「憧れの古民家暮らしがしたい」。前編では、購入に関するノウハウをお伝えしましたが、後編の今回は、実際に古民家を購入し、新しい暮らしを手に入れた方々にお話をうかがいました。古民家暮らしの魅力や購入前のアドバイスなど、実際に購入した人たちの暮らしから探っていきましょう。
古民家を購入してカフェをオープン!DIYで心地よい空間を(30代夫婦)

まずお話を聞いたのは、「古民家で暮らしながらカフェをやりたい」と、東京都内から千葉県茂原市に転居。2015年に古民家を改装して「コーヒーくろねこ舎」をオープンしたKさん夫妻(30代)です。
古民家暮らしをしようと思った理由は、もともと夫が山形育ちとのことで、のびやかな環境で自分たちのペースで暮らしたいと考えていたから。「私は東京生まれ東京育ちですが、ゆったり暮らしたいっていうのは誰しも考えることですし、いつか自分でカフェを開きたいと思っていたので、住む場所は都会に限定しなくても」と古民家探しをはじめたそうです。

「数えきれないほど(笑)」物件を見学したKさん夫妻。じっくり探した結果、住む家とカフェが別々で設けられる2棟建て、敷地内に畑が設けられ、お客さんが駐車できる広い敷地など、希望を叶えた現在の場所を見つけました。

そこからはカフェオープンに向けてこつこつDIYで店舗づくり。「電動工具などそれまで触ったこともなかったのですが、いざやってみると大変だけど楽しかったですね」。サンダーで削ったり、床板をくぎ打ちしたり、少しずつ自分たちの色が広げていきました。「古民家ははじめて訪れてもどこか懐かしい空間が魅力だと思います。もともと好きだった古道具店めぐりや雑貨収集などもより楽しくなりました。テーブルや椅子も古道具を使っていくつか自作しているのですが、ちょっと曲がっていたりしても、この空間だから味になるというか」。そんな魅力を発見しながら、つい長居したくなる古民家カフェができました。

壁の漆喰塗から床の張り替え&自然塗料による塗装、近隣の古道具店などから手に入れたテーブルや椅子をカスタマイズ。Kさん夫妻が営む古民家カフェ「コーヒーくろねこ舎」の内装はすべてDIYでこつこつつくり上げられたもの。のんびりした風景と調和する優しい空間だ(写真撮影/山口俊介)

「貯蓄」と「地域共生」 古民家暮らし満喫のための大切な要素

そんなKさん夫妻のように、古民家カフェや古民家パン屋など、古民家暮らしと古民家を活かした事業を両立したいという人が若い人の中で増えています。ですが、Kさんは古民家暮らしには「夢や理想だけでは厳しい部分もあると思います」といいます。

「当たり前だと思いますが、購入前に貯蓄は必要だと思います。もし貯蓄が無かったら、当然生活のためにしたくない仕事をしなくてはいけなくなります。それではせっかくのびやかに自分たちのペースで暮らしたいという理想がかなえられませんよね。だから私たちは目標として、2年はお客さまが入らなくて、赤字になっても暮らしていける額を設定して、貯蓄してから購入しました」。もちろん新築に比べて固定資産税などがかからない特徴はありますが、自分たちの手で維持していくにもお金がかかるもの。住んですぐ引越さなくてはいけなくなるのは避けたいものです。特に事業を行うならなおさら注意が必要です。

もうひとつは近隣の方々とのお付き合い。古民家が立地する多くのエリアは、昔から代々住んでいる人が多く、また、土地ごとに風習、文化が色濃く残っていることも多いのが都会と異なる点です。

「ご近所付き合いは大切にしたほうが良いと思いますね。私はどちらかというと苦手なのですが、夫は得意な性分で、地元の消防団に入ったり、お祭りに参加したり、積極的にコミュニケーションをとって地域に参加しています。人との繋がりが広がっていくといろいろ発見がありますし、自分たちのペースで繋がる感じがすごく心地よいです」といいます。だからこそ「事前に住む地域がどんな文化的背景があるかや、地域の行事が充実しているかなどをしっかりリサーチしておくと良いかなと。そういう文化に積極的に触れられるのも、田舎の古民家暮らしならではだと思います」

「お客様はみなさんのんびり、ゆっくり過ごしていただいています」(Kさん)。古民家独特のどこか懐かしくて、落ち着きを感じる空間はリピーターも多いという(写真撮影/山口俊介)

アメリカの雄大な自然環境に触れ、古民家暮らしを決意

お次は千葉県長南町の古民家で暮らすトモ長谷川さん(50代夫婦と子ども)。実は日本を代表する銃器や刃物の写真家であり、大学時代は夫婦ともに建築学科で日本家屋を専攻していたというマルチな方です。

