5月18日より開の『ピーターラビット』がいろいろな意味でとんでもない映画でした! 何も予備知識を入れないほうがその衝撃的な内容に驚けるので、「ものすごく面かった!」「親子で楽しめる映画です!」ということだけで紹介を終えたいくらいです。

ここからは、なぜ本作が衝撃的な内容となっているのか、どういったところに魅があるのか? 大きなネタバレのない範囲でたっぷりと紹介します。

1:日本版特報と海外予告編とのギャップがすごかった!

まずは、以下の日本版特報を観てみてください。

「楽しくてロマンティックな物語が始まります」という文言もあり、とっても可らしい映画に思えますよね。

ところが、この特報が「海外予告編と全然違う!」ということが大変な話題になっていました。“おもしろ映画宣伝ウォッチャー”として有名なビニールタッキーさんのツイートが、2万リツイートえる大反を呼んだのです。

実写版『ピーターラビット』の日本予告編見たけど海外予告編と雰囲気が全然違うぞ!!?本当に同じ映画なのか!???pic.twitter.com/eHrW90Nbs7

— ビニールタッキー (@vinyl_tackey) January 18, 2018

続いて開された日本予告編は、その大反を見越していたのか「やっぱり思っていた物語と違ってた!」な内容になっていました。

そう、初めにあげた日本版特報よりも、海外予告編および日本予告編のほうが、はるか本編に近い内容になっているのです。“人間とウサギたちが仲良く暮らすゆるふわラブストーリー”なんかじゃなく、“人間VSウサギの壮絶バトル映画”なのです! この“じわじわと本当の内容を示していく”特報から予告編へのグラデーションは味わい深いものがありました。

2:開始数分で人間の尻にニンジンを刺そうとする! パリピなウサギたちの暴挙に笑おう!

前述の予告編の内容に驚いた方に朗報です。本編はもっとすさまじい内容になっています。何しろ、開始数分で主人公のピーターはその“いたずら好き”が高じて、人間のお尻ニンジンを刺そうと企むのですから。その直後の展開はネタバレになるので書けませんが、あっけにとられるほど衝撃的とだけお伝えしておきます。

さらには、ウサギたちは人間のが物顔で占有し、俗に言う“パリピ”のようにどんちゃん騒ぎをしやがります。しかもR18+定がされた映画ウルフオブウォールストリート』にそっくりなシーンも! いいのかこんなことして?(現実では絶対にダメです)

その後は、都会から引っ越してきた神経質で潔癖症の人間と、一歩間違えば死んでもおかしくない戦いを繰り広げることになります。「方やいたずら好きをえて悪巧みが恐ろしいウサギたち、方やウサギの撃退のためには刺殺や爆殺をも辞さない人間。この壮絶バトル行方はいかに?」という物語となって行くのです。いいのかこんなことして?(現実では絶対にダメです)

これらのウサギたち(と対する人間)の暴挙にはドン引きする一方、その“やりすぎ感”にやっぱり笑ってしまいます。劇中に登場する“仕掛け”のこともあり、『ホーム・アローン』を思い出す方も多いでしょう。これは、子ども動物)から大人(人間)の反逆でもあり、それに痛快さも感じるのも当然なのです。

3:原作の児童書とのギャップがありすぎ? でもリスペクトも存分だ!

ここまでの内容を読んで、「ピーターラビットってそういう物語だっけ?」と思った方も多いのではないでしょうか。何しろ、原作となる児童書「ピーターラビット」シリーズは誕生から100年が経過してもなおも世界中の人からされており、売上は全世界累計で2億5000万冊というベストセラーなのですから。読んだことがなくても、あの繊細で可らしい絵柄は見たことはあるでしょう。今回の映画とのギャップを感じるのも当然です。

とは言え、この映画が全くオリジナルへのリスペクトがないということはありません。“カカシにピーターのジャケットを着せている”、“植木鉢をひっくり返して隠れたウサギを探す”などの要素のほか、“ピーターのお父さんは人間にパイにされてしまった”という有名な衝撃の事実も、映画ではしっかり再現されているのですから。

何より、原作の児童書「ピーターラビットのおはなし」は、“いたずら好きのピーターが本気で人間に殺されかけ、命かながら逃げまどうという”という意外にもシビアな話でした。今回の映画版は、原作と同様に本気で命を奪われそうになる危険性を描きつつも、ピーターから人間に思いっきり報復してしまうという、ある意味では原作の“カウンター”とも言える内容なのかもしれません。

