●AIだからできた、大量のデータから人間では気づかない相関の発見
○AIを使って約760万点の作品とユーザーとを結びつける

ハンドメイドマーケット「minne」が、AI活用で成果を上げている。minneはGMOペパボが2012年から展開しているハンドメイド作品を扱うマーケットプレイスだ。登録している作家・クリエイターは約42万人、作品数は約763万点、スマホアプリは911万ダウンロードという実績で、C2Cのハンドメイドマーケットの「定番ブランド」になっている。

そんなminneが作品数や会員数が増加する中で抱えた課題の1つが、作品とマーケットの利用者をどう結びつけるかだった。既製品であれば利用者がほしいと思う商品は品番やメーカー名から簡単に探し出すことができる。だが、ハンドメイド作品の場合、作品と利用者がどのような「出会い」をするかに明確な法則性がない。そこで重要になってくるのが、マーケットとしての「場のつくり方」だ。

minneでは、カテゴリーや人気ランキング、キーワード検索、作家ごとの作品ページなどを設け、作品を探しやすくする工夫を行ってきた。また、minneからのおすすめ、ピックアップ、読み物といった作品や作家の魅力を伝えるメディア的な展開にも積極的に取り組んできた。

例えば、カテゴリーは現在、アクセサリー、ファッション、バッグ・財布・小物、ペットグッズ、食べ物など16に分かれており、さらにそれらは数十のサブカテゴリーに分類されている。色や素材、作家などから作品をキーワード検索したり、作家のプロフィールページから、ほかの作品を探したりすることもできる。

GMOペパボ社長室マーケティング統括チームマネージャー 相田傑氏

AI活用のプロジェクトを指揮したGMOペパボ社長室マーケティング統括チームマネージャーの相田傑氏は、AI導入の狙いについてこう話す。

「作品の見せ方や雰囲気の伝え方ひとつが、作品の売れ行きを大きく左右します。運営を続けるなかでそうした多くのノウハウを蓄積してきましたが、中には根拠が明確ではない経験則や暗黙知のようなものもありました。また、これまで蓄積してきた膨大なデータがあったのですが、新しい知見を得るためのデータ活用は十分に進んでいませんでした。AIを使うことでそれらをうまく汲み取ることができないか、約763万点の作品とユーザーとをうまく結びつけられないか、そう考えたことからAIの活用が始まりました」(相田氏)

昨年12月から試験導入を始め、今年2月からAIを活用したデータ分析を本格化させた。すでにマーケティングやキャンペーン施策で効果を確認し、今ではビジネス展開に欠かせない基盤になっている。
○人間では気づかない相関を見つけ、クロスセルに誘導

minneのビジネスは10%の販売手数料で成り立つモデルだ。作品の売れ行きがminneの業績に直結するため、いかに売買金額を増加させるかがビジネス成功のカギとなる。KGI(Key Goal Indicator)もそこに設定されており、AI活用にあたっても、いかに売買金額と取引量を増加させるかが大きなテーマになった。相田氏は「まずは、CRMシステムやアプリでの行動データをもとにアクティブユーザーを予測して、そこに正しくリーチすることで売買金額と取引量を増加させることを目指しました」と狙いを話す。

GMOペパボ社長室マーケティング統括チーム 平木誠氏

日用品を扱う小売業などでは、売買金額や取引量を増加させるアプローチの1つとして併売分析やバスケット分析などがよく行われる。リピート率の高い日用品で併売率を上げることで、継続的に売上を向上させやすくなる。一点モノを多く扱うminneにおいても、カテゴリーをまたがって同時に購入される作品はあったという。例えば、ベビー・キッズのカテゴリーに属する作品とポーチは一緒に購入されるケースが多かった。プロジェクトを推進した社長室マーケティング統括チームの平木誠氏はこう話す。

「お母さんが一緒にポーチを買っていると想像できます。こうした相関はほかにも見られたのですが、それをデータで確認して継続してPDCAサイクルを回すところまでには至っていませんでした。また、minneのユーザーには、最初に購入したカテゴリーのなかでリピートして購入しやすいという傾向がありました。例えば、最初にアクセサリーを買ったユーザーはアクセサリーを続けて購入し、ほかの作品はあまり購入しません。そこで、リピートが多いのにクロスセルができていないカテゴリーを中心に、AIを活用して人間では気づかない相関を見つけ、新規購入につなげていこうと考えました」(平木氏)

