社員に副業を認める会社が増えている。政府も「働き方改革」の一環として、これを後押ししている。だが世間には「企業の本音は人件費の削減なのではないか」という見方がある。これは本当なのか。日本総研の山田久主席研究員が企業・個人双方にとって望ましい副業のあり方を提案する――。

■厚労省も原則禁止から許容にガイドラインを改定

このところ副業を認める企業が増えている。政府が働き方改革の一環として推進していることが影響しているとみられるが、企業が中高年の賃金カットへの補填やリストラにつなげるステップとして位置付けている、との見方もある。従来副業・兼業を原則禁止としてきた企業に変化がみられる背景には何があるのか。

政府は「働き方改革」の一環として、副業・兼業の推進を掲げている。2017年3月28日に発表された「働き方改革実現計画」では、副業・兼業は「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の一手段として位置付けられている。

より具体的には「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効である」としたうえで、「副業・兼業を認めている企業はいまだ極めて少なく、その普及を図っていることは重要である」と記されている。こうした方針を受け、厚生労働省は2018年1月、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表するとともに、従来は副業・兼業を原則禁止としていたモデル就業規則を見直し、原則許容する形に改定した。

こうしたなか、企業の間には副業・兼業を認めるケースが徐々に広がっている。人材紹介大手のリクルートキャリアが中小企業庁委託事業として、2014年11月から15年2月にかけて行った企業へのアンケート調査では、「推進している」が0.0%、「推進していないが容認している」が14.7%であった(※1)。同社が2017年1月に独自に行ったアンケート調査では、「推進している」が0.3%、「容認している」が22.6%となっており(※2)、緩やかに広がる動きがみられる。今年に入ってからも、新生銀行やユニ・チャームが副業を解禁したとの報道が伝えられている。

このように企業が兼業・副業に対して、前向きな姿勢を示すようになった背景には何があるのか。導入企業の多くは、従業員が新たな知見を獲得したり、これまでになかった人脈を形成することにメリットを置いている。それが従業員のモチベーションの向上や能力・知見の幅を広げることで、いわば間接的に本業のプラスになる効果を期待するというわけである。

直接的でわかりやすい理由は人材確保であろう。なかでもインターネット関連をはじめとしたベンチャー企業では、深刻化する人手不足が深刻化しており、優秀な人材を獲得するため、兼業・副業を認めるとの面が大きい。最近は商品を自らのサイトやブログで紹介して報酬を得るアフィリエイトを手掛けるなど、学生時代からビジネスで収入を得ている人材も増えており、彼らを採用するには副業を認める必要がある、といった話も聞く。

人材不足はこの先一層深刻化する見通しであり、それが副業解禁の追い風になる状況は今後も続くだろう。すでに指摘したように、政府は副業・兼業を推進する方針でありそうした政府のスタンスも副業普及の後押し材料になる。

(※1)中小企業庁「平成26年度 兼業・副業に係る取組み実態調査事業 報告書」(2015年2月)http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/nyusatsu/2016/161128kengyo1.pdf
(※2)株式会社リクルートキャリア「兼業・副業に対する企業の意識調査」(2017年2月)

■「企業の下心は人件費削減」は本当か?

ここで検討しておく必要があるのは、「最近みられる副業許容の動きの背後には、企業が人件費を削減したいという下心があるのではないか。現状はそうでないにしても、今後そうした形で広がるのでは」という見方があることだ。

中高年の賃金カットへの補填手段や、セカンドキャリアとして他企業に送り出すステップとして位置付けられるのでは、というわけだ。人手不足が深刻化しているとはいえ、社内に中高年の余剰感を持つ企業は少なくないのが実情であろう。この先、80年代後半のバブル期の大量採用世代が本格的な中高年期を迎える。加えて、「同一労働同一賃金」の導入で非正規労働者の処遇改善が求められれば、どこかでこれに対応するための人件費を捻出しなければならない。

政府も副業・兼業を「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段」としてのほか、「第2の人生の準備」としても位置付けている。個人としても、平均寿命が延びる一方、公的年金支給額は今後抑制されていく方向にある。50歳代後半には役職定年、60歳前半は継続雇用となり、重要ポストから外れるとともに賃金が大きく削られる。ならば、副業・兼業で転職や独立の機会を得ることができれば、働きがいや老後収入を増やすことができる。このように考えれば、中高年の兼業・副業の推進は、「下心」があろうとなかろうと、企業・個人の双方にプラスになるように思える。

しかし、現段階で、とくにこれまで暗黙も含め終身雇用を標榜してきた企業が、そうした思惑のもとで中高年の副業の奨励や、さらに進んで「50歳代は賃金大幅カットだが副業を積極的に認める」といったことを行うのは危険である。そうなれば中高年従業員は本業でのモチベーションを一気に低下させ、せっせと副業にいそしむようになるだろう。彼らが単に会社に居るだけに近い状態になると、しわ寄せは若手・中堅に行くことになり、全体のモラールが低下して職場崩壊につながりかねない。副業許容とセットで大幅な賃金カットが行われる場合、そもそも不利益変更だといって従業員の反乱を招く恐れもある。

