレーションを得て、それを曲として表現すればいいんだから。

――日本で生まれた曲には明らかな違いがありますか?
そう思うよ。なにしろレスターは隅から隅まで知り尽くしているから、自分の音楽を聴くことにすら、適していないんじゃないかと思うこともある。は曲をひとつ仕上げると、町を歩きながらそれを聴くのが好きなんだよ。そういう意味で日本にいると、あまりにも町そのものが新鮮だから、どの方角を向いて歩き始めても、必ず初めてにするものに出くわす。近所のセブンイレブンに行くだけでも、途中で面い刺を受けて、いい気分になることだってあるよ(笑)はたいてい、自分の気分がいい時に曲を書くんだ。ちょっと説明し難いんだけど。それゆえに、どういう環境に身を置くかってことが音楽に大きな影を与える。だからどうなるか楽しみだし、東京で作り始めた曲を完成させたら、また報告するよ。

――東京で特にお気に入りの場所はありますか?
以前はずっと渋谷に夢中だったんだ。いつも来日すると渋谷近辺に宿泊していたからなんだろう。今も好きなんだけど、最近はより静かなエリアにも足を延ばしているよ。例えば新宿にはビックリした。東京のどん中にこんなセントラル・パークみたいな場所があって、静かで美しくて! しかも入園料はたった100円だから、5時間くらい過ごしちゃったよ(笑)。確か12月だったかな。ほんと、レスター公園を見せてあげたいよ。どれだけショボいか(笑)。とにかく新宿の中に入ったら紅葉した葉が舞っていて、すごくシネマティックで、「わあ、まるで映画から抜き出したシーンみたいだ!」と思った。その一方で東京には、原宿みたいな雑然とした場所もある。あまりにも多くのものが集まっていて、全てを見ることなんか不可能だよね。ほかにも多分、訪ねるべきエリアがたくさんあるんだろうな。まだ観光客が行きそうな場所しかクリアしていない気がするんだけど、こないだから渋谷まで試しに歩いてみたんだ。2時間くらいかかったかな。音楽を聴きながら、住宅街を歩いて風景を楽しんだよ(笑)。人々が普通に暮らしているを見るだけでも、にはすごく興味深いんだ。

――洗濯物が干してあったり?
そうそう(笑)。まさにそういうことが面かった。ゴミを出している人がいたり……とにかくレスターにいると、何がどこにあるのか、まず知らないことってないんだ。人々がどんな生活をしているのか知り尽くしている。それはそれですごく居心地がいい。でもたまに、頭にガツンと一撃食らわせるような、大胆な変化をめたりもするんだよね。自分をリセットするというか。年を取ってから、どこか別の場所で暮らすチャンスを逸したと思って、後悔するのはイヤだったのさ。「あの時あそこに行っていたら、どうなっていたんだろう?」と考えたりして。

――次にアルバムの各曲について話を聞かせて下さい。歌詞のこと、レコーディング時の逸話、なんでも構わないんですが、書いた順番に曲を収録したという話でしたよね。
うん、だから今振り返ってみると、変化がはっきりと見て取れると思う。『End/Gone』『Guul』『Space666』『Something』は、ピアノを弾きながら書いていた時期の曲なんだ。当時はまだ自信が足りなかったし、プロダクションに関する知識もさほどなかったからね。でもとにかく曲のアイデアが頭の中にあって、それを形にしたかった。それから、ちょうどあの頃にひとつの恋愛関係が終わって、しかもかなり真剣な関係だったんだよね。だから最初の5曲には、そのことが反映されている。は必ずしも怒っているわけじゃない。やたらを立てるタイプの人間じゃないからね。ただ、は落胆していた。そして苦々しい気分を抱いてはいた。だからそういったフィーリングについて、曲を書いてみたかった。というのも、カイト時代はあまりパーソナルな曲を書いたことがなかったんだ。だからアルバムの前半は、その流れの曲が続く。でもその後のエレクトロニック・ミュージックをたくさん聴き始めて、自分でもその要素を引用したくなった。ドラムプログラミングなんかにハマったしね。そんなわけで、あとになって最初に書いた数曲にめて手を加えて、よりエレクトロニックプロダクションを施したのさ。元々はピアノヴォーカルだけだったから。と同時に、曲の内容もだんだんポジティヴなものになっていった。プロダクションの腕が上がったことも、の気分に影を与えたのかもしれない。つまり、恋愛音楽で置き換えたってことだね(笑)