GMOペパボ 社長室マーケティング統括チーム 池田あずさ氏

AI活用の背景には、データの量が膨大で、データ分析の手が足りていないという事情もあった。minneでは、CRMデータやアプリのデータをログ収集サービス「Treasure Data」で管理している。それらのデータをマーケティングやキャンペーンの施策に生かすには、データ抽出や分析作業が必要だった。平木氏とともにプロジェクトを推進した社長室マーケティング統括チームの池田あずさ氏は、その際の苦労についてこう話す。

「マーケティングやキャンペーン施策のためのデータ抽出やデータ分析は必要に応じてデータサイエンティストやエンジニア、アナリストの力を借りながら行っていました。ただ、データサイエンティストはGMOペパボの全部門のデータ分析を担当しているため、ちょっとした分析を気軽に頼むことが難しかったのです。また、部門のエンジニアやアナリストにも依頼が集中しやすく、いつでも好きな時に分析できるわけではありませんでした。AIを使うことで、われわれマーケティング担当者だけで気軽にデータの抽出や分析ができるようにしたいと考えました」(池田氏)
○数百万ユーザーから10万人のオーディエンスをAIで抽出

こうしたなかminneが採用したのがAppier(エイピア)が提供するAIを搭載した予測分析プラットフォーム「AIXON(アイソン)」だ。Appierはアジア14拠点で1000を超える組織にサービスを提供する台湾のテクノロジーベンチャーだ。著名VCのほか、ソフトバンクグループ、LINEなどから出資を受けており、2017年7月に日本市場に参入した。

minneがAIXONを採用した理由は、GMOペパボがすでに社内利用していたDSPサービスでの実績を評価したためだ。相田氏はAIXONの魅力について「Webやアプリなどの複数デバイスをまたがって情報を取得できること、AIテンプレートを使ってセルフサービスでデータ分析ができること、FacebookやGoogleなどさまざまなチャネルに広告を展開できることです。minneが抱えていた課題の解決に適していると考えました」と振り返る。

AIXONのAIエンジンは、アジアの約20億のデバイスを通じて収集されたユーザーの行動や嗜好に関するデータをベースにしている。膨大なCRMデータやWebサイトデータ、アプリデータを独自のデータベースに統合し精度の高い予測モデルを作成し、そのモデルをAIテンプレートという機能を用いることで、誰でも簡単に利用できるようになる。

AI分析システムの構築にあたっては、Appierの分析チームとともに、どのようなカテゴリーに対してどのような分析を行うのかを検討し、施策を決めていった。はじめに実施し効果を確認したのは、2つのキャンペーン施策だ。平木氏は、それぞれの狙いについて、こう説明する。

「1つは、プッシュ通知でクロスセルを促すリエンゲージメント施策です。リピート率が高いカテゴリーのうち、われわれだけでは相関が見つけられなかったカテゴリーの1つが食品でした。そこで、既存ユーザーから購入意欲の高いと思われるユーザーをAIで抽出し、食品カテゴリーに属する商品をプッシュ通知でおすすめしました。もう1つは、アプリのインストール広告キャンペーンです。AIで抽出したデータを活用したアプリのインストールを促す広告を展開しました」(平木氏)

minneで購入経験のある数百万ユーザーから、数万人のminneユーザーを教師データにしてAIで抽出した。その効果を検証するために、AIで抽出した場合とランダムで抽出した場合との比較を行った。

一方、アプリインストール広告キャンペーンでは、AIXONで抽出した購入意欲の高いユー ザーデータを使い、類似拡張での配信を行った。

●AIXONで、エンジニアやアナリストに頼ることなく分析作業が可能に
○AI予測で新規インストール数が3倍、売上が2.4倍に

この2つの施策では、驚くほどの差を確認することができた。まず、プッシュ通知を利用したクロスセル誘導では、ランダムに抽出した場合に比べAIで抽出した場合は約2.7倍反応がよかった。また、実際にお薦めされた作品を購入したユーザーの割合(CVR)も、ランダムに抽出した場合に比べ、AIで抽出した場合は約3倍になった。AIの予測が売買金額と取引量の増加に直接的に貢献したわけだ。

