いま注目の劇作家、長谷川彩の短編2作品を連続上演

昔ながらの街並みが残る名古屋西区の円頓寺商店街の一角で、長屋を改装しバーを併設した小さな劇場「円頓寺Les Piliers(えんどうじレピリエ)」を構える加藤智宏。彼がプロデュースと演出を手掛ける〈perky pat presents〉の第13弾、『後厄/下校の時間』が現在、同劇場で4月23日(月)まで上演されている。

perky pat presents 13『後厄/下校の時間』チラシ表

perky pat presents 13『後厄/下校の時間』チラシ表


 

『後厄』と『下校の時間』は、名古屋を拠点に活動する若手劇作家・長谷川彩の作品だ。2014年に行われた日本劇作家協会東海支部(以下、東海支部)のイベント【劇本】(劇作家が自身の戯曲を読み上げ、観客投票によって勝者を決定する)では、『海獣日和』が敗者復活から見事優勝。また劇作家協会新人戯曲賞に於いては、第18回で『メガネとマスク』、第23回で『下校の時間』が最終候補にノミネートされるなど、当地期待の新星として近年注目を集めている劇作家なのだ。

これまでに完成させた戯曲は50本を超えるそうで、所属する〈劇団さよなら〉では演出も手掛け役者として舞台にも立つが、長谷川いわく「ノウハウがなくて自主公演のやり方を誰も知らないので、皆でどうしようねって(笑)。毎回そんな感じで」という状態が続いていたため、「劇団を持ちながら、それが機能していないのはもったいない。今までイベントや他の団体と一緒でしか上演していないから、一回彼女のホンだけをちゃんと上演しておく必要があるな、ということを私が勝手に思って(笑)」と加藤が声を掛け、今回の公演が決まったという。

劇団公演はなかなか行われない一方、前述の【劇本】や【劇王】など劇作を競う東海支部のイベントでは毎年、短編作品を発表してきた長谷川。『後厄』と『下校の時間』も上演時間20分程度の短編だ。この2作品がどのように生み出され、今回カップリング上演されることになったのか、長谷川彩と加藤智宏に話を聞いた。

『後厄』稽古風景より

『後厄』稽古風景より

── まず、長谷川さんが劇作を始められたきっかけから教えてください。

長谷川 中学までブラスバンド部だったんですけど高校に入ったら吹奏楽部がなくて、どうしようかな…とフラフラしていたら、演劇部の部室が講堂だったんです。たまたま講堂のドアが開いてて「やってるよ」と書かれていたので、「じゃあ入ろ!」って入ったから「書こう!」という感じで。

── 最初から作家志望だったんですか?

長谷川 役者もやったりして楽しそうだなとは思っていたんですけど、小説とか漫画とか書く方に興味があって。趣味みたいな感じでお絵描きしたり、小説みたいなものを書いたりもしていました。何かに応募したり、大それたことはしてないんですけど。

── 劇作の際は、どんなことを題材にされるんでしょう。

長谷川 基本的には、常日頃の恨みつらみとか腹が立ったこととかが主で。ハッピーな感じはないです(笑)。

── 今回の2作品は、どのように発想して書かれたんですか?

長谷川 『後厄』は、厄年って悪いことが起こるんだよね、病気とかなるよね、とかよく聞くので登場人物に病気をさせてみようかなと。『下校の時間』は元々、歌を唄って終わる話が書きたいというのがネタとしてあって、それを膨らませていった感じです。

『後厄』稽古風景より

『後厄』稽古風景より

── 加藤さんは今回、なぜ長谷川さんの作品を上演しようと?

加藤 東海支部のイベントはスケジュール上なかなか観に行けなかったんだけど、長谷川さんの名前はよく耳にして面白そうで興味があったので、「何か読ませて」とメールしたんじゃないかな。それで『後厄』と『海獣日和』を読んで、最初は何が面白いのか僕にはピンとこなかった。これは一体どういうことで皆が注目してるんだろうな? と思って、その後【劇王】で『下校の時間』を彼女が朗読するのを聞いたんだけど、やっぱりよくわからなかった(笑)。

ただ『後厄』を読んだ時に、庭があって縁側で、というシチュエーションがすごくゆっくりした時間が流れている感じで、僕の好きな光景だったんです。で、最後のセリフが今回このふたつをカップリングした理由なんですけども、『後厄』の方が「熱っ!」で終わって、『下校の時間』が「寒い」で終わる。これを一緒にやると面白いかなと思って。

それでメンバーを集めたりしていくうちに、両方とも“旅立つ手前の話”だなと気づいて共通するものがあった。さらに、僕はチラシにいつもコメントを書くんだけども、引っ越しの話を書いたんです。『後厄』自体が引っ越しの話ではあったけど、それを書いてチラシの校正を長谷川さんに送ったら、「ふたつとも引っ越しの話だったんですね」と返事が返ってきて、何かわからない符号がパチパチパチって合ったという。

── 戯曲の中に好きな光景があったとはいえ、今ひとつ面白さがわからないと思いながらも上演しようと思われたのは?

