この男がブレイクしてくれれば、日本のポップシーンはもっともっともっと楽しくなる。稀代のメロディメイカー、アメイジングなピアノマン、ファンタスティックなライブパフォーマー、その名はビッケブランカ。メジャーデビューから2度目の春に届いた初シングル「ウララ」は、ファンクなダンス、昭和の歌謡曲、平成のアイドルポップをミクスチャーしたような輝かしいポップチューン。心に潜むフォークソングや歌謡曲のルーツを、今を生きる世代のために再構築した温故知新型ミュージックで、あなたの耳を奪いに行く。

自分でもまっすぐすぎてちょっとダサイと感じてるんですよ。だけど、それの素晴らしさのほうが強いことを僕は知ってる。

――去年は1stアルバム『FEARLESS』を出して、ツアーも成功させて。いい波に乗れているのではないかと。

1stアルバムを作って、自分ではいいと思ってますけど、それが本当にいいものなのか?という答えを聞く場所がツアーだとして、すごくいい返事をみなさんからもらえたかなという感じです。いい気分で楽しく終れたツアーでしたね。

――良かった。秋のツアー以降はすぐに制作に?

いや、ツアーが終わってすぐには次のモードにならなくて、1か月ぐらい何も考えないでまどろむ時期がありました。年末のフェスがあったので、それだけやりつつ、なんとなくふわっとするような1か月間があり。

――その時間は必要だった。

偶然なのか、必要なのか、自分でもはっきりつかめてないですけど。なんとなくそういう時期があり、年が明けてから制作にしっかり入っていった感じですね。

――そして2018年の初リリース。メジャーレーベルに来て初のシングル「ウララ」ができました。

シングルは1曲にフォーカスされるものだと思うので、アルバムみたいに“一枚を通して”とかじゃなく、その1曲がどうなのか?ということなので。グッとくる曲を書きたいなと思ってました。その上で、季節が春だから、春に寄り添った曲を書いてみようと。ちゃんとフィジカル(CD盤)になるから、後々悔いが残らない曲を書こうということだけ気にしつつ、実際そうなったと思います。

――いわゆる春ソング、卒業ソングの範疇に入るような曲ですよね。

そうですね。

――しかも、日本的な歌謡曲感、ありますよね。ちょっと懐かしいような。

もともと好きなものではあるんですよ。1曲がフィーチャーされるシングルということを考えた時に、中途半端なものよりはっきりしたものがいいだろうというところから始まって。サウンドもなんとなく気持ちいいとかじゃなくて、パーン!とはじけるようなものにしようということと、歌詞もなんとなく意味ありげとかじゃなくて、何を言ってるのか筋道がしっかりわかった上で“いい言葉だ”と思えるものにしようという心がけの上でできた曲ですね。たとえば昭和歌謡の「木綿のハンカチーフ」しかり、フォークソングしかり、ビリーバンバンとか伊勢正三さんしかり、何を言ってるかはっきりわかるわけですよ。

――確かに。

当時はテレビで歌を披露するにも、歌詞テロップが出ない時代でしたから。歌詞テロップがなくても聴き取れて、感動させなきゃいけない。単純に強い弱いで言ったら、昔のほうが言葉が強いんですよ。その強い言葉をもう一回、今の時代にやりたかったんですね。

――うんうん。なるほど。

今の時代の、お洒落とか、なんとなく意味ありげとか、雰囲気がいいとか、自分なりに解釈できるとか、そういう良さがあるのはわかってるんですけど、そうじゃないところで今一度“この頃の作詞はこんなにすごかった”というものをやってみたかったのと、もう一歩踏み込んで言えば、サビの頭で<おもひでひとつ大人になって/去年のことは忘れませんか>というのは、自分でもまっすぐすぎてちょっとダサイと感じてるんですよ。僕の年齢にすると、古臭いなって自分で思います。だけど、それの素晴らしさのほうが強いことを僕は知ってる。だからこの言葉がはっきり伝わることはわかってるんですけど、果たしてその言葉が耳から入って心にまで落ちるかは、僕にはわからない。確信はないです。それほど、この歌詞の作り方は今のメインストリームではない。だけど、そうなることを願うしかない。

