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 システムやデータのバックアップというと、必要不可欠ではあるが“色気のない”課題だ。バックアップをどうするか、システム管理者にとって重要な話であることは間違いないが、率直に言って“ときめかない”。できるだけ手間をかけず、さっさと片付けてしまいたい重要課題、バックアップとはそんな存在だろう。

 だが、そのバックアップ分野の専業ベンダーであるヴィーム・ソフトウェア(Veeam Software)が、市場を動かしている。日本市場参入が約2年前ということもあり、国内ではまだ知名度の高くない同社だが、ガートナーのマジッククアドラント(データセンター バックアップ&リカバリ分野)では「リーダー」ポジションを獲得している。

 さらにヴィームは、39四半期連続で2ケタ成長を続けている。2017年の総受注額高は8億2700万ドルと、前年比で36%の成長を果たした。今年2018年は10億ドル到達を目指す。顧客数は300万社に達し、毎月4000社ペースで増加しているという。

 一体、ヴィームとはどんな企業なのだろうか。米国シカゴで開催された「VeeamON 2018」会場で共同創業者のひとり、ラトミール・ティマシェフ氏らに聞いた。

Windows NT用のツール開発からスタート、そしてVMware環境に目を付ける

 ヴィームは2006年、ロシア出身のティマシェフ氏が、同じくロシア出身のアンドレイ・バロノフ(Andrei Baronov)氏と共に立ち上げた企業だ。その社名は「VM(ヴィ・エム)」の発音に由来する。

 実は、ヴィームは2人が立ち上げた2社目の企業である。1995年、物理学を学ぶために米国オハイオ州立大学に留学していたティマシェフ氏は、ルームメイトだったボロノフ氏と共に、PCパーツを作るオンラインビジネスを始めた。さらに、当時登場したばかりのWindows NT向け管理ツールも開発、販売するようになる。「作ったものをサイトに置いて、欲しい人がダウンロードすると売上になる。ソフトウェアってすごいと思ったよ」。ティマシェフ氏はそう振り返る。

 ティマシェフ氏らが設立したアエリタ・ソフトウェア(Aelita Software)というベンチャー企業は、その後のWindows NTの普及、そしてWindows 2000やWindows Serverへの進化と歩調を合わせて成長していった。最終的には2004年、アエリタはクエスト・ソフトウェア(Quest Software)に買収される。そのソフトウェアは現在でも「Migration Manager」などとして提供されている。

 アエリタの売却後、ティマシェフ氏が目を付けたのがVMwareだ。当時、仮想マシンの利用が徐々に広がり始めており、ティマシェフ氏は「新しいWindows NTになる」と直感したという。

 かくして2006年、ティマシェフ氏らは、VMware仮想環境関連のツールを開発するソフトウェア会社としてヴィーム・ソフトウェアを設立した。当初はバックアップだけでなく、仮想環境のセキュリティや設定、モニタリングなど複数のツールを開発していたが、2008年にはバックアップにフォーカスすることにした。その後の“快進撃”は前述したとおりだ。

「中立」をキーワードに大手ベンダーとのパートナーエコシステムを構築

 すべてパートナー経由での販売モデル、非公開企業での経営など、ヴィームという会社にはユニークな特徴がいくつかある。「アエリタでの失敗を教訓に生かしている。ヴィームも完璧ではないが、失敗の数は減ったよ」とティマシェフ氏は笑う。「そして、仮想化のバックアップという分野で我々はリーダーになった」。

 同社で製品戦略担当VPを務めるダニー・アラン氏は、ヴィーム製品が顧客に受け入れられている背景には「とにかく動作する(It just works)」という点があると分析する。ヴィームは後発ベンダーだが、顧客がシステムを更新する際にバックアップの刷新も提案するのが同社の戦略であり、実際にそれが典型的な導入のかたちになっているという。

 そのため、パートナーエコシステムの構築を重視してきた。グローバルアライアンスパートナーにはヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)、ネットアップ、マイクロソフト、デルEMCなどが名を連ね、最近ではピュア・ストレージとの提携も発表している。チャネルパートナーは5万5000社を数える。

 VMware仮想環境に固執しているわけではなく、事業フィールドはHyper-V仮想環境、クラウド環境、物理環境のバックアップにも拡大している。法的な理由で本社を置くスイスのように、ヴィームにとって「中立」は一つのキーワードだ。ともすれば競合になりかねないIBMやデルEMCとも組んでおり、ソフトウェア事業を切り離したHPEとは密な関係を築いている。

 技術面でも、顧客ニーズの変化に合わせて柔軟に対応してきた。オールインワンでバックアップが管理できるように、UNIX系システムのバックアップ機能も統合している。

次なるトレンド「マルチクラウド」に照準を合わせて

 ティマシェフ氏が、かつてのWindows NTや仮想環境のように「次に来るトレンド」と捉えているのがマルチクラウドだ。

 「オンプレミス環境では、ヴィームは独占的な立場と言える。だが企業はクラウド、それも複数のクラウドを利用するマルチクラウドへと進みつつあり、この領域で新たなデータ保護製品が求められている」(ティマシェフ氏)

 そう考えたヴィームでは今年、創業以来初めての本格的な買収を行った。AWSのIaaSデータを保護するバックアップ製品を手がけるN2WSだ。また、Microsoft Azureにデータをバックアップし、AzureをDRサイトとしても使える「Veeam Recovery to Microsoft Azure」も提供している。IBM Cloudとの協業ではヴィームのエージェントを提供する。さらに「Office 365」のデータ保護も実現しており、今後はSaaSやクラウドネイティブアプリケーションの保護も対応を拡大していく方針だ。

 ティマシェフ氏とバロノフ氏について、1年前に入社した米国パートナーセールス担当VPのケヴィン・ルーニー(Kevin Rooney)氏はこう説明した。

 「幹部ミーティングで競合製品の機能を分析していたら、一番奥に座っていたティマシェフ氏がすくっと立ち上がってこう言ったんだ。『アンドレイ(ボロノフ氏)と彼のチームは、やるとなればなんでも開発できる。ヴィームのプラットフォームは競合をはるかに超えた機能を構築できる』。――ゾクゾクっとしたよ」(ルーニー氏)

 ティマシェフ氏は物理学者からシリアルアントレプレナーとなった。成功の秘訣は何だろうか。そう尋ねると「正しいタイミング、正しい場所、素晴らしい製品。この3つが揃う必要がある。揃ったら次は、セールスとマーケティングだ」と答えた。

 現在のヴィームはバックアップ、データ保護よりもさらに大きなビジョンである「ハイパーアベイラビリティ」を掲げている。ティマシェフ氏は、バックアップにとどまらない野心をヴィームで抱いているようだ。

“色気のない”市場で39四半期連続2ケタ成長、ヴィーム共同創業者に聞く