こうした事態となるリスクがあるのは、わが国での企業と従業員の関係が、親子関係にも例えられる「パターナリズム」の状態に、依然としてあるからである。企業は職業人生を通じて面倒をみてくれるから、仕事最優先ですべてを企業に尽くす、という関係である。こうした関係の維持が困難なことに多くの労働者はうすうす気づいているが、企業の方からそうした関係の解除をにおわすことがあれば、一気に信頼関係が崩れ、必要以上のマイナス行動を誘発してしまうリスクがある。

■多くの企業の本音は兼業・副業の推進に慎重

もっとも、現状ではそうした動きはほぼ見られず、大半の企業は副業そのものに慎重であるのが実情だ。上のリクルートキャリアの調査でも、8割近くが禁止と答えているし、経団連も「旗を振って推進する立場ではない」(※3)と、慎重姿勢を示している。こうした背景には、基本的には副業が本業にとって悪影響を及ぼすことへの懸念がある。

副業を持つことで、時間的にも心理的にも企業へのコミットメントが低下して、本業がおろそかになることへの危惧がある。加えて、秘密漏えいや競業行為となることで会社に損害を与えることへの心配もあろう。さらに、このところ企業が従業員の労働時間や健康維持の管理を厳しく問われるなか、副業が長時間労働や過重労働を助長することを懸念している面もある。

社員としても、安易な副業はリスクが大きい。副業が解禁されたとしても、社員として(1)本業専念義務(職務専念義務)、(2)秘密保持義務、(3)競業避止義務を順守する必要があり、これに違反すれば、解雇を含む懲罰の対象になりうる。

さらに、本業プラスアルファでの仕事が増えるため、どうしても拘束時間が長くなり、過重労働になりやすいことも十分に認識しておく必要がある。とくにフリーランス(雇われない事業主としての立場)として副業を行う場合は、副業に費やす時間は労働基準法が対象とする労働時間には当てはまらず、基本的に自己責任で管理をするしかなくなる。さらに、副業のために大けがをし、本業も休まざるを得なくなっても、あくまで副業の賃金を算定基礎として補償がなされるだけである(※4)

(※3)2017年12月18日、記者会見における経団連・榊原定征会長発言
(※4)新井太一「副業・兼業を許可する際の実務対応ポイント」『労政時報』第3943号(2017年12月22日)

■企業・個人双方にとって望ましい副業とは

以上のように、副業・兼業にはさまざまな課題があるのが実情であり、安易な推進は禁物だ。しかし、それは法律上そもそも否定できるものではないし、実は適切な形で普及すれば企業と個人の双方に恩恵をもたらすものである。そのためのキーワードは「個人の成長+本業への貢献」である。

そもそも成功したキャリアを築くには、「一皮むけた経験」(※5)が重要であり、それには「目の前の仕事に必死になる」――つまり本業に打ち込むことが最も近道である。副業も、本業で得た知見をもとに書籍を書いたり、講演を引き受けたりするといったものが理想型である。それは本業の在り方を改めて振り返る良い機会になり、外部との人脈も広がる。結果、多角的な見方ができるようになり、本業の能力を一層発展させることに貢献する。そのほか、例えば、広報関係の仕事を本業とする人が、自力で学習したウェブデザインの技能をクラウドソーシング(ネット経由の業務請負)で副業として磨き、将来の本業の幅を広げるというケースも考えられる。

そうした「個人の成長+本業への貢献」につながる副業は、働き手を真の「プロフェッショナル」に鍛え、「キャリア自律」を可能にする。企業が役割・成果型の人材マネジメント(※6)を行うことで、従業員のプロフェッショナリティーは一層磨かれ、企業と個人の関係は支配従属による「パターナリズム」型から、相互信頼に基づく「パートナーシップ型」に進化する。つまり、副業は上手く活用することで、企業競争力の強化と個人の成長の両立をもたらすのである。

そうした段階では、「50歳代は賃金大幅カットだが副業を積極的に認める」(もっとも、真のプロフェッショナルであれば、本業の給与も大幅削減にはならず、副業を含めた年収は増えることになるだろう)としても、職場崩壊にはつながらない。プロフェッショナルとして、役割期待に応じた働きをしっかりこなすであろうし、そうしたキャリア形成の在り方は若い世代のロールモデルになり、彼らの成長と本業への貢献を促すことにもなるだろう。

(※5)金井壽宏『仕事で「一皮むける」』(2002、光文社新書)
(※6)より具体的には、従業員のエンプロイアビリティー(転職可能な能力)の開発に積極的に関わる一方、年功序列ではなく能力や成果に応じて処遇する人事管理の在り方。ただし、企業は組織能力を重視したマネジメントを行い、個人もチームワークの重要性を認識し、互いにウィン・ウィン関係を目指す組織風土を構築することが前提となる。

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山田久(やまだ・ひさし)
日本総合研究所 主席研究員
1987年京都大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。93年4月より日本総合研究所に出向。2011年、調査部長、チーフエコノミスト。2017年7月より現職。15年京都大学博士(経済学)。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科兼任講師。主な著書に『失業なき雇用流動化』(慶應義塾大学出版会)

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写真=iStock.com/Zinkevych