――それもなんだか悲しいですね。
うん。それに寂しいことではある。でも歌詞はいい感じに上向きの弧を描いていて、後半はハッピーになっていって、自分についてより深い充足感を覚えている。こないだアルバムを聴き直した時、最初の数曲を聴きながら「いったいなんの話だっけ?」と戸惑ったことがあった。奇妙な話なんだけね。というか、もちろん何について書いたのか自覚はあったんだけど、あまりにも長い時間が経過してすっかり乗り越えているから、現実味が薄れているんだ。まるで昔の日記読み返しているような気分だったね。「うわ、なんて情けないヤツなんだ!」って思いながら(笑)

――確かに、『End/Gone』と題された曲から始まるというのも面いですね。
そうなんだよ。大だよね(笑)。あまりに芝居がかっていて。

――そうすると、曲作りに着手したのはかなり辛い時期だったんですね。
ああ。そうだったと思う。そもそも、当時自分が書いていた曲をかが聴くことになるとは思っていなかった。特に『End/Gone』にはそういう防備さがあった。タイトルからして大で強で、歌詞は当時ののポートレイトというか、頭の中にあったことがさらけ出されている。普段は人に話したりしないようなことが。セラピストの世話になった経験はないんだけど、これまでで最も自分の心裸々にさらけ出した曲だよ。

――それが結果的に、人々がっ先に聴くシングルになるとは、皮な話です。
ほんとだよね(笑)

――『Something』でも、まだは差していないですよね。
うん(笑)。新しい人との出会いをめて、前進したいと願っているんだけど、そうすることが奇妙に感じられて踏み出せない――という状況だね。歌詞の題材としてはすごく興味深かった。その渦中にいる時は気付かなかったことが多くて。だから、破局がもたらした直接的な痛みや、それがいかに悲惨だったかを描く曲とは違って、たとえ別の人と交際を始めてもなお抱き続けるフィーリングというか、記憶みたいなものを掘り下げている。それは単純な痛みではなく、“疼き”と表現できるフィーリングで、ずっと残るものなんだよ。なぜそれが消えないのか自分でも理解できないし、説明もできない。ものすごく長い年をその人と一緒に過ごしたから、この先の人生で何が起きようと、その人はずっと自分の一部であり続けるんだ。ある意味アルバム前半の曲はみんなそういうフィーリングを扱っている気がする。乗り越えて前進しようとしているのに、すごく手こずっているの姿なんだよ。

――そういう曲群でありながら、サウンドはすごくカラフルで、濃密で、厚く作り込まれていますよね。音のを築いて、その陰に隠れて自分を守ろうとしていたところもあるんでしょうか?
そう思うよ。それは的確な摘だね。多分最初から、歌詞を隠すために厚いサウンドで包み込もうとしていたところがある。というか、元からこういうサウンドが大好きなんだ。それもある。だとしても、こういうアップビートポジティヴでメジャーコードの曲に、本来そこに乗っているべきではないタイプ歌詞が乗っているというのは、面いんじゃないかと思う。もっと繊細な曲だったら、普通歌詞シンクロしただろうから。そんなわけで、自分でもそういうコントラストは自覚していた。「サウンドポジティヴにしなければ!」とね。

――『So Well』はどうでしょう。すごくポップな曲ですね。
にとっては、ある意味でかなりポジティヴな曲だよ。なぜってこの曲は、なにかを乗り越えたあとで感じる安堵感みたいなものを描いているんだ。ここにいたってようやく、破局を振り返っても大きな葛を覚えなくなった。いちいち大騒ぎして、心を乱されるようなことがなくなった。ようやく大人な対応ができるようになった(笑)。そういう曲なんだ。そして、なりに謝ってもいるんだよ(笑)

――『Story』はファンキーでさえあります。
そうかもしれない。実は『Story』は、先に曲を仕上げたあとで、歌詞を付け足したんだ。前半の曲と同じ時期に誕生したものの、長い間インストゥルメンタルのままでほったらかしてあった。すごく気に入っていたんだ。合唱スタイルジャズヴォーカルみたいなサンプルも好きで、ヴォーカル曲に仕上げる必要性があるのか深く考えることなく、ずっと頭の片隅にしまい込んでいた。「いつかヴォーカルを加えてもいいかな」と思いつつ。そして最終的にはポジティヴな曲へと発展したのさ。

――『I Seem To Love』には古いソウルヴォーカルみたいに聴こえるサンプルが使われていて、すごく印的でした。
あれはサンプルなんだけど、が自分で歌って、それを重ね合わせてディストーションをかけたんだ。これまでサンプリングってあまりやったことがなくて、にとって新しいテクニックだったんだけど、できるだけ自分で歌って、独自のサンプル音を作っているよ。めている時代の音に似せるために、あれこれ手を加えて。音を引き延ばしたり、きを変えたりできるソフトウェアがあるからね。だからこれからもサンプリングをもっと掘り下げたい。まだまだ始まったばかりだね。ヒップホップ世界に多いけど、サンプリングテクニックに長けたアーティストは、尊敬せずにいられないんだ。