――そこらへんは、すごく冷静に自覚している。

「もうちょっとひねれよ」と言われて、「いや、それこそが言葉として強いんだよ」というチャレンジですね。なかなか思い切ってみました。

―― 一番シンプルで強い言葉を伝えることが、実は相当な決意を必要とする作業だった。

そうなんですね。今はまっすぐすぎること、伝わりすぎることが敬遠される時代なので。でも「伝わんなきゃ意味ないでしょ?」ということに、もう一回、一石を投じているという心意気はあります。

ビッケブランカ 撮影=鈴木恵

ビッケブランカ 撮影=鈴木恵

――納得しましたよ。もともとビッケさん、小さい頃に親の影響でチューリップとかを聴いていて、日本のポップスや歌謡曲が好きというルーツがあるわけじゃないですか。それが下地としてあったものが、今浮上してきたという言い方もできるのかなと。

本当にそうだと思いますね。子供ながらにチューリップの「青春の影」とかを聴いて、その言葉が良かったので。<自分の大きな夢を追うことが/今までの僕の仕事だったけど>。

――<君を幸せにするそれこそが>。

<これからの僕の生きるしるし>。もう何もかもわかるわけですよ。わかった上で「いいこと言う!」ってなりたい。意味はわかんないけどなんとなく雰囲気いいよね、よりは、バン!と伝わるものを自分でも作ってみたかったんですね。時代に合わないかもしれないけど、もう一度みんなが同じ感覚を持ってくれることを願ってます。

――合わないはずはないですよ。求めている人たちはいると思う。今の時代にも必ず。

回顧主義ではないんですけどね。“あの頃は良かった”じゃなくて、今新しいものとしてもう一度気づこうという話です。

――ビッケブランカというとMIKAとかマイケル・ジャクソンとか、洋楽との比較がすぐ出てくるけれど。日本の歌謡曲を引き継ぐ存在であるということは、ここで声を大にして言っておきましょう。

結局日本でいう歌謡曲の位置づけのものが、僕が聴いてた海外のものだと思うので。その時代のその国のメインストリームが歌謡曲だとしたら……。

――そうか。マイケル・ジャクソンも歌謡曲。

そう。僕の中のポップス感は、世界の歌謡曲を聴いて出来上がっていたということですね。

――そこに日本ならではの情緒やセンスが加わってくるから、グッとくるんでしょうね。「春うらら」だって、英語にできないニュアンスでしょう。

言語の深さが違うと思うので、日本では歌詞でいろんなことを表現できると思います。海外で重要視されているのはサウンドやノリだと思いますね。でも日本をはじめアジア圏は歌詞で聴かせられる。

――“ウララ”っていい言葉ですよ。

最後のサビに<うらうらと>という歌詞があって、そこからの着想で“ウララ”にしました。“うらうら”という形容詞を見つけて、春の形容詞で“うらうらとした天気”とか使うんですけど。ウルフルズみたいで面白いじゃないですか(笑)。


勝ち負けがないならないなりに、どんなに派手な走り方でゴールまでたどり着くか、自分なりの美意識だけを考えて生きていくという感じだと思います。

――今回、全曲がすごいキャラ立ちしてるので、全部紹介しますよ。2曲目は「Get Physical」。明朗快活なティーンポップといいますか。

これは、僕がちょっと太ったんですよ。これを作ってる頃に。

――あら。

そこからの着想で、ワークアウトソングというか、ジムのランニングマシンで走りながら聴けるような曲になっていったという感じですね。その自分の気持ちを持って、太ってる女の子を主人公にしてストーリーを考えていきました。彼氏は細いから、自分も痩せようと思えば痩せられるけど、その前に細い彼を4倍の大きさにしてくれれば私と釣り合うじゃん、ということです。

――その発想がおかしい(笑)。

そう、そこが太ってる人の怠け心なんですよ。“痩せようと思えば痩せられるけど” “でも彼氏が太ってくれればいいじゃん”という根本の怠け癖を描写して、ちょっと皮肉った曲になってます。怠け癖がある女の子だけど、彼と一緒になることを夢見てる。<彼を夢見ているのよ/まともよバカにしないでよ>というのは、彼と一緒になることですね。でも最後の最後に<夢を見てるのよ>で終わる。これは、自分でもそれは叶わぬ夢だとわかってるという締めなんです。最後の一行で全部ひっくり返る。

