前回は、滑走路や誘導路の番号付けと、空の上で航空機が経由できる場所とできない場所に関する話を取り上げた。前回に取り上げたものは恒常的に決まっているものだが、それ以外に、臨時に状況が変わるものもあるので、今回紹介しよう。
○NOTAM

臨時に空域への立ち入りが制限される場面としては、どんなものがあるだろうか。

例えば、軍が行うミサイルの発射試験・実弾演習・パラシュート降下訓練、VIP機の往来などといったものがそれ。物騒なところだと、北朝鮮がどこかの海域に向けて弾道ミサイルの発射をするという場合、当該海域への立入は避けたほうがいい。実際に直撃される確率は極めて低いにしても。

そんな時は、ノータム(NOTAM : Notice to Airmen)で、「何年何月何日、何時から何時まで、これこれの範囲内は出入り禁止」と知らせる。

最近は女性のパイロットが増えてきているが、だからといって「Notice to Airperson」に変えろ、という意見は出てきていないようである。そもそも、NOTAMという頭文字略語で定着してしまっているものだから、いきなり名前を変えられたら混乱しそうだ。おっと、閑話休題。

NOTAMでは、滑走路が閉鎖になる事態や、航法支援施設が使えなくなる事態に関する情報も扱う。例えば、舗装工事を行っている間、その滑走路は使えない。また、航法援助施設や照明設備の点検・交換あるいは故障が発生すれば、その施設は使えない。

要するに、「安全に飛ぶために知っておかなければならない情報で、かつ、恒常的ではないもの、突発的なもの」はNOTAMになる、と考えれば良さそうだ。

といったところで、アメリカの連邦航空局(FAA : Federal Aviation Administration)が運用しているNOTAM告知サイト「Defense Internet NOTAM Service」を紹介しておく。実のところ、飛行場の名前をICAO空港コードで書いてあるから、わかる人が見ないと判じ物もいいところ。しかし、「告知が出ることがあるよ」というところだけでも知っていただければ。

○ICAOコードとIATAコード

立入禁止の話からは外れるが、NOTAMに関連してICAO空港コードの話が出てきてしまった。その話の流れ上、飛行場に設定するコードの話を。

われわれは「羽田空港」とか「成田空港」とか「ネリス空軍基地」とかいった具合に名前で呼んでいるが、業界ではもっと簡潔に、複数文字のアルファベットを組み合わせたコードで呼んでいることが多い。そのコードを決めているのが2つの団体である。

国際民間航空機関(ICAO : International Civil Aviation Organization)は、国際的な民間航空に関する原則と技術の開発・制定に関わっている機関で、1947年4月4日に発足した。

一方、国際航空運送協会(IATA : International Air Transport Association)は世界各地の航空会社が集まって構成する業界団体。発足は1945年4月で、航空会社の活動に対する支援や、業界に関わる方針・統一基準の制定に関わっている。

ICAOが関わるのは主として、パイロットや管制官の領域である。一方、IATAが関わるのは主として、運送業務、つまり客室乗務員や地上職員、あるいは旅行会社の領域である。

どちらの組織も、活動の一環として、空港や航空会社について重複がないように識別コードを割り当てている。こういうのは各自がてんでばらばらに名乗ると混乱の元だから、しかるべき国際組織が明確に規定して、それを皆で共用しないといけない。

そして、同じ飛行場にICAO空港コード(アルファベット4文字)とIATA空港コード(アルファベット3文字)が別個に割り当てられている。空港以外だと、航空会社や機種についても識別コードを定めている。さらに、IATAでは国・通貨・タイムゾーンについても識別コードを定めている。

タイムゾーンなんてパイロットにも関係ありそうじゃないの、と思える。ところが、実は空の上では、世界のどこでも協定世界時(UTC : Coordinated Universal Time)で動いている。

さて。手近なところだと、羽田空港。ICAO空港コードはRJTT、IATA空港コードはHNDである。同じ羽田空港でも、パイロットや管制官が扱うフライトプランやNOTAMではICAO空港コードで書くし、地上職員はIATA空港コードで書く。だから、預託手荷物につけられるバゲージ・タグには「HND」と書かれる。

IATA空港コードはできるだけ、それぞれの飛行場の名前をベースにするようになっているので、まだしも覚えやすい。また、空港の名前が変わっても、ICAOやIATAの空港コードは(原則として)変わらないから、そちらで呼ぶほうが間違いが起きない。
○騒音規制・排気に関する規制

さて、話を元に戻して。

飛行機が「立入禁止」になる場所としては、環境がらみの理由が原因となる場合もある。例えば、墜落の危険性や騒音の問題を避けるために、住宅密集地の上空を避けるように飛行経路を設定する、というのがそれ。

例えば、羽田空港のC滑走路(34R)から千歳空港行きの飛行機が北向きに離陸すると、まず離陸直後に右旋回して、東京湾に沿った海岸線の上を東に向かう。それからおもむろに左旋回して北に向かう。直進する方が近道かも知れないが、そうすると都心の上空を飛ぶことになる。それを避けているものと思われる。

軍用機でも似たような話はある。いまどきの戦闘機にはミッション・プランニング・システム(MPS)というものがあって、事前に計画を立てておける場合には、それを使って飛行経路の設定をする。

日本国内のある基地で、取材者が米空軍のMPS画面を見たら「地対空ミサイル基地」を示すマークがあったという。同盟国の上空を平時に飛ぶのにどうして、と思いそうになるが……実は、これは住宅密集地のこと。避けて飛ばないといけないのは同じだから、ミサイル基地を代わりに設定していたのだそうだ。

このほか、大型機だと強力なエンジンから発生する排気ガスの影響が無視できない。空中で一定以上の前後間隔をとらなければならないだけでなく、飛行場のロケーションも問題になる。

例えば、滑走路の始点からすぐ後方を道路が通っていて、そこで大型機が離陸のためにエンジンを全開にすると、道路を通るクルマに悪影響がある、なんていうのがそれ。そのため、滑走路のうち道路に近い端の部分を「大型機は使用禁止」にしていた事例があった。
(井上孝司)

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