NVIDIAは5月9日、同社のヘルスケア領域に関する記者説明会を実施。同社 ヘルスケア事業 ヴァイス・プレジデントのキンバリー・パウエル(Kimberly Powell)氏が、直近で発表された医療用画像診断プラットフォーム「Project Clara」をはじめとした、ヘルスケア関連の取り組みについてブリーフィングを行った。
○医療画像向けのスパコン活用プラットフォーム「Project Clara」

冒頭、NVIDIAの企業としての変遷について語り始めたパウエル氏。ゲーミング・グラフィックス分野に特化したGPU開発で知られた同社が、現在のようにディープラーニングなど演算における活用を目的とした開発にシフトしたのが2007年ごろ。GPUコンピューティング向け開発環境「CUDA」のリリースを、転換を象徴するトピックとして挙げた。

2007年の「CUDA」リリース以後、2年後の2009年には、超音波のコード、レンダリング、CTの再構成など医療画像の領域で利用された。2014年ごろには脳腫瘍セグメンテーション、肺がん検知など医療画像の解析における利用も行われるようになり、今年、「Project Clara」の発表に至った。

また、ハードウェア開発から興った会社でありながら、昨今の主立ったアップデートはソフトウェアがらみになっていることにも言及。昨今需要の大きい領域に向けた専門開発プラットフォームを複数立ち上げており、自律走行車開発プラットフォーム「DRIVE」、スマートシティ向けのインテリジェント ビデオ分析プラットフォーム「Metropolis」、そしてヘルスケア領域の最新アップデートである、医療用画像スパコンプラットフォーム「Project Clara」を紹介した。

「医療画像の分野における演算負荷は現段階でも高いが、今後AIの活用が進むにつれ、さらに多くの能力が要求される」とパウエル氏。そして、医療現場の特徴として、機器・装置の利用サイクルは長く、一旦導入されれば長期的に利用されることを挙げた。このため、革新的な製品が登場したとしても、民生機器のように波及して代替わりし、デファクトとなるのは難しいと語った。

こうした状況を受けて、「Project Clara」は3つの特徴を持つGPU環境として構築された。ひとつ目は、演算ワークロードの仮想化。ふたつ目は、リモートでの活用が行えること。このふたつの機能によって、世界に300万台存在すると言われている既存の医療関連装置をバーチャルなスパコンに接続し、インストールベースのアップグレードが可能になるという。

また、「Project Clara」プラットフォームは、医療装置への組み込みのみならず、病院のデータセンター内での利用、あるいはクラウドでの活用も可能。アーキテクチャは単一なのでGPUがどのような内容でも同一ソフトウェアを活用できるのも強みであるとした。
○医療系スタートアップの傾向・大手機関とのパートナーシップ

同社が展開している、AI・データサイエンス関連のスタートアップを対象にしたインキュベータープログラム「Inception」の参加企業のうち、ヘルスケア関連の企業が大きな割合を占めていることに言及。同プログラムは現在2800社が参加しているが、そのうち300社がAIヘルスケア関連のスタートアップだという。

また、医療画像分野におけるAIは、人体の複雑さに対応するため、数百~数千規模のアルゴリズムが必要という特徴がある。この領域に取り組むスタートアップとして、日本企業の「LPixel(エルピクセル)」を例に挙げた。スタートアップ支援は、AI活用の新たな機会やその方向性を知る意味でも重要という。今後は創薬などがAI活用のフロンティアとなる傾向が見えてきているとのことで、今後はメンバーとなっているスタートアップを製薬会社に紹介する意向を示した。

こうしたスタートアップ支援の一方で、米・マサチューセッツ総合病院などの大手研究病院との提携や、大手医療機器メーカーでもあるGEとの提携など、大手機関・企業との提携も進めている。直近では、キヤノンメディカルシステムズと提携し、画像診断におけるディープラーニング活用を加速する動きを見せている。

終盤、パウエル氏は医療画像に特化したプラットフォームを立ち上げた意図についてコメント。画像診断に携わる専門職の人々は、IT化にばらつきの見られる医療現場において先駆者的立場であるため、医療画像からアプローチを進めることで、そのメリットを目の当たりにした他の医療専門職にも、自分ごととしてAI活用に関心を抱いてもらえるのでは、という狙いもあったという。

そして、研究開発の商用化に関してはめざましい発展があり、超音波、MR、CTなどの新製品に同社GPUが搭載されているなどの成果について強調。AIヘルスケア市場が60億ドル規模まで成長するという予測を示した上で、ゲノム、創薬、早期検知といった画像診断以外の医療領域でAIが活用されていく展望に期待を寄せ、場を締めくくった。
(杉浦志保)

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