――うーむ。なるほど。

太ってる私と細い彼氏が釣り合わないこともわかってる。痩せられないのもわかってる。彼氏を4倍にできないこともわかってる。絶妙な、伝わるはずのない人間性がそこにある。太ってる人のあるあるですね。

――なんかちょっとせつなくなってきましたよ。解説されると。

自分の話ですけどね、それは。自分が太った時に“走ろうと思えば走れる”と思っていた、怠けてる自分への揶揄でもあり、ワークアウトソングでもあるという、ハッピーな曲です。

――ぽっちゃり女子への応援歌にしときましょうか。メーガン・トレイナーへのアンサーソング。

そうそう。面白かったです、これ作ってる時。

――ビッケブランカといえばプロットツイストですからね。このところ書いてなかったけど、久々に聴けて良かった。そして3曲目「Black Rover」はアニメのタイアップチューン。

『ブラッククローバー』のオープニングですけど、最初は決まってなかったんですよ。僕ともう一組と、2アーティストが候補に挙がっていて。

――そんなことまで知ってるの?

スタッフが全部教えてくれるんです(笑)。どっちになるかわからない状態で「10日後にデモを出してくれ」と言われて、でも僕は着想ができたら6時間ぐらいで作れるから、2日ぐらいでデモができたんですよ。向こうのオーダーは「ギターロックで疾走感と悲壮感がある」というもので、その通りに作って送ったらすぐ返事が来て、「もっとギターを出して、緊迫感がほしい」と。「これだとスポーツものの緊迫感しかない、でもこのアニメは命がけで国を守る戦いだからもっと緊迫感を」という細かいオーダーが来て。

――おお。なるほど。

僕はそういうことを言われるのが全然平気で、むしろわかりやすいなと思って、また2日間で作り直して、ギターを思い切り出したものにして、まず制作チームに聴かせたんです。そしたら「これは出さないほうがいいと思う」と。なんで?と思ったら、「もしもこれで決まったら、このサウンドでレコーディングしなきゃいけない」と。それが超ギターロックだったから、ビッケブランカはピアノマンなのに、ピアノが埋もれているからと。

――ああそうか。ビッケブランカのイメージから大きく外れてしまう。

そう。それは僕もわかっていたけど、「そんなのは別にいいんです」と。ピアノが鳴ってなきゃ僕らしさが消えるなんてことはないし、僕が作って僕が歌えばどうやったって僕らしさは出るし、そんなことにこだわっていたらチャンスを逃しますよと。「“らしさ”なんてあとからついてくるんです」と言って、そのデモを出しました。

――うんうん。

そしたら「素晴らしいです!」と。こっちの意見に全部寄り添ってくれて、しかも10日間と言ったのに4日間で2パターンも送ってくれた、その心意気と曲の良さでビッケブランカさんにお願いします、と。

――おお。やった。

しかも先方が僕の思いを汲み取ってくれて、「ビッケさん、これでいいんですか?」と。「ビッケブランカってピアノ弾きですよね?」「僕らのオーダーを忘れてください。ここまで向き合ってくれたんだから、ここからはビッケブランカの思った通りの曲を『ブラッククローバー』のために書いてください」という言葉をもらえたわけです。

――すごいなあ。

正面切って向かい合ったら、向こうのみなさんも向き合ってくれて、「ビッケブランカらしい曲にするのが一番いい」と言ってくれた。それでギターロックというテーマを尊重しつつ、ピアノもしっかり共存して、歌詞も「全部日本語で」というオーダーだったんですけど、僕はどうしても『ブラッククローバー』に似た響きの言葉を入れたかったんですよ。アニソンはアニメとの親和性があるものが好きで、たとえば<♪つかもうぜドラゴンボール>って歌うからあの歌はいいわけで。

