海賊版サイトへの対策として提案されている「サイトブロッキング」が話題だ。毎日新聞が4月6日、「政府が悪質な3海賊版サイトについて、一時的な緊急避難としてISPへの要請を検討中」と報じた。これは、責任追及の難しい海外の海賊版サイトへの日本からのアクセスを、ISP(インターネットサービスプロバイダ)が遮断する措置。背景は、2017年からのおよそ異常と呼ぶ他ないオンライン海賊版の被害拡大だ。

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●異次元に突入した海賊版の被害拡大

 最も悪質なマンガ専門サイトでは、国内のコミックスや雑誌が7万冊以上、まさにワンクリックで高画質・読み放題になっており、その訪問者は月に1億6000万人を超える(SimilarWeb 18年2月時点)。PVではない。訪問者数だ。

 17年、史上最悪と言われたマンガ違法サイト「フリーブックス」で最大月1500万人がアクセスしていたので、わずか8カ月で10倍以上の信じ難い規模に達したことになる。

 アクセスはほぼ日本からで、月間ユニークユーザーで900万人近い。これは日本の中高生を合わせた数を優に超えており、それだけの人数が月に平均17回、つまりほぼ日常的にサイトを訪問して最新のマンガ雑誌などを無料で読んでいるのだ。アクセスは月20%もの恐るべきペースで伸び続けている。

 天国? 同感だ。それでずっと作品が生まれ続けるなら天国だ。ついでに電車もレストランも洋服もタダにして、最低賃金も取っ払って会社の給料もタダにすれば極上パラダイスだろう。

 冗談ではなく、やがてAIとロボティクスでそんな社会も実現するかもしれない。が、今のところは公共交通にも食事にも服にも原価がかかりそれは人々が払う対価で賄われているのと同じく、商業マンガにも漫画家や編集者やアシスタントたちの生活費や睡眠時間や寿命といったコストがかかり、それは基本的に作品の売上(無料配信の広告収入含む)で賄われている。だから漫画家たちは事態を真剣に心配し、日本漫画家協会(会長はちばてつや先生)は2月13日に声明を発表して「このままでは体力を削られ、ついには滅びてしまう」と訴えた。

 損失推計はさまざま公表されており、それはそれで慎重な検証を要するが、現在の異常といえるアクセス数を見れば、雑誌やコミックスの売上に影響がないと考える方がおかしいだろう。現に、紙のコミックは17年に前年比2桁の売上低下を記録したし、紙の代わりに伸びていた電子コミックの売上すら17年秋から急落している(なお、本稿は主にマンガの話をするが、アニメの海賊版も同じくらい被害は深刻だ)。

●海賊版サイトは違法か

 「おいおい、大変じゃないか。海賊版というのは違法じゃないのか」

 この点、悪質な海賊版サイトは例えば次のような主張をする。

1. 本サイトは日本と国交のない国で運営されているので、日本の著作権は保護されず侵害ではない

2. コンテンツは無関係な第三者のサーバにあるので、自分たちは侵害していない

 こうした説明の最大の問題は、それが客観的状況に照らしておよそ信用できない点だが、仮に本当に日本と国交のない数少ない国で運営されているとしても、ほとんど日本のコンテンツばかり日本語サイトで提供されておりアクセスも大半が日本からとなれば、要するに被害は日本で生じている。この場合、不法行為の地は日本と見るべきだし(法の適用に関する通則法17条)、日本の著作権法が適用されて侵害・違法といえるだろう。

●取り締まりを阻む壁とは

 「なら取り締まればいいじゃないか。なぜ放置するのか」

 いや、筆者が知る限り出版社は対策に真剣に取り組んできた。だが、対策が極めて難しいのだ。難しい理由は主に3つある。

1. 海外の権利執行の難しいサーバ上でサイトが運営されている

2. 身元を隠してそれを運営できる技術が発達している

3. 海賊版コンテンツにリンクを貼るだけの行為は、伝統的に適法と考えられてきた

 筆者自身の経験や報告された例からは、と言ってもあまり詳細は書けないので恐縮だが、こうしたサーバの多くは旧共産圏などにあり、それをこじ開けるのは極めて困難だ。

 具体的には、確信犯的なサーバ事業者への削除要請や情報開示請求は無視される率が高く、企業に対する海賊版サイトへの広告出稿停止要請も広告配信の仕組みが複雑で実効性は限定的な上、海外事業者には及びにくい。

