2018年4月25日、NHKのスクープで発覚した元TOKIO山口達也の強制わいせつ事件から3週間。毎日のように時間を割いたテレビの情報番組やワイドショーの報道も、ようやく落ち着いてきました。

 今回の一件は様々な問題がありました。山口達也がどうして女子高生を家に呼んだのか、彼のお酒の飲み方にどんな問題があったのか、今後TOKIOの活動はどうなるのか、そして契約解除された彼は被害女性にどう贖罪し、ジャニーズ事務所や他のメンバーは彼とどう向き合うべきなのか……。

 ただ、私は一連のテレビなどでの議論を見て、少し不満を抱いていました。そのようなことも、確かに大事だと思います。しかしそれだけでなく、社会にとって大切なのは、この事件から何を教訓とするのかだと思うのです。残念ながら多くのテレビではその点について、あまり議論されていないように感じました。

スクリーニングテストという物差しで振り返ってみる

 というのも、明らかにされた山口達也の事件当日の様子や過去の行状などを見聞する限り、やはりこの事件は「アルコール依存症」の問題を避けては論じられないと感じるからです。

 未成年への強制わいせつ事件は、あくまで本人の責任であり、決してアルコールのせいにしてはならないのは当然のことです。しかし、医療問題を長年取材してきた立場から見ると、今回の一連の問題はアルコール依存症と正面から向き合わない限り、乗り越えることはできないと思うのです。

 TOKIO4人の会見で、松岡昌宏は、「各方面のプロフェッショナルな方に聞いて、正直、僕らは山口がアルコール依存症なんだと思いました。でも、いろんな病院に診断を求めても、アルコール依存症っていうのは出てないんです」と明かし、「そうやって(診断書を)書いてくださった方が僕らも納得できるんですけど」と心情を吐露しました。

 このようにアルコール依存症の診断というのは、簡単にはできないのかもしれません。ですが、自分や自分の家族、親しい人がアルコール依存症ではないかと心配になったときに、参考にできる物差しが存在しないわけではありません。

 アルコール依存症治療で国内有数の施設に、国立病院機構久里浜医療センターがあります。そのホームページに「久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)」(男性版および女性版)が公開されています。男性版の場合、質問10項目のうち4項目(4点)以上あてはまると、「アルコール依存症の疑い群」となります(女性版は8項目のうち3項目以上)。

「酒を飲まなければいい人だとよく言われる」

 このテストの中には、「糖尿病、肝臓病、または心臓病と診断され、その治療を受けたことがある」「二日酔いで仕事を休んだり、大事な約束を守らなかったりしたことが時々ある」「酒を飲まなければいい人だとよく言われる」「朝酒や昼酒の経験が何度かある」といった項目があります。

 山口達也は事件を受けての会見で、お酒の関係で肝臓の調子が悪かったため、1ヵ月ほど入院していたが、事件当日に退院して酒を飲み、夕方から1人で酒を飲んでいた(つまり昼から飲んでいた)と明かしています。

 さらに、TOKIO4人の会見のとき、山口の酒の飲み方を問われたリーダーの城島茂は、「現場で酒の臭いをさせていることは確かにあった。仕事後に『今日はごめんな』、と謝られることもありました」と答えています。

 また、松岡昌宏も、「『昔から今まで、迷惑を掛けても、何度も何度も同じことをしてしまう』と言っていました。そういうことを言われてしまうと、『また次やるな』と僕らは思った」と語っています。

 これだけの事実をとっても、山口達也がスクリーニングテストで4点以上となるだろうことは、想像に難くありません。つまり、アルコール依存症の専門医療機関を受診して、治療を受けても不思議でないレベルだったと考えられるのです。

酒の匂いをさせて出社し、クビになってしまった会社の先輩

 そもそも、かつて取材した専門医によると、勤務中に酒の匂いをさせていたり、酒によって仕事での失敗を繰り返す人は、それだけでアルコール依存症の可能性が高いと言います。ある程度の規模の職場で働いていたら、そのような人が身近にいる経験をした人も多いのではないでしょうか。

 実は私にも経験があります。若い頃に勤めていた会社の先輩がそうでした。その先輩は、行きつけのスナックで飲み明かし、翌朝、赤い目で酒の匂いをぷんぷんさせながら、しばしば遅刻して上司に怒られていました。それでも能力の高い人だったので許されていましたが、何度か取引先との約束をすっぽかし、とうとう会社をクビになってしまいました。

「地獄を見たければ、アルコール依存症者のいる家庭を見よ」

 アルコール依存症者は仕事で失敗を繰り返して、失職してしまう人が少なくありません。また、家でも暴言、暴力を繰り返し、仕事をしないのに酒に金をつぎ込むので、多くの家庭が経済的に困窮します。依存症者を支える家族も巻き込まれ、精神的に追い込まれたあげく、家庭が崩壊してしまうこともよくあります。「地獄を見たければ、アルコール依存症者のいる家庭を見よ」(全日本断酒連盟ホームページより)という言葉もあるくらい悲惨なのです。

 アルコール依存症者が回復するには「断酒」、つまりお酒をきっぱりやめることが不可欠です。そのためには、専門医療機関で治療を受けるとともに、各地の「断酒会」などの自助組織に参加して、同じ依存症者たちと励まし合いながら、断酒を一日一日続けていくしかありません。

 しかし、職場でアルコール依存症だと思う人がいたとしても、なかなか本人に専門医療機関を受診するよう言えないのではないでしょうか。城島茂も山口達也に対して、「もう大人なので、注意することもあるけれど、あえて言わないこともありました」と語っています。この心情は、私もよくわかります。

 ですが、本人や家族を救うためにも、このままではダメだと思うのです。ジャニーズ事務所ほどの大きな組織であれば幹部だけでなく、マネージャーをはじめTOKIOを運営する部門のスタッフがたくさんいるはずです。彼らが山口達也の飲酒癖について以前から知らなかったことはあり得ないでしょう。

 所属タレントを守るだけでなく、ファンや社会に対しても重大な責任を持つ組織として、アルコール依存症が疑われるタレントがいたら専門医療機関を受診させたうえで、「断酒するまで、ライブや番組には出演させない」くらいの強い態度で臨むべきだったのではないでしょうか。それができていれば、仕事を失わずにすんだだけでなく、強制わいせつの被害だって、未然に防げたかもしれません。

本人が依存症だと認めて自ら受診することの難しさ

 もちろん、これはジャニーズ事務所だけに当てはまることではありません。アルコール依存症は「否認の病気」とも言われているので、本人が「アルコール依存症」だと認めて、自分から専門医療機関を受診することはあまり期待できません。暴言や暴力が怖いので、家族が病院に連れていくのも簡単なことではないとされています。

 だからこそ、アルコール依存症を疑われる人がいたら、組織として対応することが重要なのです。もし職場の人たちだけでは難しければ、近隣の精神保健福祉センターや保健所、産業医などに相談して、助けを求めるのも一つの方法です。まずは公官庁や大手の企業で、アルコール依存症者の対応マニュアルを作って、社会に範を示してはいかがでしょうか

 ジャニーズ事務所や大手芸能事務所もぜひ、アルコール依存症による被害の再発防止に取り組んでもらいたいと願います。

(鳥集 徹)

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