なお、監督および脚本を務めたウィル・グラックは本作について「ぼくが一番気に入っているのは、ピーターが怖いもの知らずでいたずら好きなところだ。原作者のビアトリクス・ポターが、ピーターに与えたその特徴を膨らませて、らの時代のストーリーを作る、いいチャンスだと思ったんだ」とっています。確かに、映画のピーターは原作はるかえて怖いもの知らずのいたずら好きになっていましたね(特徴を膨らませすぎだろとツッコみたくもなりますが)。

なお、本作のピーターは前述してきた通りパリピっぽかったり、いたずら好きをえて悪どいことをしていたりもしますが、どこか憎めなくてらしく、その内面にはしっかり優しさをも感じさせます。そこには(詳しくは後述しますが)しっかり現代にも通ずる教育的なメッセージもありました。原作とのギャップは疑いようもなくしいのですが、決して原作の精性をないがしろにはしていないのです。

余談ですが、「ピーターラビット」の原作者であるビアトリクス・ポターの伝記映画に『ミス・ポター』があります。当時の女性への差別的な習や、絵本の出版の難しさ、ポター氏がイギリス地方を守ろうとしていたことなどが描かれており、作品にどういう精が込められたかを伺い知ることができます。今回の映画と合わせて観てみるのも良いでしょう。

4:豪華キャストと音楽も魅力的! 『スター・ウォーズ』のあの人が可愛かった!

本作は字幕版と吹替版が同時開されていますが、どちらもが文句なし、ほぼ璧なクオリティの高さであったことも明言しておきます!

字幕版で主人公のピーターのを演じるのは『ワン チャンス』や『イントゥ・ザ・ウッズ』などでイケてない男に扮していたジェームズ・コーデン。コメディアンであり、歌やダンスも得意な彼が演じるピーターは、“お調子もの”具合がすさまじく、良い意味でらしい見たとのギャップを感じられるでしょう。

もう1人の主人公と言うべき、神経質で潔癖症の男を演じるのは『スター・ウォーズ』新シリーズのハックス将軍でもおなじみのドーナル・グリーソン。そちらでヘタレ悪役キュートに演じていた彼が、これまたらしい“やられ役”になっていて、なんだか性本がくすぐられました。そのの相手を演じるのは『ANNIE/アニー』などのローズバーンで、爛漫でちょっと抜けているヒロインをこれまた魅的に演じています。

その他、ピーターの3人のを演じるのは、『スーサイド・スクワッド』や『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のマーゴット・ロビー、『麗なるギャツビー』のエリザベスデビッキ、『スター・ウォーズ』新シリーズデイジーリドリーとこれまたハリネズミティギーおばさん大人シンガーSIAが務めているのも見逃せません。

さらに、本作がミュージカル映画でもあることも重要です。挿入歌であるフォート・ミラーの「Remember the Name」は映画のために特別に歌詞を変えて登場しており、ヴァンパイアウィークエンドのエズラクーニグが手がけた題歌「I Promise You」も映画の内容にバッチリハマっていました。

英語は聞き取りやすく、牧野琴子さんによる字幕はいい感じにピーターたちのパリピまっしぐらなセリフや、言葉遊びを訳されていています。大人はぜひ、よりパリピ感のあって楽しい字幕版も選択肢に入れてみてください!

5:千葉雄大さん他による吹替版が最高! 日本語のラップをあの人が歌っていた!

吹替版は、何よりピーターラビット役を務めた千葉雄大さんが最高! “根はだけどちょっとふざけちゃう”ピーターの可らしさが前面に出ており、“小憎らしさ”も全には捨ててはいない、絶妙なバランスを保った演技を披露してくれました。しかも、題歌「I Promise You」も日本語で歌ってくれていますよ!

ちなみに千葉雄大さんは、『映画妖怪ウォッチ シャドウサイド 王の復活』でも声優を務めていたほか、同じくウサギ役である『イースターラビットのキャンディ工場』でも主人公日本語吹替を、そもそも『天装戦隊ゴセイジャー』から“の演技”をしていました。吹替の経験がもともと豊富な方であり、その演技を各界から絶賛されていたのです。今回の『ピーターラビット』でも、その安定感が半端なものではありませんでした。

なお、他のキャストプロ声優で固められており、それぞれがキャラクターに見事にマッチしていました。浅沼晋太郎さん演じる神経質で潔癖症の青年はおってもらしく、『北斗の拳』のナレーションでおなじみの千葉繁さんが演じていたニワトリにはもう大爆笑! それぞれが最高のキャスティングであったと断言します!

