自らが属する組織を命がけで守るアリが発見された――。侵入してくる敵に立ち向かい自爆攻撃であの世へと道連れにするのだ。

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■究極の自己犠牲で巣を守る“自爆アリ”が発見される

 5人の命を救うために、1人の命を犠牲にするのかどうかを問う思考実験はご存じ「トロッコ問題」だが、自然界はそこに新たな解決策を提案してくれるようだ。それは、判断を下す当人がトロッコもろとも“自爆”し、6人全員を助けるという究極のオプションである。この驚くべき自己犠牲をやってのけるのが今回新たに発見された“自爆アリ”である。

 森林において太陽光線を直接的に受ける高木の枝葉が茂る部分を林冠(forest canopy)と呼ぶが、マレー諸島・ボルネオ島の森林の林冠で、新種のアリが発見されたことが先日発表されている。オーストリア・ウィーン自然史博物館をはじめとする国際的な研究チームが発見したこのアリは、なんと“自爆アリ”だったのだ。
 
「Colobpis explodens(コロブピス・エクスプローデンス)」と名づけられたこの究極の“働きアリ”は、巣に侵入してこようとする外敵に立ちはだかり、“自爆”して有毒な黄色い体液を敵に浴びせて侵入を阻止するという、涙ぐましくも痛ましい自己犠牲を行う習性があるのだ。

 カレーの香りがするという黄色い毒液は、“自爆”の前にアゴの後ろの部分から大量に分泌される。そして腹筋を収縮させることで体内に圧力を加えて体表を破裂させ、この毒液をぶちまけるのである。黄色い毒液はノリのようにべたついていて、敵の身体に強力に付着してダメージを与えるということだ。

 生まれ育った社会のために自らの命を投げうって外敵の侵入を阻むアリが自然界にいたとは驚くばかりだ。

■「アリの巣そのものが巨大な生体組織」

“自爆アリ”自体は1916年に初めてその存在が公になったが、1935年以降は見つかっていなかった。今回の調査で研究チームは15種類の“自爆アリ”を特定したのだが、集団を守るために命を投げうって“自爆”する習性を持った種を発見したのは今回が初めてのことになる。

 それまで観察されていた“自爆アリ”は巣から離れた場所での個体間の戦闘において最後に“自爆攻撃”を繰り出すのだが、今回の発見のように集団を守るために“自己犠牲”を行う習性を持つ種は自然界ではきわめて稀である。

“自己犠牲”を行う個体は働きアリの中でも少数で標準的な体格をしている。一方でメジャーな働きアリは頭部が大きく育ち、頭をまるでフタのように使い巣穴をブロックする“門番”のような行動もとるということだ。“自爆アリ”はこの門番を守るようにして自爆攻撃をしていることになる。

「このような“自爆防衛”を図る習性を持つ生物は、アリやハチなどのきわめて社会的な生物種だけに見られるものです。アリのコロニーは個人の家族として扱われるべきではなく、集団そのもののが巨大な生体組織であり、個々のアリは身体の細胞のように働き、それぞれの役割を果たしています」とウィーン自然史博物館の研究員であるアリス・ラシーニー氏は語る。

 ラシーニー氏によればまさにアリは組織の“歯車”ということになる。とはいえこの自己犠牲に徹したアリの“美談”がよからぬ形で利用されないことを願うばかりだが……。
(文=仲田しんじ)

画像:ボルネオ島「Thinkstock」より

画像:ボルネオ島「Thinkstock」より