最近、SNSでよく見かける本がある。『フリーランス、40歳の壁――自由業者は、どうして40歳から仕事が減るのか?』(著・竹熊健太郎/ダイヤモンド社)である。タイトルが強烈だ。本を読んでいるのはフリーランスや編集者など、物書き業界の人が多く、SNS上では「自分も同じようなことで悩んでいる」といったコメントが目立つ。個人的に、ネット上の発言というのはあくまでポーズであり、実際はもっと深く悩んでいるのではないかと思っている。

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 本は、序章からズキズキする内容だった。著者の竹熊健太郎氏は80年代前半からフリーランスで活躍。相原コージ氏との『サルまん サルでも描けるまんが教室』(小学館)が代表作で、ベストセラーとなる。その後、マンガ原作、ライターなどに携わり、2008年には京都精華大学の専任教授となるが、15年に退任。現在は電脳マヴォ合同会社を起業し、運営している。

 このように書くとカッコよく聞こえるが、実際は試行錯誤、紆余曲折の繰り返しだ。脳梗塞で倒れたこと、警備員のアルバイトをしていたこと、発達障害を告白したこと、多重債務者に陥っていたことなど、いちいち衝撃的だ。

 身もフタもない失礼なことを言うが、筆者はこの本を読むまで竹熊健太郎氏のことを知らなかった。代表作についても知らなかった。フリーランスと聞くと、「お気楽でいいよね」「自由に働くことができていいね」と思われるかもしれないが、多くの人が「消費」されていくのだ。

 筆者も著者デビューして11年が経ち、これまで商業出版で約40冊出し、50万部売ってきた。メディア出演も連載も多数あり、最近は国会や官庁の委員会に参考人として呼ばれるようにもなった。でも、いまだに「常見陽平って誰?」という感じである。

 デビューの時期は、評論家の荻上チキ氏やライター・編集者の速水健朗氏と同じだった。批評家の宇野常寛氏よりも早い。言うまでもなく、彼らのほうが売れているし、知名度も高い。ただ、やや失礼な話になるが、彼らクラスでも全国区の知名度とは言えないだろう。読者の中にも「誰それ?」と感じた人もいるのではないか。物書きの世界は残酷なのだ。

●「謙虚」のススメ

 40歳の壁として、竹熊氏は「仕事の相手が全員年下になること」「自己模倣のマンネリ地獄」「結婚&子育て問題」を挙げている。「なるほど」とうなずいてしまった。

 だんだんと仕事の相手は、年下になっていく。それに対して抵抗があるなら、一気に仕事に対する嫌気がさしてくる。自己模倣のマンネリ化とは、同じような内容の仕事の依頼がきたり、ずっと同じことを繰り返しているような気がしたり、やはりやる気を失ってしまう。こうした要因もあって、40代になると仕事が減るのだ。年齢的に生活の問題がついてくるのも言うまでもない。

 いや、ちょっと待てよ。これらはフリーランスだけの問題ではない、サラリーマンも同じではないか。

 フリーランスと同じように、サラリーマンも悩んでいるのであればここで「仕事の相手年下問題」と「自己模倣のマンネリ地獄」に対するソリューションを提案したい。それは「謙虚」のススメである。

 この問題は筆者の中でも起きている。数年ほど前から担当の編集者が自分より若くなった。背景には、同世代やその上の世代がどんどん偉くなっていくこともある。ちょっとエラソーな言い方をすると、一応それなりにキャリアがあるので、「若手に大きな仕事を任せてみよう」と思っているのかもしれないし、「若手でも対応可能な著者だろう」と思われているのかもしれない。ぶっちゃけて言うと、実力派の編集者は、売れっ子の著者を担当するが、そこそこの著者には若手をつけておけという論理もあるのかもしれない。

 竹熊氏は一時、漫画評論(という名の紹介)の仕事が殺到し、逆に嫌になったという話を書いていたが、筆者も一時は他の問題に興味関心がやや移っているのにもかかわらず、就活関連のコメント依頼、執筆依頼が殺到し、嫌気がさしたこともあった。ただ、ここでゴネるのではなく、そういうものだと割り切る必要があるのではないかと思った次第だ。

 会社で働いていても、取引先の担当者が年下ということはよくある話だし、年下が上司になることすらある。そういえば、古巣のリクルートやバンダイでも同世代が経営陣になり始めている。昔の諸先輩たちも会社に残っているが、彼らは元部下のもとで働いている。

 また、仕事で新しいことをやろうとしても、「この商品の営業はお前に任せた」「この仕事、長年経験のある君にしかできないよ」などと言われ、ずっと同じ仕事から離れられないことがある。本当はプレイヤーをやりたいのに、管理職を任されることもある。自分が思い描いたサラリーマン人生は、なかなか描けないのが現実だ。

 そんな悩みを抱えている人にオススメするのが、「謙虚」さである。

●「教えていただく」という姿勢が大切

 では、謙虚さとは何か。難しく考える必要はない。筆者が仕事で心がけていることは、どんな人であっても敬語で話をすることである。自分より10歳下でも20歳下でも、常に敬語で話をする。なぜ敬語を使うかというと、相手に謙虚さが伝わるだけでなく、「この人にはこうで」「あの人にはこうで」とあれこれ考えなくてもいいので、楽なのである。

 担当者が自分の子どもくらいの年齢であっても、その人から「教えていただく」という姿勢も大切にしている。その人は人生経験が不足していても、若者として社会を見ている。彼ら・彼女らが物事をどうみているのかという視点は参考になる。可能な限り、その人の良いところ、強みを探すようにもしている。相手をリスペクトするのだ。

 仕事をしていると、どうしてもマンネリになることがある。そうしたときでも新鮮さを探すようにしている。マンネリ化しているなら、いかに速くできるか、あるいは深くできるかという点にこだわっている。これも、謙虚さのひとつではないか。仕事はさせていただいているという姿勢が大切だ。

 昨今、巷(ちまた)で「人生100年時代」が騒がれている。労働人口の減少や年金などの問題もあって、一生働かなければいけない時代がやって来るだろう。生きていくためには、家がなければいけないし、服も着なければいけないし、きちんと食事を摂らなければいけない。「生きる=働き続ける」と考えると、やはり謙虚でなければいけない。いますぐ、できるはずだ。

(常見陽平)

多くのフリーランスが「消費」されていく