足立区の公立中学校が行った3年生向けの性教育で、「避妊」「性交」など、学習指導要領には示されていない文言が盛り込まれていたことから、自民党の古賀俊昭都議会議員が「不適切な指導がこの中学校で行われているのではないかと思う」と発言。都教委もこれを問題視、区教委を指導した。しかし取材に対し足立区は「都教委の意見は真摯に受けとめる」としながらも、授業については問題なかったとの認識を示した。


■"図解"をめぐって国会論争も…

 性教育をめぐっては、これまでも国会で議論されたことがあった。

 「"お父さんはペニスをお母さんのワギナにくっつけて、精子が外に出ないようにして届けます"と書いてございます。こんな教科書を子供たちに読ませている。許せない」。2005年の参院予算委員会で、学校で使われている教材について、山谷えり子参議院議員が質問。当時の小泉純一郎総理も「これは私も初めて見たんですけどね。この図解入りの…これはちょっとひどいですねえ。これ小学3年生に教えてるんですか?問題だと思いますね」と答弁した。

 その一方、「性教育」ついて、未だ明確な指導方針が定められているとは言い難く、性教育について若者たちからも


 「受けたかな?なんか友達が話していたのでそれで知った」(21歳・男性)

 「はじめて受けたのが小学5、6年で、中2までやった。"そういうこと"をしたら、子供ができるみたいな…。でも、"そういうこと"の内容は詳しくはやってない」(高校1年・女性)

 「(初体験は)11歳。小学5年生だったという。知識はインターネットで習った」(19際・男性)

 と、学校での性教育が実態に追いついていないことも確かなようだ。以前よりも情報が簡単に手に入るようになったインターネット時代に、誰がどのように「性教育」を担うべきなのだろうか。


■性の話題を避ける日本の不思議な感覚

 アメリカ出身のお笑い芸人・パックンは、「アメリカは学区によって制度が全く違っている。敬虔なキリスト教徒が多いエリアは性教育に反対する意見も多く、"婚前セックスは罪""中絶は殺人"という考えを持つ人もいる。僕は高校の体育の先生が冗談を言いながらも色々教えてくれて、バナナを使ってコンドームの使い方を教えてくれた」と振り返る。

 同じくアメリカで教育を受けたタレントのREINAは「私が育ったニュージャージー州では性教育が義務化されていたので、性病から性行為はもちろん、グループに分かれバナナを使ってコンドームの付け方を実習した」と語った。

 日本の私立校で性教育を受け、アメリカの大学に学んだ宮澤エマは「帰国して不思議に思ったのは、テレビのバラエティ番組で性風俗の話をするのはOKなのに、教育的な意味であってもセックスそのものについて扱うのは躊躇していること。この日本独特の感覚について、一度話し合ったほうがいいと思っていた。江戸時代まではそうでなかったのに、明治以降に変わって以降、感覚がそのままなのが不思議だ」と話した。


■1972年までは「純潔教育」…戦後「性教育」史を振り返る

 日本の「性教育」は、これまでどんな変遷を辿ってきたのだろうか。「日本性教育協会」が設立、それまでの「純潔教育」が「性教育」へと変更されたのは1972年と、意外に最近の出来事だ。1985年には日本でエイズ患者第1号が見つかり、性感染症予防のための性教育の重要性が高まり、1992年の学習指導要領改訂で小学5、6年生に「保健」が登場した。同時代の世の中の動きとしては、アダルトビデオや女性誌の「SEX特集」を通じ性に触れる機会が増加、90年代には「援助交際」が社会問題化した。

 そして2002年、「保健」が小学3、4年生に繰り上げられた一方、教育現場への"政治介入"もスタート。同年、東京都立七生養護学校で実施されていた性教育について、都議が過激だと批判したことを機に教員が処分される事件も起きた。「性器の名称を教えることは不適切」都教委は2004年、「性教育の手引き」を改訂としたが、2013年には都議3名と東京都に賠償命令が下ってもいる。


■性交について、学校では説明せず

 一般社団法人「日本家族計画協会」理事長の北村邦夫氏は「1980年代後半から、エイズの問題をきっかけに"性教育をする産婦人科医"として発言する機会が増えたが、同性愛者に対する偏見の解消や、"蚊に刺されたくらいではHIVには感染しない"といった話がメインで、性教育そのものについては語ることが少ないままだった」と振り返る。

