5月半ば、私が驚いたのは玉井投手はもう昨年の半分の試合を投げていたこと。

 ファイターズには「たいしょう」が二人います。一人はご存知、不動の4番・中田翔選手。いつの頃からか年下のチームメイトからは名前ではなく「大将」と呼ばれています。それはマスコミやファンにもどんどん広まり、もう私はお寿司屋さんで他の誰かが「大将!」と呼べば頭の中にはまず中田選手の顔と登場曲が浮かぶくらいです。

 そしてもう一人が、玉井大翔(たいしょう)投手。社会人・新日鐵住金かずさマジックからドラフト8位で入団した2年目の玉井投手、今年26歳。今シーズンの終わりくらいにはお寿司屋さんで「大将!」と誰かが言ったら、私の頭の中は「中田選手」か「玉井投手」かどちらか迷うようになっているかもしれません。そのくらいの活躍ぶりです。

どこで投げるか決まっていない、いざという時に頼りにされる

 佐呂間町出身、旭川実業高校、東農大オホーツクと大学まで北海道で過ごした道産子。高校3年生の時に出場した甲子園では登板機会はなく、ルーキーイヤーの昨年、初勝利が甲子園というラッキーボーイでもあります。その試合も含めて昨年は24試合の登板でしたが、今年はもう既にその半分の12試合にすべてリリーフで投げています(5月15日試合終了時点)。しかもどこで投げるか決まっていない、いざという時に頼りにされる、昨年までで言えば現中日ドラゴンズの谷元投手のような存在と言ってもいいでしょうか。試合数で言えばもっと投げている投手はいますが、まだ5月なのにそのピッチングの中にファンの心に深く刻まれた試合がいくつかあることからも存在の大きさを感じます。

 例えば、4月17日の東京ドーム・ライオンズ戦。先発の上沢投手が源田選手への頭部危険球で3回途中で退場したあの試合。この時、急遽登板したのが玉井投手でした。後で聞けば、あまりに急だったので裏では「玉井ーーーー! 玉井ーーーーー!」と探され、デッドボールの瞬間にはまだ靴紐も結んでいなかったとか。ブルペンでは5、6球、後はマウンドで気持ちを整理せよ。

 その時、セカンドにいたベテランの田中賢介選手が「ほんとゆっくりでいいから、時間はどれだけ使ってもいいから」と声をかけ心を落ち着かせてくれたそうです。そして、1アウトからの登板の玉井投手は丁寧に、浅村選手をバサッ、山川選手をバサッ、山賊2人をきっちり抑えたのでした。

 次に、5月11日、福岡のホークス戦。前夜の京セラドーム・バファローズ戦は延長戦。12回の裏、あと一人というところでまさかの送球ミスで敗れたファイターズ。この悪夢に気持ちも体もくったくたの移動試合、またもや襲い掛かる延長戦……。10回の裏に投げたのは玉井投手でした。鷹を見事に捕えたその投球に応えるかのように11回の表、レアード選手がHRを打って勝ち越し! さぁ、裏は誰が投げるのか??

 わ! 玉井投手なんですね! この緊張感たっぷりの中、イニング跨がせるんですね、栗山監督! まぁ、それで抑えちゃうから素晴らしいんです。玉井投手、今シーズン1勝目の夜。前日の嫌な雰囲気も遠い昔の記憶に変えてくれた神々しいピッチングでした。

思い出す盛田幸妃さんの言葉

 玉井投手は怖がらずに打者のインコースに投げ込んでいきます。実際、デッドボールも多く既に5個(5月15日試合終了時点)。負けん気が強く打者の胸元に曲がりの強いシュートをビシビシ投げ込んでいたあの投手ですらシーズン8個が最多のようですが、この調子でいくと?

 玉井投手が生まれ育ったのは北海道佐呂間町。人口約5200人、サロマ湖周辺での漁業も盛んな町です。道産子選手の活躍の度に思い出すのが、「地元というプレッシャーに負けないでほしい」という盛田幸妃さんの言葉です。引退後、解説者の盛田さんに私は番組で大変お世話になりました。1969年鹿部町の漁師の家に生まれ、函館有斗高校では毎年甲子園に出場し、ドラフト1位で横浜大洋ホエールズに入団、病と闘いながら近鉄でも活躍した「奇跡のリリーバー」。胸元をえぐる強気のシュートが代名詞です。当時のその表情からは想像出来ませんでしたが盛田投手の心の奥にはいつも故郷があったそうです。道南鹿部町も人口は4000人に満たない小さな町。小さければ小さいほど北海道は地元の繋がりが密着です。盛田さんは故郷を思うと家族だけじゃなくいろんな人の顔が浮かぶ、その全部を背負ってる気がしていた、と話してくれました。

 以前、玉井投手にそう話すと「そうなんですね、僕も頑張ろうとは思います、でも、プレッシャーではないですよ」とさわやかに笑ってくれましたが、それを見て空の上から盛田投手がこんな風に微笑んでる気がします。「そんなことねえべ、ゆるぐねえべや」と。そして今のポジションについては同じ言葉でエールを送っているかもしれない。「ゆるぐねえよな、がんばれ」と。(「ゆるくない」=「大変だ」という意味)

 何年か前までファイターズの函館開催試合は5月でした。故郷に近い函館の試合は必ず解説してくださっていた盛田さんの浜言葉をこの季節はより懐かしく思いますが、今年は玉井投手の活躍であのシュートまでも思い出しています。

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(斉藤 こずゑ)

北海道佐呂間町出身の2年目・玉井大翔