――こうして歌詞の内容について話を聴いていると、アルバム制作は非常にエモーショナルな作業だったようで、完成した時には一定のカタルシスを得られたんじゃないですか?
そう思うよ。実際に作っている最中は、あまりそういう面は意識していなかった。どちらかと言えば、純音楽作りを楽しんでいた。そして今振り返ってみると、そのエモーショナルな面に深入りすることなく聴けるから、さらに楽しい。不思議なことだよね。特にアルバム前半の曲を聴き直すと、気恥ずかしいというわけじゃないんだけど、こういう曲を自分が書いたという事実に驚かされるんだ。あとで振り返った時に「うわ、これってまさにあの時のだ」と愕然とするような曲を、今まで書いたことがなかった。それにもしかしたらは、こういうアルバムを作ることを望んでいなかったのかもしれない(笑)。人々に聴かせたくなかったのかもしれない。でも今は気にしていないよ。アルバムを作り始めた時とべて自信が増したし、作って良かったと思う。みんな一度はやるべきことなのかもしれない。日記を書いたことがないんだけど、このアルバム日記に最も近いものなんじゃないかな。なんらかの出来事を記録するという意味で。そしてそれを読み返した時に、何か学べることがあるのかもしれない。ほら、人間は自分の人生を振り返った時に、「ああ、はなぜあの時あんなに大きな怒りを覚えたんだろう? そんな必要は全くなかったのに」と思ったりするものだよね。こうして曲にることで、立ち直るプロセススピードアップできたのかもしれないし、うん、本当に興味深い体験だったよ。

――最後に、このアルバムを聴いて驚くであろうカイトファンに伝えたいことはありますか?
みんなにこのアルバムが嫌われたとしても、は全然怒らないよ(笑)。もし聴いてみて楽しんでもらえたら、それは素晴らしい。でも長年のカイトファンが「イマイチ好きになれない」と言うなら、そういうリアクションも尊重する。「はずっとこういう音楽をやるんだ!」と宣言しているわけじゃないし、なんらかの感想を抱いてくれるというだけではうれしいよ。アルバム完成させたら、それはもはやのものじゃなくなるからね。そこから何かを得る人がいたら素晴らしいことだけど、ほかの音楽を聴きたいならそれも構わない。それぞれの人が、自分が聴きたい音楽から何かを得てくれたらと願うばかりだよ。は自分が作る音楽について挑戦的なスタンスをとったり、自信たっぷりにタイプじゃないし、聴き手がどう受け止めるのかってことについて、あまり心配しないんだ。とにかく感謝の気持ちで一杯で、アルバムを聴いてみたいという人がいたら大歓迎。興味を持ってもらえなくても気にしない。ダイジョウブ(笑)

インタビュー新谷洋子


リリース情報
ニック・ムーン
ファーストアルバムサーカスラヴ
2018/4/11 RELEASE
内盤>CD
SICX-99 2,200円(tax out)
※初回仕様限定 直筆サイン入りジャケット予定

<Nick Moon初のソロアルバムCIRCUS LOVE』 発売記念>
4/11の発売日に先行し、ソニーミュージック洋楽sonymusic_jpInstagramストーリーズ限定で新作の全曲試聴を実施中
詳細:http://smarturl.it/CIRCUSLOVEinsta
期間:2018年4月7日(土)0:00~2018年4月10日(火)2359まで
※開始から24時間経過後はストーリープロフィール画面「ハイライト」からご試聴ください。
Instagramストーリーズの機は、iOSおよびAndroidInstagramアプリバージョン25以降で利用できます。


◎出演情報
アルバムCIRCUS LOVE』発売記念 東名阪タワーレコードインストア・イベント
2018年4月14日(土)12:00~
愛知県名古屋パルコ西館1Fイベントスペース
2018年4月14日(土)19:00
大阪府タワーレコード 梅田NU屋町店
2018年4月21日(土)12:00~
東京都タワーレコード新宿店 7F イベントスペース
2018年4月27日()18:30
東京都タワーレコード渋谷

ミニライブ+特典会
ミニライブは観覧無料

GREENROOM FESITVAL ’18】
2018年5月26日(土)& 27日(日)

ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2018「BONES & YAMS」】
2018年6月7日より全22
オープニングアクトとして出演

ニック・ムーン、初ソロAL『CIRCUS LOVE』発売記念インタビュー「どういう環境に身を置くかってことが音楽に大きな影響を与えている」(後編)