 現在、学校で使われている小学3、4年生向けの保健の教科書を見てみると、「女性は乳房がふくらんでくる、男性はひげが生えてくる」など、体つきの変化について紹介。小学高学年に入ると性教育は、理科の範疇となり、「人の生命の誕生」などとして、卵子と精子の写真を用いて解説、子宮の中で子どもが育っていく様子を描いたイラストで掲載されている。しかし、受精に結びつく性交についてはまったく触れられてはいない。


 また、中学生向けの教科書を見てみると、「性ホルモンの働きで脳が刺激を受けて異性への関心が高まる」「異性の体に触れたいという衝動が生じる場合がある」などと説明されており、性感染症予防の文脈で「コンドーム」という言葉が出てくるが、避妊具としては基本的には教えられていない。

 こうした背景には、「寝た子を起こすな!」という反対意見が根強いことが挙げられる。北村氏によると「教えたら使いたくなるだろう。教えたらセックスしたくなるだろうという思いが大人たちの側、教育界、文科省にあるのだろう。しかし、習っていないからこそ大胆になってしまう。性教育には、寝ているのではなく、目を覚ましている子の目をもっと見開かせようという意図もある。実は性的マイノリティの問題なども含め示していくことで、性交開始年齢が遅くなるデータもある」と指摘。昨今セクハラ対策が話題になっていることについて「順序が逆だろう。性教育がちゃんと行われていないから、セクハラ問題が起きるんだというメッセージが届いた」とコメントした。


■「家庭で明るく話せるようにすべき」

 日本の中学生の性情報の入手方法でもっとも多いのは「友人・先輩」、続いて「学校」だが、「インターネット」「マンガ・コミック」も高い数字を示している。

 「とにかく明るい性教育『パンツの教室』」を主宰する元看護師・のじまなみさんは、「"寝た子"はもうとっくに起きている。幼児でもネットで情報を得られてしまう。うちの2歳の娘もYouTubeでアンパンマンの動画を見ていて、エッチな動画のサイトに飛んでしまっていた。スマホを持っている小学生が過半数に達する時代、ピュアでいてほしいというだけでは時代に合わない」と指摘。

 「学校の先生、親御さんもそうだが、自分たちの子どもを守りたいという思いがすごく強い。しかし今の子どもたちは小学校2、3年でエッチな動画を見てしまっている。初めて見たものが仮に暴力的なものであれば、それが普通だと思ってしまう可能性もある。とにかくセックスをしてしまったら小学5年生でも赤ちゃんができるということを知っておくのが大事だ。やんちゃな子だけではなく、真面目な子も生命が宿るなんて思わずにセックスをしてしまっている実態もある」。

 厚生労働省の2016年のデータによれば、14歳までの年間出生数は46人、中絶数は220人、15歳ではそれぞれ143人、619人に上っている。

 のじまさんはこうした状況を受け、親たちが子どもに楽しく「性」の話ができるよう「性教育のやり方」を教えてきた。恥じらいを見せる母親たちを叱咤激励しながら、母親たちに男性器にまつわる知識などをレクチャーしていた。

 また、子どもと一緒に遊べる性教育のカードゲームを使って指導する。さまざまな動物の「オス」「メス」「交尾」の33枚のカードを揃えるのがルールだ。そろったときの掛け声は、「受精!」だ。異性の交わりで赤ちゃんができる。大はしゃぎの子供たちを前に、母親は「私も最初はセックスと言えなかった。でもこれでやっているうちに徐々に慣れて恥ずかしくなく、笑顔で普通に言えるようになった。それが大事じゃないかなと思う」と話した。


■これからは"冠"を意識することも必要

 一方、北村氏は「親がそれぞれの家庭で話せばオッケーではなく、すべての子が知識を持っていることが、悲しい事件を防ぐためには必要。その意味で、性教育を親に課すのは酷な部分もあるので、学校がやってくれると助かる。そこで僕のような産婦人科医が学校教育の中でしっかりと科学的に、時は具体的な話をしてあげることも大事だと思う」と話す。

 「性教育という言葉自体にも問題意識がある。例えば男の子と女の子の関係性を考えることも性教育だし、性的マイノリティの問題、中絶、避妊、結婚なども性教育だと言える。それらをいっしょくたにして議論を進めてしまうことで、"小学生にセックスを教えるのか"といった横槍が入ってしまう可能性もある。だから"避妊をテーマにした性教育""性感染症予防のための性教育"など、"冠"を意識することも必要だ」。

(AbemaTV/『AbemaPrime』より)


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