 ドメイン停止要求も、海賊版サイトが利用している多くのレジストラは非協力的とされる。検索エンジンは検索結果削除には協力的で大量に行われているが、それでも海賊版サイトへのアクセス数は増える一方だ。現に、「漫画村」をはじめ悪質な海賊版を止められていない現状がある。

 それでも時間をかけて相手のミスなどをついていけば最後には特定できるため、17年も大規模摘発があった。よって海賊版業者には稼いだお金の勘定などはやめて自首することを真剣に勧めるが、とはいえ追い詰めている間は膨大な被害が続くし、仮に漫画村が今後摘発されるとしても17年に問題になってから少なくとも8カ月は要したことになる。そして1つの海賊版サイトが閉鎖されても、数カ月もすれば後継サイトに数千万人が集まるだろう。

●サイトブロッキングは効果があるのか?

 だから、現行法だけではもう限界があり、前述の「サイトブロッキング」導入検討につながったのだろう。実際には日本でも児童ポルノのサイトブロックは既に行われており、海賊版サイトのブロックもEU(英独仏伊西ほか)・韓国・オーストラリアなど既に42カ国で導入されている。

 無論これとて多くの限界があるが、それでも英国のサイトブロックでは53の海賊版サイトへのアクセスが90%減り(他の海賊版サイトへのアクセスは有意に増えず)、正規版の売上も6~10%増加したというデータもある。対策の手詰まりが進む中、比較的有望には違いないのだろう。

●売上減少は出版社の責任では?

 この点、「海賊版の暗躍を許すのは出版社や電子書店の努力不足」という発言も目にする。「音楽配信を見習って横断的な定額読み放題サイトを設けないから、海賊版が暗躍するのだ」といった論調だろうか。なるほど、一理あろう。出版社の努力は必要だし、より読みやすいサービスへの進化は避けられない。

 ただ、海賊版の話とそれを混同するのは別だ。例えばスポーツでのドーピングが問題になっているときに、「一般の選手もドーピング選手に負けないようにもっと努力すべきだ」とは誰も言わないだろう。努力は努力で当然行い、ドーピングはドーピングで絶対的に悪いから禁止しているのである。

 そもそも、どんなに電子書店が営業努力して見やすいお得なサイトを構築しても、タダでばらまいている海賊版サイトには絶対に勝てない。なぜか。海賊版は決定的に重要なコストを負担していないからだ。

 それは、マンガを生み出すためのコストである。漫画家と編集者とアシスタントたちの給与を負担せず、彼らの徹夜や努力をシェアせず、単に奪ってばらまけば無料にもできるし、広告収入だけでもボロもうけだろう。海賊版サイトはしばしば億単位の収益を報道されている。

 現在の異常な事態が続けば、雑誌や電子コミックサイトの倒産も現実的になる。そうなっても残るマンガや新たなビジネスは無論あるだろうが、現在海賊版サイトで読者が殺到している人気マンガたちはもう生存を続けられない可能性は大だ。海賊版の最大の被害者は、読者なのである。

●ではどう導入すべきか:立法か、緊急避難か?

 さて、恐らくここまでは同意見の論者も多いだろう。意見が分かれたのは特にブロッキング導入の道筋である。電気通信事業法の「通信の秘密」(4条)などを害する以上、きっちり要件を定めた立法で導入すべきであり、報道された「緊急避難」は当事者が恣意的に解釈できるので危険だ、という意見も有力に主張されている。

 ここで「緊急避難」とは、たとえ通信の秘密の侵害であっても、(1)現在の危難(ここでは甚大な海賊版被害)(2)補充性(≒ほかに有効な対策がないこと)(3)法益の権衡(≒失うものより得るものが多いこと)、の3つの条件がそろえば違法とみなさない法理で、刑法37条に規定がある。児童ポルノは現にこれでブロックされているのだが、あくまで例外的措置であり、懸念ももっともだろう。

