世界中を飛び回る建築家の隈研吾さんは、デザインチェックや仕事の決断を、わずか5分で済ませることも多いと言います。それを可能にするのが、隈研吾建築都市設計事務所社長をつとめる横尾実さんの「短時間でいかに効率よく伝えるか」を極めた「報告、連絡、相談」術。『社長のまわりの仕事術』(インプレス)で、経営トップのもとで働く人を徹底取材した上阪徹氏は「社長のまわりで働く人たちは、『報連相』も見事です」と語ります――。

■社長への見事な「報告・連絡・相談」

エネルギッシュに動く経営トップのもとで日々、奮闘している人たちがいる。普通のビジネス書の読者の多くは、そういう人たちにこそ学べるのではないか。そんな思いから『社長の「まわり」の仕事術』(インプレス刊)という本を書いた。

取材したのは、カルビー・松本晃氏、DeNA・南場智子氏、ストライプインターナショナル・石川康晴氏、隈研吾建築都市設計事務所・隈研吾氏、中川政七商店・中川政七氏、サニーサイドアップ・次原悦子氏という6人の経営トップのまわりで仕事をしている13人だ。

13人のインタビューの中では、社長への「報告・連絡・相談」という点で、意外な共通点があった。

■報告は極力シンプルに

まずは、どんなふうに伝えていくべきか。やはり大切なことは、見やすく簡易なものにすることだ。

カルビーでフルーツグラノーラ事業を急成長させ、入社6年で執行役員フルグラ事業本部長に抜擢された藤原かおりさんは、判断を仰ぐときに注意していたことがある。それは、見てもらう書類を極力シンプルなものにすることだ。

「1案件、1枚が基本。言われたのは、タイトルを見ればなんの話かわかる。最初の3行を読めば何が言いたいのかがわかる。もう少し細かく知りたいと思ったらその下を見ればわかる。そのくらいのものが一番いいね、と。それを心がけるようにしていました」

伸びている会社は、経営トップが仕事をどんどん任せていく。ストライプインターナショナルのグローバル戦略ブランド「koe」の事業部部長の篠永奈緒美さんは、石川康晴社長に随時進捗報告をしていくと語っていたが、気を付けていることがある。状況について、あまり隠さずに率直に伝えていくことだ。マイナス情報もきちんとインプットしてこまめに共有する。

「そうじゃないと意思決定が間違った方向に行きかねません。もちろん、必要のない情報は入れないです」

社長が必要なことだけを端的に伝えるようにしている。

「忙しいので、短く短く、ということを心がけていますね。メールでの連絡も多いですが、まずは結論をバーンと書く。それから理由を箇条書きで書く。瞬時に理解できるように長文はなるべく避けています。どうしても、というときには電話もしますが、なるべく電話よりも文字で見てわかるようにしています」

■報告のタイミングを見極める

報告にしても、提案にしても、タイミングは極めて重要だ。カルビーの海外事業本部長の笙(しょう)啓英さんは、提案のタイミングに注意しているという。

「経営者本人の中に、今どこに興味が向いているか、という流れがなんとなくあるんですよ。お、フルグラにいっているな、というときもあれば、あっ今、中国に来た、というときもある。そういうときはコミュニケーション量が増えます。ここは、うまくつかまないといけない」

その意味でも強く意識しているのが、社内の情報に耳をそばだてておく、ということだ。社内ミーティングや経営会議などでの議事録が回ってくることがあり、それは少なくとも必ず見ているというが、ただ見ているだけではない。

「重大事項は、そういうところに全部、載っていますから。でも、それは結果なんですね。重要なことは、そこにはトップの考えがあるということです。その考えがあって、結果が出てきている」

カルビーでは、松本氏が週2回、ブログを発信しているという。日々、考えていることがここからもわかる。経営者の発信するものから、考えを学ぶ。大事なポイントだ。

■資料はPDF1枚にまとめる

ストライプインターナショナルの宣伝部長、中村雅美さんも、社長とのコミュニケーションにあたって、タイミングを強く意識していた1人だ。

「確認するときには、あまりにも早いタイミングで確認してはいけない、ということです。考えが変わってしまいますので。インプットのタイミングを見計らうことは重要です。直前すぎて対応できなかったら、それは自分の首を絞めるので、ある程度の余裕は持ちつつ、早すぎてはいけない。もし早めに確認したほうがいいことがあれば、直前まで何回か、インプットを重ねるんです。忘れないように」

そして確認するときには、やはりシンプルで簡潔を心がける。

「メールで長文を送るなんていうのは、まずないですね。石川も時間がありませんので。ただ、メールでの確認やLINEでの確認は、けっこうあるんです。そこで、偏った情報を渡してしまうと、アウトプットが変わってしまいます。きちんとした情報をより簡潔にどう伝えるか、それは練らないといけないですね」

これはどういうこと? というやりとりが続くのが、社長にとっては一番嫌なことだという。できるだけ一発で理解できるよう、心がけておく。

「そのためにも、感覚だけでものを言わないようにしています。データなのか、状況なのか、必ず背景となるものを付け加える。これは“確認して”と言われるな、“この情報が欲しい”と言われるな、と想像ができたら、最初から付けておく」

