『フレー フレー ヨシノブ』というスポーツ報知の企画で、高橋由伸監督の大学の後輩だからという理由で取材を受けた過去を持つ、ロンドン五輪800m日本代表、自称“ジャイアンツファン最速の男”横田真人です。シーズンが始まり、早くも代打(代走?)を出してきたプロ野球死亡遊戯監督の期待に応えるべく、文春野球というレースに参戦します。

「投手の走り込み」に意味はあるのか?

 私も陸上競技を始めるまでは、野球少年でした。チームの副キャプテンで8番センター、監督が出すサインの半分はバント。バッティングセンターでもバント。バントの練習をしすぎて、気づけばパワプロでもクリーンアップ以外は送りバント。これはまずい! つまらん人間になる! そう思い始めた矢先に、陸上部からの半強制的な猛アプローチを受けたこともあり、中学野球引退とともに陸上に転向しました。

 陸上を始めてからトレーニングについて自分で調べるようになると、野球部時代にやっていたトレーニングにも疑問を持つようになりました。その1つがジョギング(ロードワーク)。

“ピッチャーは走り込んでスタミナをつけろ”。これは野球界の定説の1つですが、私は無意味だと思っています。どう考えても野球に必要な足腰をジョギングで鍛えることは不可能です。野球のピッチャーに求められるスタミナは瞬発的な動きの反復運動であって、長時間の持続的な運動ではない。それよりもウェイトや高強度のインターバルトレーニングをやったほうが効率的に鍛えられます。自分が否定するロードワークの恩恵を受けて足が早くなったのは皮肉なことですが……。

「足にスランプはない」は本当か?

 また、足に関わる野球界の定説としてよく語られるのは、「足にスランプはない」でしょう。野球をやっていた頃は、そんなもんなのかと思っていたけれど、元陸上選手としてはっきり言えるのは「足にスランプはある」ということです。

 陸上選手は年間10〜12試合のレースに出ることが一般的です。年間143試合を戦うプロ野球選手と比べるとあまりに働いていなくて我ながら驚きます(笑)。さらに、驚かれるであろうことは、ピークをあわせることができるのはその中で2試合程度が一般的であることでしょう。つまり、「今日はベストコンディション!」というのは年間に2日しかないことになります。その間に試行錯誤を繰り返し、思うように走れない状態が長引く“スランプ”も当然起こります。スランプによるパフォーマンスの低下は塁間27.431mで0.1秒の遅れに当然繋がるでしょう。その0.1秒でアウトになるかならないかが決まるのが野球というスポーツです。

 そう言った意味で、代走のスペシャリスト、鈴木尚広は本当にすごかったと思います。いつ来るのかわからない出番のために、来る日も来る日も準備をし、オレンジのグローブ姿で登場し球場の空気を変え、ファン全員が注目をするプレッシャーの中で、期待されたプレーをする。それがどんなに大変なことか。

 僕に置き換えるならば、「ゴメン、今日800mのレースやっぱなくなったわ。明日やるかもしんないからよろしくね。まあ当然、軽く優勝くらいしちゃうよね」そんな状況で半年間。……無理っす。こんなに偉大な選手は当分現れないのではないかと思います。

失敗はただの情報にすぎない

 高橋由伸監督の契約最終年。オープン戦では優勝という目先の結果よりも、試合を決める一発、球場の空気を変えられる選手の登場、そして去年いなかった新戦力のアピールが光ったのは言うまでもないでしょう。オープン戦史上最多の観客を集めた上原。村田さんのネタ枠を一身に背負うことになる澤村、岡本の台頭で代打出場が増えそうな阿部。途中出場に空気を変えられる必殺仕事人が控えているチームは試合終盤まで見どころに事欠かない。そして、枢軸はもちろんエース菅野、キャプテン坂本に4番ゲレーロ。ジャイアンツというチームで若手が台頭するのは彼らのようなしっかりした土台が揃ったときです。

 誰がどう見ても由伸巨人は転換期。今季の開幕1軍28名中13名が去年と違うメンバーでした。こんなときこそ辛抱強く期待の若手を育てて欲しい。一発で勝負を決める岡本、打てるキャッチャー大城、俊足と華麗な守備でチームを救う吉川。岡本のポロリも、大城のリードも、吉川の牽制死もすべて笑い飛ばせるそんなチームへの光が見えたオープン戦だったように思います。アメリカでトレーニングをしていたとき、オリンピック金メダリストだったコーチにこんなことを言われたことを思い出しました。

「Masato, failure is just information. It's not judging on you. Taking a risk! Challenge!(マサト、失敗はただの情報にすぎない。君を批判するものじゃない)」

 失敗はチャレンジしたものだけに与えられます。首脳陣が若い選手のチャレンジを称賛し、進むべき道を照らしていく。そんなチームに2018年のジャイアンツがなることを期待して、このコラムを締めたいと思います。

 See you baseball freak……(これ言ってみたかった)

※「文春野球コラム ペナントレース2018」実施中。コラムがおもしろいと思ったらオリジナルサイトhttp://bunshun.jp/articles/-/6740でHITボタンを押してください。

(横田 真人)

2012年、ロンドン五輪男子800mに出場した横田真人氏 ©JMPA