そんなトモ長谷川さんの古民家暮らしへの憧れは大学生時代。「東京に住んでいたのですが、競技射撃選手だったので、演習などでアメリカ・カリフォルニア州のヨセミテの近くの広大な原野で生活することも多かったんです」。そんな自然の中での暮らしに何度も触れたことから、「日本の都会に戻ってくると、周囲に配慮しすぎたり、自然に触れられない環境に徐々に息が詰まるようになって。また、日本国内で旅をすることも多かったのですが、なぜかひきつけられるように『古民家』の宿を泊まり歩いていて。いつしか古民家で生活したい!と思ったんです」。

自然あふれる田舎暮らしにあこがれて古民家暮らしを決意したトモ長谷川さん。時間を見つけてはさまざまな物件を見学し、現在の立派な長屋門が付いた由緒ある古民家を見つけて購入しました。古民家を購入する前と購入後でどんな変化があったのでしょう?

「私にとってはとても価値ある暮らしができていると実感しています。「自然がリビング」といえる環境を感じながらの暮らしは、都会ではなかなか味わえない。また、良さがどんどんわかってくるのも古民家ならではだと思います。使われている部材はもちろん天然素材で、アカマツなど今では希少な木材ばかり。それが長い年月を経たことにより、風合いやたたずまいに時が刻まれることで、自然がつくった彫刻品に住んでいるような気さえします」

森を背に広大な敷地に建つトモ長谷川邸。こつこつDIYで住まいを改装しながら暮らしている(写真提供/トモ長谷川さん)

(左)周囲に自生する山菜なども満喫。季節や自然を感じながらの食事は格別だそう(右)屋根裏部屋にDIYで子ども部屋を制作した。歴史を感じる梁や柱に囲まれての生活は、新築では味わえないという(写真提供/トモ長谷川さん)

掃除をすれば感動する!最初の印象にだまされないで

そんなトモ長谷川さんに、古民家暮らしを希望する人に向けたアドバイスも聞いてみました。
「実際の古民家探しで絶対に驚くのは最初の見学。古民家は雑然として、思わず「汚い」「ここに住めるの?」ってびっくりすると思いますよ。だから『まずは掃除から』と言いたいですね。自分が真っ黒になるまでぴかぴかにすると、ホコリや汚れの下に、年月を経たからこそ深まった古民家の良さを見つけられると思います。また、よく言われるのですが、最初から大きな改修は考えなくていいと思います。暮らしながら手をかけていく。それも古民家暮らしの醍醐味のひとつですから」

また、トモ長谷川さんが住む千葉県長南町のように、移住促進の補助金制度がある自治体も数多くあるといいます。

【例】長南町若者定住促進事業
・45歳以下の夫婦世帯に対して奨励金(上限200万円)を交付
・リフォーム補助

「自治体サポートのほか、私が古民家探しで相談した千葉房総ねっとさんの「田舎暮らし交流会」のような、先輩移住者からお話を聞けたり、実際の暮らしを見学できる集まりもあります。臆せずまずは飛び込んで、古民家、田舎暮らしの魅力に触れてみてほしいですね」

そんなトモ長谷川さんは、自身の経験を生かして「ウルトラ“古民家”防衛軍」という、古民家を通じた暮らし提案の活動も行っています。木工ワークショップや古民家リノベ見学会など多彩なイベントを行っているので、気になる人はホームページを覗いてみてはどうでしょう。

古民家、田舎で暮らすことで、コミュニティーつくりにも熱心に。「手をかけながら暮らす」という古民家暮らしの醍醐味を、木工ワークショップなどさまざまなイベントを主催して広めている(写真提供/トモ長谷川さん)

トモ長谷川さんが中心となって活動する「ウルトラ“古民家”防衛軍」。古民家を改修することで価値を付与し、有効活用する活動などを行っている(写真提供/トモ長谷川さん)

古民家暮らしの良さは、古民家だからこそ持っている歴史や年月、環境を感じながら暮らせること。そして自分で手をかけて暮らすことへの楽しさのようです。古民家だからこそ体感できる豊かな暮らしは、ますますこれからの家選びの大きな選択肢になっていくかもしれません。

●前編
古民家が欲しいと思ったら? 覚えておきたいノウハウを紹介 古民家購入マニュアル(前編)●参考
長南町若者定住促進事業 / リフォーム補助●取材協力
コーヒーくろねこ舎
ウルトラ“古民家”防衛軍
(山口 俊介)
(写真撮影/山口俊介)