平木氏は「既存のユーザーに食品をクロスセルできることがはっきりと確認できました。リピート購入が大きい食品で効果を確認できたため、施策を継続することで、売上の継続的な向上も見込めます。食品のほかにも、リピート購入の高いバッグや財布などでテストを実施し効果を確認しています」と評価する。

バッグや財布は購入単価が高いため食品と同じような数値にはならない。ただ、購入単価が高い分、新規購入率やリピート率を向上させれば売買代金や取引量増加への寄与度は大きくなる。そのためには、施策の結果を見て、AIの予測精度を上げていくことが求められる。

また、池田氏は、リエンゲージメントの効果について「プッシュ通知は1日1種類を同じメッセージで届けていますが、ユーザーの中には欲しくない情報だとして通知を切ってしまう方もいます。minneのエンゲージが弱まる懸念があったのですが、欲しいと思う情報を届けることでエンゲージメントを高めことができるようになります」と話す。

一方、アプリのインストール広告では、比較対象のためにセグメントや配信手法の異なる キャンペーンを同時配信をした。 その結果、AIXONで抽出したデータを活用したキャンペーンは、 詳細なセグメントを設定したキャンペーンと比較してそれぞれ2~10倍のインストール数を獲得した。 また、AIXONを活用したキャンペーンでインストールしたユーザーは購入意欲が高く、 ROAS(広告費回収率)も他のキャンペーンと比較すると、それぞれ2~4倍と今までの配信構成では取りこぼしていた優良な新規ユーザーを効率的に獲得することができた。

AIXONを導入する前も類似拡張を用いた配信は行っていたが、効果があまり見られず停止してい た。 しかし、AIXON導入後は獲得効率を改善しながらもインストール数は3倍まで拡大し、その結果、売上への寄与金額も2.4倍まで増加させることができた。

「これまでキャンペーンを実施するグループは興味関心ごとにセグメントを分けていましたが、拡大することが難しい状況でした。新規インストール数や売上への寄与金額が数倍になることを確認できたのは大きな成果です。仮説検証を進めていけば、さらに効果を拡大することができると思っています」(平木氏)

○ものづくりの可能性を広げ、誰でも創造的になれるように

分析の仮説検証は、AIXONのAIテンプレートを使うことで容易に実現することができるという。例えば、食品カテゴリーで実施したクロスセル誘導施策と同じ施策を、画面をクリックしていくだけで簡単に別のカテゴリーに対して実施できる。また、AIが抽出したセグメントをほかの施策で利用したり新しいセグメントを抽出したりすることもできる。

AIを新しい分野に適用することも容易だ。今後の施策として検討しているのは、プッシュ通知メッセージの最適化だ。一点モノの作品から受ける印象がユーザーそれぞれで異なるように、受け取るメッセージが受ける印象もユーザーそれぞれで異なる。

「誰にどんなメッセージを送れば効果があるのかをABテストを実施して確認しようとしています。今は同じメッセージでプッシュ通知していますが、今後は、例えば、イヤリング、化粧品、パンといった興味関心を持っているとAIXONで分析されたユーザーはセグメントごとにメッセージを変えていこうと思っています」(池田氏)

こうした施策の実施や検証が簡単にできるのはAIXONの大きな魅力だという。これまでエンジニアやアナリストに頼っていた分析作業の多くをマーケティング担当者自身でできるようになった。また、他のシステムとの連携も、一度作業を済ませてしまえば、最新データを常に利用できるようになる。特別な分析を行うたびに何か新しい仕組みを実装する必要はなく、費用対効果も高くなる。

AIではしばしば「なぜその答えがでるのかわからない」ことが利用者の悩みになりやすい。その点、AIXONは予測時に重視した項目を画面で人間が確認することができるようになっている。そのため、予測の理由を探るヒントにすることもできる。

「AIがなぜその候補を選びだしたのかは正確にはわかりません。ただ、マーケティングでよい結果が出たということは、すなわちそれがAIを活用する意味なのだと思っています。AIを使っても、仮説を立て検証していくのはわれわれであり、クリエイティブなマーケティング活動をするのもわれわれです。そういった点から、AIの活用をこれからも続けていくつもりです」と相田氏はこれからを展望する。

minneのモットーは「ものづくりの可能性を広げ、誰でも創造的になれる」だ。作家一人ひとりの違いや作品1つ1つの魅力を見つけ、それをユーザーに正しく届けるうえで、AIはminneの新しい力になっている。
(齋藤公二)

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