 ところで、ここで議論の大前提を確認しておこう。海賊版のブロックは果たしてどの程度に「通信の秘密の侵害」なのだろうか。

 一般に議論されているサイトブロックは「DNSブロッキング」といわれる手法で、ユーザーが特定の海賊版のドメインをDNSサーバに送ると、その海賊版のIPアドレスが返される。これを使ってユーザーは海賊版サイトにアクセスするのだが、この海賊版のIPアドレスを返さないことを指す。

 これは、誰の通信の秘密を害するのか? 恐らく「海賊版を見ようとしたユーザーの秘密が害された」というのだろう。ただし、「通信の秘密」は「通信当事者以外の第三者が、通信の内容又は存在を知得・窃用し、または、秘密を知得した者が第三者にこれを漏洩すること」などと一般に定義される(最高裁判例解説2004年239頁)。「メールの中身や宛先が漏えいされた/第三者に取得された」といった場面が典型例で、通常は第三者の存在が前提だ。

 DNSブロッキングは、直接的にはISPがIPアドレスのリクエストに応じないことを言い、ユーザーとの両者間で完結している。海賊版サイトにアクセスしたいという要求が機械的・技術的に拒否されることが、上の典型的な通信の秘密侵害の場面と同列だとは考えにくい、という見解もあるところだ。

 筆者もここは同感で、サイトブロックが衝突するのはむしろ、サイト側の「表現の自由」であり、ユーザー側の「知る権利」の方ではないかと思える。見なければ、どんなサイトか分からないからだ。それはそうなのだが、「海賊版を頒布する表現の自由」や「タダで海賊版マンガを読みたいという知る権利」が現在の深刻な被害に優越する法益だとは、やはりどうも思えない。

 にもかかわらず、「本来は立法対応すべき」という結論には全く同感である。理由は、恣意的な拡大解釈への懸念の一点だ。違法性の低い/微妙な、しかし一部の人々は気に入らないようなサイトへのアクセスが遮断される事態はあってはならないからだ。

 この濫用(オーバーブロッキング)の防止が、筆者が見る限り多くの論者の懸念の本質だった。その意味ではサイトブロックするからには立法しての対応こそが本丸だし、早急に検討の場を整えるべきだ。そもそも、海賊版サイトは今後も現れ続けるだろうから、抜本的な仕組み作り無しにしのげるはずがない。

 ただし、この種の立法は関係者一同が本気で協力して高速で進めたとして1年、通常は優に数年かかるだろう。それまで現在の事態が進行して果たしてマンガの現場がもつか。残念ながらとてもそうは思えない。「ここまで放置した方が悪い」という意見もあるだろうが、従来総務省などがブロックに消極的だったことは周知だし、17年からの急激な悪化で必要性が一気に増したのも事実だ。そして、「どんなに事態が切迫しても、将来恣意的な運用の前例になるといけないから緊急対応はしない」という立場に、筆者は立たない。

 現在、海賊版サイトにより月間数十億PVかそれ以上の規模で無料視聴されている作品は、クリエイターたちの生存の糧だ。被害規模がここまで甚大では、もはや職業としての存続の問題だろう。あるべき立法の論議を条件として、漫画村のような破壊的なケースに絞った緊急ブロックだけは、児童ポルノと同様にISPの自主的対応としてすべきではないだろうか。

 ただオーバーブロッキング防止のための基準は厳格であるべきだ。全くの私案だが、(1)海外に存在する海賊版頒布を主目的としたサイトであること、(2)権利者による削除要請と身元開示のいずれにも応じないこと、(3)日本からのアクセス数が、現在最も深刻な海賊版サイトを参考に定めた一定値以上であること、などがあり得る。

 権利者が客観的な事実を示し、そして自主対応である以上、最終決定権はあくまでISPが持つ。またISPに政府も加わった了解事項として、こうした緊急措置には一定の時限を設けることも考えられるだろう。

 最後に1つ。緊急対応をしないならもちろんだが、仮にしたとしても海賊版のまん延には恐らく歯止めがかかる程度だろう。それほどオンライン海賊版の勢いは強い。ではどんな実効的な対抗策があるのか。作品を生み出し続けるビジネスモデルをどう作っていくのか。こうした言論の場も利用して、今まで以上に現場と社会が共に知恵を絞っていけるかに、マンガ・アニメの未来はかかっている。

サイトブロッキングの概要(知的財産戦略本部資料、6頁図)より