――ですよねえ。

だから僕も歌の中で「ブラッククローバー」と言いたかった。だけどそのままだといろいろ問題があるから、もじって「BLACK ROVER」にして、「BLACK ROVERって言うためにサビを英語にしていいですか?」「もちろんいいですよ」という、すごくいいやり取りの中で生まれた曲です。

――いい話。クライアントとのそこまで親密なやりとりってあんまり聞いたことない。

メールのやり取りだけで、お会いしたことはないのでお顔もわからないんですけど。そういうやり取りはしっかりありました。

――絶妙にうまく溶け合ってますよ。メロディックパンクの勢いにピアノロックのドラマ性が加わって。

結局ビッケブランカらしさもしっかり出てるから。裏声とかハーモニーとか、らしさなんてそう簡単に消えるわけじゃないと思ってたから、何やってもいいんですよ。そもそもアニメのために書くわけだから、自分の“らしさ”を売り込むためじゃない。そこを履き違えないようにという意識はありましたね。

ビッケブランカ 撮影=鈴木恵

ビッケブランカ 撮影=鈴木恵

――そして4曲入りシングルのラストを飾る、泣きそうに美しいバラードの「今ここで逢えたら」。これは本当にいい曲ですよ。

これは19歳か20歳の時に作ったそのままですね。アレンジも歌詞も歌い方もハモり方も、何もかもその当時のままやってます。春の歌だったんで、リリースのタイミングがなくて、歌詞もあるように“10年越し”にここでリリースでました。歌詞はそんなに深いことを言おうとしてなくて、思ったことをつらつら書いてるだけ。今だともうちょっとひねるでしょうね。なおかつピアノも弾きはじめなので、すごく簡単なんですよ。でもピアノを派手にすると歌詞の拙さが気になるし、歌詞を直そうとするとアレンジが安く見えてくる。この拙い歌詞と拙い演奏、途中で突然ロックになるデコボコのアレンジで完全に均整がとれてたんですよ。

――そう思います。

どこも変えられなかったので、10年前のそのまんまをやってます。

――ずっとつぼみのままで、咲くのを待っていた曲。

まさにそうですね。

――「ウララ」で力強く始まって「今ここで逢えたら」で美しく終わる、見事なCDですよ。新しいこともできたし、10年前の曲も入れられたし。2018年、いいきっかけになる1stシングルじゃないですか。

そうなってほしいです。

――今の時代、ヒットシングルというものがなかなか存在しないというか、ヒットするという意味が変わってきてしまっているので。ビッケブランカには本物のヒットソングを出してほしいと期待してます。ビッケさん、ぎりぎりその世代ですよね。ヒットチャートというものが生きていて、みんなが口ずさむヒット曲があった時代。

僕はそういうところで戦おうと思って目指してきたけど、戦える状況になったらもうそんな時代じゃなかったということが今起きてます。

――そうですよねえ。これから、どういう戦い方をしましょうか。

もう戦う場所がなくなってしまった、誰かとチャートを争うという時代じゃなくなったという感覚で。勝利というものがない感覚というか、言ったらあれですよ、今の小学生が徒競走でみんなで手をつないでゴールするような、勝ちというものがなくなってしまった時代で、僕は正直退屈ですけど。何事も、勝負事が好きだから。だけど、ないならないなりに、どんなに派手な走り方でゴール手前までたどり着くか?とか、どんな道筋をたどってゴールにたどり着くか?とか。自分なりの美意識だけを考えて生きていくという感じだと思いますね。

――なるほど。

チャートが重んじられないのであれば、自分はどういう道で走っていくのか?だけを見つめている感じです。

――いい言葉。ますます期待しますよ。6月のツアー楽しみにしてます。

初めに言いましたけど、毎回作品を書いて、自分ではいいと思ってるけど、果たしてみんなはどうなのかな?ということの返事がもらえる場所がツアーなので。「うれしい!」という気持ちで自分自身が終われるように。そうしたらきっと、みんなも楽しかったということなので。その気持ちで楽しいツアーにしようかなと思いますね。

取材・文=宮本英夫 撮影=鈴木 恵

ビッケブランカ 撮影=鈴木恵

ビッケブランカ 撮影=鈴木恵

 

ビッケブランカ 撮影=鈴木恵