さらに、スズメたちのラップ(前述の「Remember the Name」)を歌っているのは、元SOUL’d OUTのボーカリストソロデビュー10周年を迎えているDiggy-MO’さんや、ヒップホップアーティスト大神:OHGAさんなどです。挿入歌が披露される時間はごくわずかなので、見事に日本語にローカライズされた歌詞にも聞き入って欲しいです(日本語版のラップ制作はDiggy-MO’さんと大神:OHGAさんのお2人)。

なお、千葉雄大さんの“根はだけどちょっとふざけちゃう”演技はとても素晴らしいのですが、字幕版のジェームズ・コーデンの“全にふざけているパリピ感”も捨てがたいものがあります。このどちらを聞きたいかで、吹替版と字幕版のどちらを選ぶかを決めてみてもいいでしょう。

6:ウサギたちのCGのクオリティが圧巻! 美しい風景にも見とれよう!

本作のウサギをはじめとした動物たちはCGで作られていますが、とてもそうとは思えないクオリティは圧巻です。毛並みのモフモフっぷり、に濡れた時の質感、に吹きかけられた息がくなるなど、ディテールに並々ならぬこだわりを感じられるでしょう。

その本物と見まごうウサギたちと、人間のバトルシーンアクションも迫満点! オーストラリアのVFX会社であるアニマルロジック社は『ハッピー フィート』や『ガフールの伝説』でも、動物たちのとてつもないアクションを作り出していましたが、本作でもスクリーンウサギたちが縦横尽に飛びまわり、時にはボクサー顔負けのパンチを繰り出すのが楽しくって仕方がないのです。

ちなみに、監督ウィル・グラックはしいバトルシーン製作にあたって、「『バンビ』よりも『プライベート・ライアン』のように展開させたい」と考えていたのだとか。確かに、本作のでのバトルシーンは『プライベート・ライアン』っぽかったよ!

それでいて、舞台となるイギリス地方、建築物を美しく撮影する、“実写へのこだわり”も存分にあります。中でもロンドンデパートハロッズは毎日何千人のも買い物客が訪れる繁盛店で、映画撮影が許可されたのは90年前に1度きり、大人数の撮影隊を迎え入れるのは容易ではなく、警備も厳重に行わなければならなかったのだとか。その困難な撮影が報われる、“まるでイギリス旅行に行った気分”になれるというのも、『ピーターラビット』の大きな魅です。

7:教育的じゃないようで、実は教育的だった!?

ここまで、“人間VSウサギの壮絶バトル映画”や“人間のニンジンを刺そうとする”や“これ18禁映画の『ウルフオブウォールストリート』で観たよ”や“バトルシーンはまるで『プライベート・ライアン』”など、およそ子ども向け映画とは思えないことに触れてきましたが、実のところ小さいお子さんが観ても全く問題はありません。いや、むしろ“やんちゃなお子さん”と、その親御さんにこそ観て欲しいと思える、教育的なメッセージが内包されているのです。

なぜなら、“やりすぎた”ということがたしなめられるから。劇中ではピーターも人間側も、ケンカがどんどんエスカレートしてやりすぎてしまい、とある“しっぺ返し”を受けることになります。小さなお子さんが観れば、ふざけすぎたり、ケンカをし続けてしまうことが、いかに不幸を招くかということを学べるのではないでしょうか。

本編には「教育的な映画じゃないよ!」というメタフィクション的なセリフもありますが、これはある種の“照れ”でもあると思います。しっかりと現代に通ずるメッセージは込めるけど、説教くさくはしたくない……そんな製作者側からの「この映画はこういうバランスにしたい」という気持ちが伝わりました。

なお、セリフをよく注意して聞くと、イギリスの階級社会や、普遍的にある差別意識を皮っていることにも気づくことでしょう。子どもだけでなく、大人も学べることがあるはずですよ。

おまけその1:食物アレルギーへの批判を“見越した”セリフもあった?

本作は、食物アレルギーに苦しむ人々からの批判を受けて謝罪をしたこともニュースになりました。実は、それを“先回りして言い訳していた”かのようなセリフが劇中にあったりもするのです。これから邪推するに、製作者側も「いいのかなあ…食物アレルギーをこんなに扱って…」という葛があったのでしょう。

実際の映画を観れば、確かにもう少し食物アレルギーを持つ方への配慮が必要であった、と言わざるを得ません。とはいえ、食物アレルギーを持つ人をことさらに貶めるものでもなく、むしろ「アレルギーをからかうのは絶対にダメ!」という見識も得られるとも言えるので、それほど気にならないという方も多いでしょう。

おまけその2:“ウサギのおでこ合わせ”の意味とは?

