対面する2つの線形加速器で電子と陽電子をぶつけることで、宇宙創成の瞬間「ビックバン」の1兆分の1秒後の状態を作り出し、宇宙誕生の謎に迫る国際研究。そんな世界の研究者たちが集う場所が日本になるかもしれない。

この人類史上最大ともいえる基礎科学プロジェクトの肝となるのが、「ILC(International Linear Collider)」の建設であるが、その候補地として、日本に期待がかかっている。その候補地は、岩手・宮城両県にまたがる北上山地。費用については、建設プランによりけりだが、数千億円規模が必要と見積もられており、これを日本、欧州、米国などが分担することが想定されている。そんなILCが日本で建設できるか否かについては、2017年夏ころをめどに日本政府が最終判断を下す予定だが、そこまでの期間、広く一般からも日本でのILC建設に向けた支援をしようという取り組み「ILC Supporters」を有志が立ち上げた。

発起人は映画監督などで知られる押井守氏。4月16日に開催された発足発表会において押井氏は、「ILCは何のために作るのか。地上でビックバンを、つまり宇宙の創生を再現するためのもの。学術目的以外に、直接は何の役にも立たない。最近、絶えて聞かなかった、すごく良い取り組みだと思った」と、支援に至った思いを語る。

「60年以上生きてきて、いろいろな国家的なプロジェクトが上がっては消えていった。ILCは経験してきた中で、一番筋が通った、まっとうな取り組みだと思った。同じ、この日本という国に生きている人間として、1つくらい、世界に胸を張れることをやってもらいたいと思っているし、それにちょっとでも自分が貢献できればと思っていたら、発起人になってました」と、これが同氏にとって、最初で最後の社会的な活動であることを強調。やっていくからには、楽しくやっていくことをテーマの1つとして掲げたという。

また、「こういうことを進めていくためには、最初にワクワクするものにしないといけない。この運動は、難しいことは要求しない。ILCロゴのタトゥーシールを身体やあちこちに貼って、それをいろいろなところで写真に撮ってもらって、ソーシャルメディアにあげてもらう。そうした草の根的な活動で、こんなに多くの人たちがILCに期待している、というのを世間に示したい」と、ILCという、一見すると複雑かつ難しい話になりがちな科学の世界を、身近なものと感じてもらう取り組みを進めていくとする。

4月16日時点の発足メンバーは、押井氏のほかに、東京大学 素粒子物理国際研究センターの山下了 特任教授、アニメーションプロデューサーで金沢工業大学の客員教授も務める竹内宏彰氏、アニメーション監督/映像作家で、ILCロゴ(シンボルマーク)のデザインも担当した森本晃司氏、バーチャファイターやシェンムーなどを手がけたゲームディレクターの鈴木裕氏、クリエイター/声優で、外務省ポップカルチャー発信使(カワイイ大使」も務める木村優氏、小説家/編集者の山下卓氏、サクラスの代表を務める池上真之氏、そして作曲家の川井憲次氏となっている。

ILC Supportersに参加する条件としては、「年齢、性別、国籍、主義問わず、ILCに興味を持って、支援したいと思った人は、まずILCを知ってもらって、それを語ってもらって、そしてそれを広めてくれるだけ」(竹内氏)とのこと。また、森本氏がデザインしたシンボルマークは、「命題はいかにシンプルなデザインにするか」(森本氏)ということに対し、ビックバンというロマンをベースに、波動や放射状に伸びる光、そこから生み出されるさまざまな物質をイメージしたものになったとのこと。生み出される物質も、決して整った形ではない、ということを意識した不思議な形を目指したという。

さらに、活動に際してのスローガンも公表された。「Create the Universe(宇宙を創ろう)」というもので、英語がネイティブな人でも、小学生でも伝わる言葉を選んだとする。

ちなみに、押井氏が発起人となるきっかけを作った山下氏(山下氏と2年ほど前に押井氏が話をしたことが今回の発足のきっかけとなった)は、「ILC建設の日本での実現に向けて、楽しみながらILCということを広めていこうというのが今回の取り組み。若い人に知ってもらって、日本を動かして、そして世界を動かす。いろいろと今までも活動としてはあったが、多くの人に見てもらえるような状態にまでこぎつけて、ようやくこれから、という段階になった」と今回の活動を通して、候補地である岩手県などの人のみならず、幅広い人たちにILCというものを知ってもらえれば、としていた。

なお、ILCロゴのタトゥシールはILCSupporters公式Webサイトにてさまざまなカラーのものが用意されており、誰でも登録などなしに無料でダウンロードして利用することが可能となっている。

また、ILCSupportersでは、発足から約1か月となる5月14日に改めて、発足してからの動きの振り返りなどを行うブリーフィングイベントを開催する予定だという。

人類がどこから来て、どこに向かおうとしているのか。その起源ともいえる、宇宙創成の謎。人類はまだ、その宇宙について数%しか理解できていない。ILCが日本に建設されれば、日本がそうした研究の最先端を長きにわたってリードしていける可能性が大きく広がることとなる。これまで、日本はそうした国際共同研究でホストを務めたことがない。そうしたことも含めて山下氏は「チャレンジが沢山ある。特に知と技だが、それ以外にも、社会、ビジネス、プロセスとさまざまなものに挑んでいかなければいけない。しかし、次の世代に、そうした取り組みなどを遺産として残していけるチャンスでもある。まさに数十年に1度のチャンスが今年であり、これを逃す手はない」と表現。こうした草の根からのILCに対する認知向上、期待度の熟成を図っていくことで、そうしたチャンスをつかむ後押しになれば、と期待を述べていた。
(小林行雄)

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