そういうときは、できるだけわかりやすく、1枚の資料をPDFで添付するという。

■ミーティングは「最初」がポイント

ミーティングをめぐる「報告・連絡・相談」も、注意しなければならないところだ。DeNAで会長室に勤めていた中井雄一郎さんは、やってはいけないのは、何を話すのかよくわからないまま、ミーティングに入ることだと語っていた。

「30分、1時間のミーティングで冒頭からダラダラ話して、最後に優先順位の高い話があったら、とんでもない時間のロスです。それなら、最初から見せて、この話とこの話を聞く、と重要なことを決めておいたほうがいい」

そのために中井さんが意識していたのは、どんなことでもすばやく資料に落とすこと。作るスピードを上げることだ。

「早く渡したほうがいい情報はどんどん進めていく。情報の鮮度はとても大事にしています。逆に、急がなくていいものは急がない」

なんでもさっさとやる、を基本にしているというが、パワーポイントもすばやく資料が作れる工夫をしている。表や書式を最初から自分なりに作って、マスターに入れておくのだ。

世界的な建築家、隈研吾氏の隈研吾建築都市設計事務所の社長を任されている横尾実さんは、多忙を極める隈研吾さんができるだけすばやく意思決定ができるよう、意識している。

世界を飛び回る隈氏は、日本では分刻みのスケジュール。“このデザインのチェックをするのに5分”“3時45分から50分まであのプロジェクトの確認”……なんてことが、本当に行われているという。

■優先順位を共有する

「でも、5分でけっこう物事は決まっていくんです。スタッフ自身も、隈に時間がないことはわかっていますので、短時間でいかに効率良く決定に導くか、しっかり考えて打ち合わせをしていますね」

最終的には、いろんな人の意見を聞きながら決めていくというが、横尾さんたちが意識しているのは、答えをできるだけスムーズに短時間に引き出すこと。

「決断をより早くするために、オプションをいくつも用意していく、ということが重要になります。隈自身、たくさんのデザインを決定しないといけないので、オプションも一緒に考えていく時間はありません」

これは、日本にいて直接コミュニケーションをするとき以外も同様だ。

「今は半分海外に出てしまっていますから、その間はメールを使ってのやりとりになります。このときに、できるだけやりとりをスムーズに行うため、ある程度、オプションを用意して、イエス・ノーで解答が導き出せるように意識します。まぁ、なかなかそうもいかないときも多いんですが」

重要になるのは優先順位。隈氏とまわりとの間で、優先順位が共通認識されていないと、コミュニケーションがうまくいかなくなる。

「すべての段階で100を目指してやっていこうとすると大変なことになってしまいますので」

■茶飲み話にも緊張感を持つ

社長とは濃密なコミュニケーションをしないといけない、と語っていたのは、中川政七商店の執行役員で、デジタルコミュニケーション部長、緒方恵さんだ。

「資料をがっちり作って社内営業、という会社ではないんです。そのかわり、工芸に対する危機感が強いので、スピード感を死ぬほど重要視しています。もちろん成果も厳しく求められますが、スピードも求められますから、ちょっとした話のインパクトがでかい。“こうしちゃおう”という話が早いのは醍醐味ですが、裏を返すとものすごい緊張感がありますね」

それこそ、茶飲み話で大きな話が決まったり、組織が変わったりすることもあるので、普段からいろいろな側面で深く考えておくことが役員には求められるという。

「だから、面白いのは、社長とのランチひとつとっても、極めて重要なプレゼンの場になる、ということなんです。逆に僕は、このランチを積極的に入れてもらうようにしています。社長がマネジメントできない領域の仕事を持っている人間だからです。とはいえ、僕だけが永久にその領域に強いというのは、明らかにナンセンス。社長と共有して彼のリテラシーが上がるとか、社長を経由して何か施策に落ちてみんなのリテラシーが上がる、全員のレベルが上がるとか、そういうことが大事なんです」

そして社長相手だからこその気配りも、報告・連絡・相談では重要なこと。「これは『社長あるある』だろうな」と思える話を聞かせてくれたのは、サニーサイドアップの社長室副室長の谷村江美さん。報告時に、次原悦子社長が上の空になることがあるのだ。

■社長の思考の速さについていけなくても気にしない

「『あれはどうなってる?』と突然、質問されたりすることがよくあるわけですが、私が答え始めたときには、もう違うことを考えているんですね(笑)。答えを聞いていないんです。これはしょっちゅうありますね」

うんうん、と聞いているようには見えるのだという。しかし、聞いていない。

「もう次のことを考えているんです。これは電話でもよくあって、電話がかかってきても別の電話に出ていて取れないことがありますが、切れたと思って掛け直しても、3回に2回はつながらない。もう次のアクションに移行している。こういうときは、気にしないことにしています」

無事に進んでいるのであれば、答えはどうでもよく、聞いたことに意味があったのだ。そして、問題ないとわかる、という目的が果たされれば、思考はすぐに次に進んでいくのが、超多忙な社長の姿なのである。それに対して、「どうして」などと思ってはいけないのだ。

経営トップとの「報告・連絡・相談」は、簡単にはいかない。それなりの意識がいる。できる人は、それをよく考えているのだ。

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上阪徹(うえさか・とおる)
ブックライター。1966年兵庫県生まれ。早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに雑誌や書籍、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人超。著書に『書いて生きていく プロ文章論』(ミシマ社)、『JALの心づかい』(河出書房新社)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)他多数。

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上阪徹『社長の「まわり」の仕事術』(インプレス刊)