ウサギ専門店“うさぎしっぽ”の代表である町田修さんによると、ウサギおでこを飼いさんにくっつけて、撫でてとせがむことがあるのだとか(ウサギにとって、おでこは人間とのコミュニケーションをとる中でとても重要な体の部分なのだそう)。映画本編には、現実ウサギと同じように、ピーターがおでこをくっつけるシーンもあるので、“何を伝えようとしているか”を考えてみるのも良いでしょう。

なお、町田さんによると、ウサギは飼いに対する独占欲が強い動物なのだとか。さらに、ウサギは自身より上のポジションと決めた人に対しては強い情やを結ぼうとする一方で、たとえ毎日食事の世話や掃除をしてくれる人でも、自分よりも下と見れば、つれない態度や攻撃的になってしまうこともあるそうです。まさに、今回の主人公のピーターの性格にそっくり! 現実ではあり得ないウサギと人間との壮絶バトルを描いている作品ですが、現実ウサギの性質もしっかり反映しているのですね。

おまけその3:オススメの“子どもの反逆”が描かれた映画はこれだ!

最後に、『ピーターラビット』と同じく、“子ども(もしくはそれに類する者)の反逆”が描かれた、オススメの5つの映画を紹介します。

1.『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』

端的に言えば、幼稚園児によるギャング団がを強奪したり、不法侵入して住民をふん縛ったりする愉快な映画です。もしくは“「クレヨンしんちゃん」のかすかべ防衛隊実写版”と言い換えても良いくらい、子どもが縦横尽に大活躍していました。それでいて、大人が観るとハッとする社会問題も描かれており、まさに親子で楽しめる映画になっていますよ!

※『世界で一番のイチゴミルクの作り方』についてはこちらの記事も書いています↓
□子ども版グランド・セフト・オートな映画が公開される件 監督に聞いた“教育上問題ない理由”とは?

2.『ぼくらの7日間戦争』

1988年開された日本映画で、今よりもはるかに理不尽だった管理教育に憤った中学生たちが、文字通り7日間に渡る戦争を起こす物語です。少年たちが工場で籠し、次々と大人たちを手玉に取るのは痛快愉快、まだ10代の宮沢りえが瑞々しい魅を放っているのも見逃せません。なお、原作小説2019年アニメ化されることも発表されています。

3.『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』

(C)2017 Florida Project 2016, LLC. 

こちらは現在開中の映画です。低所得者向けの営住宅(プロジェクト)で暮らしている子どもたちを描きつつ、言葉が汚く周りへの対応も最悪な母親の行動を追った物語になっています。子役たちの演技が演技と呼びたくないくらいに自然で、(やっていることは悪ガキそのものなのに)おしくなってくるでしょう。そして“映画でしかできない”情報の提示の仕方、とんでもないラストへつながる伏線が実に上手い! この“魔法”は映画館でこそ体験して欲しいです。

4.『ボックストロール』

日本で大きな話題を集めた『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』のスタジオライカ製作したアニメです。大きな特徴は、気味が悪いけどらしいキャラクター造形と、主人公遇があまりに過酷であることと、悪役があまりにヒドい行いをしていること。大人が観ても面食らうほどの辛辣さ、良い意味でモチワルイ系のネタは、ディズニーピクサーアニメでは絶対に観ることはできないでしょう(とは言え、子どもに観て欲しいです)。ティム・バートンギレルモ・デル・トロ監督の作品が好きな人は気にいること間違いなし。『ズートピア』のような差別問題、『バケモノの子』な疑似家族の要素もありました。DVD&Blu-Ray6月2日に発売です。

5.『オンネリとアンネリのおうち』

(C)Zodiak Finland Oy 2014. All rights reserved. 

こちらは6月9日より開の、フィンランドの児童文学原作とした映画です。これまで挙げた映画のような辛辣さやはほとんどなく、子どもの反逆も「仲良し女の子2人だけのを手に入れる」という可らしいもの。ちょっとだけ魔法が登場するファンタジー要素があったり、40代の大人恋愛が描かれているなど、幅広い世代がほっこりと楽しめる素敵な作品に仕上がっていました。サーラ・カンテル監督によると、本作で重要視したのは“暖かくユーモラスな人生観”であり、中心的なテーマは“想像と連体感”なのだとか。可愛い物語でありながら、大人メッセージも持ち合わせているのです。

まとめ:『ピーターラビット』は親子で楽しめる、申し分のないエンタメ作品だ!

『ピーターラビット』は、徹頭徹尾「楽しい!」と思える映画です。大人から子どもまで気兼ねなくケラケラと笑って、ちょっぴりの“教訓”をも持って帰ることができるでしょう。さらにはミュージカル映画ラブストーリー映画アクション映画の面さも兼ね備えていると……いやはや、親子向けのエンタメ作品とこれは申し分がないではないですか! ぜひぜひ、映画館でご覧ください!

(文:ヒナタカ