加藤 なんだろう、勘としか言いようがないですね。何か感触があって。生活が変わる手前の話、というのが面白いし、稽古しながら長谷川さんの作品はこういうところが面白いんだな、というのがようやくわかってきた。彼女の台本は状況説明のセリフがないんだけども、ちゃんとやっていくと状況がものの見事に浮かび上がってくる。それがすごいなと。状況の作り方が上手いんだなっていう。どうしてもどこかで説明したくなる部分というのが出てくるんだけど、そういったものがあまり感じられない。

── その辺りは書いている時に意識されているんですか?

長谷川 そうですね。高校演劇出身なんですけど、なんで自分のことをこんなに語るんだ? って。どの人の作品を観ても、クラスメイトのはずなのに「私の名前はなんとかで…」とかずっと語ってるから、あなたの話はそんなに聞いてくれないと思う、というような気持ちがずーっとある状態で。自分が書き始めたら、この中でこの人たちが共有してる部分はまぁ話さないよね、ということをどんどん省くようになりました。でも、お客さんが知らない部分は何かしらの形で出さないとわからないから、それをどこまで省くか、毎回チキンレースをやっているような感じで書いてますね。でも基本的には、昔観たりしたお芝居が説明しすぎ、っていう(笑)。説明しすぎてて「なんか気持ち悪い」と思っちゃって、それでどんどん省くように。

『後厄』の出演者一同。前列左から・古家暖華、森本涼平 後列左から・矢野健太郎、藤島えり子、棚瀬みつぐ

『後厄』の出演者一同。前列左から・古家暖華、森本涼平 後列左から・矢野健太郎、藤島えり子、棚瀬みつぐ

── 加藤さんは実際に演出されてみて、どんな感触ですか?

加藤 難しい。言葉だけでその状況をお客さんに伝えないといけないんだけど、ちょっと足らない部分というのが出てくるのね。たぶんこういうことを言いたいんだろうけど、これではちょっとお客さんはイメージできないだろうなというところを、どうやって演出の上で補っていくか。そこが難しくもあり、面白くもありっていうところですかね。

僕らは何回もホンを読んだり稽古していくと、「こういう状況だな」とわかってくるんだけど、お客さんは1回しか観ないわけで、その1回でどう受け渡すかと考えていくと、言葉じゃない部分で足す必要があるなと。それは間の使い方であるとか、例えば湯呑みを渡す時に目線はどこを見てるんだろうとか、それをお客さんに気づいてもらわないといけない。気づかせるためにはそこに視線を集めないといけないので、集めるためにどうするのか、ということをひたすら皆と一緒にやってる感じですね。

── 以前にも『海獣日和』を鹿目由紀さんが演出されたりしていますが、自作を他者が演出されることについて、何か思われることは?

長谷川 人が演出しているのを見ていると、わりとゆったりセリフを喋っている印象が強いです。私の頭の中ではどんどん飛ばして喋ってるので、すごく丁寧に演出してもらっているなと。どの方に演出していただいても、それが一番大きいですね。

加藤 たぶんみんな同じことにぶち当たってるんだね(笑)。チャッチャッチャッと早いやりとりにすることもできるんだけど、それはそれでまた違う演出になっていくと思う。たとえば吹き出しを書いて絵が出てバーンみたいな映像で見せるとか、それをやるとたぶん、長谷川さんの頭の中で起きているイメージが直接覗けるような状況になるだろうなと思うんだけど。

『下校の時間』稽古風景より

『下校の時間』稽古風景より

── 今回、演出面で工夫されている点などはありますか。

加藤 シチュエーションが違う2作品を、ひとつの舞台でどうやるか。見た目は変わらず印象が変わるにはどうすりゃいいんだろうね、っていう(笑)。大変でございます。

── Yumetoさんによるカリンバの生演奏が入るとか。

加藤 大学の教え子で珍しい奴がいたから、「ちょっとやってみる?」って声を掛けて。今までもこの小屋の前で祭があると路上ライブをやったりしていて、いつもは即興でやってるんだろうけど、「ちゃんと録音したのがあったら聞かせて」と言ったら、ある程度まとまったのがひとつだけあって雰囲気が良い感じだったので。カリンバという楽器を知っている人は多いけど、それで演奏されているのを直に聴く人というのはそんなにいないと思うから、生演奏でやってもらうことにしました。


何気ないセリフのやりとりの中に浮かび上がってくる、登場人物たちのリアルな心情とシチュエーション。日常のささやかな一コマを繊細に描き出す長谷川彩の戯曲は、微かだけれど、どこか忘れ難い余韻を観る者の心に残す。その世界観を巧みに表現する演者たちと、戯曲の本質に迫り魅力を最大限に引き出すべく試行錯誤を重ねる加藤演出。その合わせ技がどう結実するのか、劇場でぜひお確かめを!

取材・文=望月勝美