東京工業大学(東工大)と東北大学は、茨城県南西部のフィリピン海プレートの上部境界周辺で発生する地震の波形を解析することで、プレート境界で約1年周期の「スロースリップ」(ゆっくりすべり)が発生し、それに伴って水が浅部に排出されていることを明らかにしたことを発表した。

この成果は、東工大理学院 地球惑星科学系の中島淳一教授と東北大 大学院理学研究科の内田直希准教授によるもので、4月9日(英国時間)の英国科学誌「Nature Geoscienceオンライン版」に掲載された。

1990年代初めまでは、沈み込むプレートの上部境界は普段は固着しており、地震としてすべるか、ずるずると安定的にすべるかのいずれかであると考えられていたが、1990年代後半にはプレート境界でのスロースリップが世界の沈み込み帯で相次いで報告された。スロースリップはプレート境界の巨大地震震源域の周辺で周期的に発生する ことが多く、震源域への応力蓄積に重要な役割を果たすと考えられている。一方で、スロースリップの発生域は水に富む領域であることがわかってきたが、 スロースリップに伴う水の挙動は未解明だった。

この研究では、2004年から2015年に発生した地震を用いた解析により、繰り返し地震の活動が約1年周期で活発化すること、その活動と同期してプレート境界直上の地震波の減衰特性が大きくなること、さらにそれから数カ月遅れて浅い地震活動が活発化することが明らかになった。

これら一連の活動は、(1)繰り返し地震の活発化は約1年周期で発生するプレート境界でのスロースリップが原因である、(2)スロースリップに伴ってプレート境界の水が上盤に排出され、地震波の減衰を大きくする、(3)排出された水は数カ月かけて浅部に上昇し、上盤プレート内で地震を誘発する——と考えれば、その時空間変化を説明できる。

この成果は、スロースリップによって「水の移動」が起こることを示している。解析領域である茨城県南西部では、プレート境界から放出された水により上盤プレート内で地震活動が誘発されたが、上盤プレートの透水性が低く水が抜けにくい場合には、水はプレート境界を伝わり浅部に移動すると考えられる。移動した水がプレート境界の破壊強度を低下させ、そこで地震を誘発する可能性がある。これは、これまで指摘されていなかったスロースリップの新しい役割である。

今回の研究で明らかになった「プレート境界からの排水により地盤の構造が変化し、地震が誘発される」という現象は、人工的な注水実験でみられる活動の推移とよく似ている。注水実験では、誘発される地震数は水の注入量に比例し、注水が終わると地震活動が低調になること、注水により岩盤の地震波速度が変化することが報告されている。つまり、この成果は、関東地方の地下において「天然の注水実験」が進行していることを示唆している。

これまでの研究では、スロースリップによる応力変化がプレート境界地震に与える影響のみが評価されていたが、プレート境界地震の発生予測には「水の移動」も考慮する必要があることがわかった。スロースリップとプレート境界地震の相互作用の研究に新たな方向性を示す重要な成果である。プレート境界地震の発生メカニズムの理解の進展に寄与すると期待される。
(早川厚志)

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